60年以上の歴史ではじめてのミドシップ
text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)
【画像】大きく生まれ変わったコルベット【新型と先代を比較】 全88枚
editor:Taro Ueno(上野太朗)
アメリカを代表するスポーツカーの「コルベット」
「C8」と呼ばれる、2019年に発表された最新モデルは、その歴史においても革命的なクルマである。
最大のトピックはパッケージング。
コルベットは1953年にプロトタイプが公開された初代モデルから一貫してフロントエンジン・リアドライブとしていた。
しかし新型は、60年以上のコルベットの歴史においてはじめて、エンジン搭載位置をキャビン後方に移してミドシップレイアウトを採用したのだ。
理由はもちろん、運動性能向上である。重心を車体後方とすることで物理特性が有利になり、旋回性能が高まるのだ。
ミドシップ化は既定路線だった?
今にして思えばだが、コルベットの開発陣は30年以上前からミドシップ化を視野に入れていたに違いない。
たとえば1990年に発表されたコンセプトカーの「CERVIII」はコルベットとは名乗らないものの、明らかにコルベットを意識したフロントマスクを持ちつつ、エンジンをキャビン後方へ搭載したミドシップだ。
また、その前年となる1989年に発表された「コルベット・インディ」はミドシップの4WD。
市販車離れした雰囲気のいかにもコンセプトカー然とした車両ではあるが、こちらは「コルベット」という名前が付いているのが興味深い。
いずれにせよ、コルベットのミドシップ化は常に描かれていたプランだということが推測できる。
最新のコルベットでは、ついにそれを実現したということだ。
世界を見回しても、フルモデルチェンジを機にエンジン搭載位置をフロントからキャビン後方へ移す例は量産車ではほぼ聞いたことがない。ルノー・トゥインゴくらいではないだろうか。
それは、エンジン搭載位置の変更によりクルマのキャラクターを変えてしまうことであり、その「キャラ変」により従来のファンが離れてしまうことを危惧しているからだろう(乗用車では居住スペースや荷室容量など実用性が変わってしまう懸念もある)。
ネーミングにある軽自動車が影響?
コルベットのフルモデルチェンジに関して、メカニズム面においてはもう1つ見逃せない変化がある。
それはMTが廃止されたことだ。
「C7」と呼ばれる先代モデルは、7速MT、6速AT、そして8速ATと3タイプのトランスミッションを用意していた。しかし新型は8速DCTに一本化。コルベットにおける3ペダルMTの歴史は幕を閉じたのだ。
新型コルベットは、そのミドシップ化を記念するかのようにネーミングにも変化が起きた。
本国などでは「コルベット・スティングレイ」を名乗るのである。
「スティングレイ」とは、1963年デビューの2世代目コルベットに採用され、その後1976年目まで使われていたサブネーム。それが正式に復活したのである。
ただし、日本では用いられず、日本の車名は従来どおり「コルベット」である。
その理由はなぜか?
理由は明確で、商標権の問題である。
「STINGRAY」はスズキの軽自動車(こちらのカタカナ表記は「スティングレー」)に使われていて商標も登録されており、日本国内では他メーカーが自由に使うことができないからだ。
あのGMが右がハンドルを設定 背景は?
スティングレイが使われないのは日本のファンにとっては残念でもあるが、逆に日本市場においては嬉しいトピックもある。
それはコルベット史上初となる右ハンドルの設定。
GMは「右ハンドルを設定しないメーカー」であり、それは日本市場においては不利な面があるのは否めない(かつては右ハンドル仕様もあったが現行ラインナップでは「キャデラック」も含めてコルベット以外の日本向けは全車左ハンドルの設定)。
その理由は、そもそもGMが右ハンドル市場に力を入れていないからである。
販売規模を考えると右ハンドルの制作は非効率的で採算性が悪いのだ。
しかし、嬉しいことに新型コルベットは右ハンドルを用意した。
その理由についてGMは「新型は世界戦略車と位置付けているから」と説明する。スポーツカーやスーパーカーを好まれるイギリスをはじめ、富裕層の多い香港やシンガポール市場なども視野に入れているのだろう。
実は、この右ハンドル設定にはメカニズムの変更も影響していると考えられる。
左ハンドルを前提に開発されたモデルに右ハンドルを用意するには、ステアリング系統やブレーキ系統の配置を左から右へ移す必要がある(ブレーキブースターは移さなくても可能だがその場合はブレーキフィーリングが劇的に悪化するのでスポーツモデルにとっては致命的なウィークポイントとなる)。
だからエンジンルームのレイアウトを変えざるを得ず、右ハンドルのためにエンジン補器類の大変更が必要なことも珍しくない。
しかし、ボンネット内にエンジンがなければ、右ハンドル化のためのレイアウト変更も比較的容易というわけである。
また、トランスミッションからMTが消えたことも、クラッチ操作系統のレイアウトを変更する必要から解放されたので、右ハンドルを作りやすい要因の1つになっていると考えられる。
日本でのデリバリー 予定どおりになる?
そんな新型コルベットの実車が日本で初公開されたのは、2020年1月の東京オートサロン。
同時にスタートした先行受注では、わずか3日間で300台以上の申し込みを受けたことも大きな話題となった。
しかし、それから1年半弱が経つが、日本の公道において新型コルベットが走る姿を目撃されたという話はない。
さらにAUTOCARのような自動車メディアでも日本を舞台にした新型コルベットの試乗記は公開されていない。
実は、日本でのデリバリーはこれからだからだ。
たしかに、昨年8月27日付の日本GMからのプレスリリースでは「デリバリー開始は2021年5月からを予定」とされていた。
昨今、新型コロナウイルスの影響による工場稼働や半導体不足など、新車の生産体制が乱れがちだが、その影響なども気になるところ。
はたして、どんな状況なのだろうか。それも含めて気になったのであらためて日本GMに確認してみた。
「日本でのデリバリーは予定どおり5月からはじまります」
日本GMから答えは、そう力強いものだった。日本の公道で新型コルベットが走る姿を見られるのも、そう遠くないだろう。
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みんなのコメント
アメリカのメーカーの考えが変る切っ掛けに
なると良い。自国では左ハンドル以外の販売を
認めないのに、輸出は他国に合わせないのは
不公平すぎる。
頑張れば必ず売れるよ