■性能至上主義に一石を投じた「パイクカー3兄弟」とは
1980年代の日本の自動車市場ではターボエンジンが急速に普及し、メーカー間でパワー競争が勃発。次々と高性能車が誕生し、パワーこそ正義という時代でした。
そんななか1987年に登場した日産「Be-1」は、初代「マーチ」のシャシをベースに1年間1万台限定で発売された、かわいらしい3ドアハッチバックのコンパクトカーです。
Be-1は、既存のモデルをベースにレトロで先鋭化したデザインを落とし込んだ「パイクカー」の先駆けとなったモデルで、それまでの動力性能や機能を向上させることでクルマの魅力を高めていくという流れのなか、特異なクルマといえました。
エンジンはベースとなるマーチと同様1リッター直列4気筒SOHCで、最高出力はわずか53馬力でしたが、そんな数字はBe-1にとってあまり意味はなかったようです。ただし、600kg台の軽量な車体には十分なパワーでした。
バリエーションはルーフによって2タイプに分かれ、ノーマルルーフの他に当時流行していたキャンバストップも用意され、外装はBMC「ミニ」をオマージュしたようなデザインで、内装も丸を基調としたシンプルかつレトロなデザインです。
Be-1は前述のとおり1万台限定でしたが購入希望車が殺到して抽選での販売となり、中古車が新車価格以上で販売されるプレミア価格となるほどの人気ぶりで、社会現象にまでなりました。
そしてBe-1の成功を受け、1989年にはレトロ調限定車第2弾として「パオ」が登場。
パオもBe-1と同様にマーチのシャシをベースに開発されたモデルで、旅行や冒険気分を味わえるようなデザインコンセプトが採用されました。
ボディは3ドアハッチバックで丸目ヘッドライトを採用し、ボディパネルのプレスラインもデザインのアクセントに取り入れ、往年のフランス製大衆車をイメージしたかのようです。
さらに、クラシカルな印象が強い外付けのドアヒンジ、三角窓、上下2分割のフリップアウト式後席サイドウインドウなども独特の雰囲気を演出していました。
エンジンのスペックはBe-1と変わらず、ノーマルルーフの他、キャンバストップというラインナップもBe-1と同様です。
パオの販売はBe-1の抽選という事態を回避するため、期間内に予約を受けたものはすべて販売するという期間限定受注という方法を採用し、予約期間の3か月間に約5万台の予約を受け付けたほどの人気モデルとなりました。
■クーペスタイルで登場した第3弾「フィガロ」
バブル景気も終焉を迎えようとしていた1991年に、第3弾として「フィガロ」が発売されました。同じくマーチのシャシをベースに開発されましたが、他の2台のように3ドアハッチバックではなく、2ドアクーペのボディで登場。
さらにフィガロは、サイド部を残して中央部がオープンできるオープントップのルーフが採用されました。
インテリアは、コンパクトカーでは珍しい本革シートが採用され、アイボリーのカラーと相まって上質で優雅なテイストに仕上げられていました。
さらにメーターやオーディオなどのデザインもこれまで以上に凝っていて、数字にはクラシカルなフォントを使うなど、内外装とも英国調のスポーツカーといった雰囲気です。
エンジンは76馬力を発揮する1リッター直列4気筒ターボエンジンとなり、オープン化に伴う重量増に対応。クルマとしてのキャラクターもこれまでと異なるコンセプトからか、MTは設定されず3速ATのみとなっています。
販売台数は当初は8000台の予定でしたが購入希望者が多かったため、最終的には約2万台が販売されました。とはいえパオまでの勢いはだいぶ下火となった印象で、話題性という点でもインパクトは薄れていたといえます。
なお、フィガロは日本国内のみのモデルでしたが、生産終了後にイギリスでも人気を博し、かなりの台数の中古車がイギリスへと渡り、今ではオーナーズクラブがあるなど愛され続けています。
※ ※ ※
今回、紹介した3車種は「パイクカー3兄弟」と呼ばれますが、これは後に付いた俗称です。
その後も同様なコンセプトのモデルがありますが、一般的にパイクカーと呼ばれるのはこの3兄弟だけといってよく、それほど強烈なインパクトがありました。
バブル景気とともに誕生して消えていった3兄弟は今も人気が高く、愛好しているユーザーも多数存在しています。
所有することが目的というコンセプトであるパイクカー3兄弟は、現在でも通用するオーラがあるということでしょう。
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みんなのコメント
商用車だったからだろうが、差別せず取り上げてほしいね。