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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第12回】3度のPUトラブルを乗り越えたニコ。タイヤの使い方の改善点が明確に

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第12回】3度のPUトラブルを乗り越えたニコ。タイヤの使い方の改善点が明確に

 2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。シーズン前半戦最後のベルギーGPは、今季3回目のスプリントフォーマットでの開催。金曜から雨が降るなか迎えた当日は、安全面で疑問を感じる措置があったという。一方チームとしてのミスも多く、消化不良な形で前半戦を締めくくることになった。

 前半戦を終え、ハースはコンストラクターズ選手権で8位につけている。ここまでのレースではタイヤの問題に苦しみ続けたが、現在は空力の根本的な改革に取り掛かっているのこと。問題の解決に時間はかかるが、チームは正しい方向に向かっていると小松エンジニアは自信を持っている。ベルギーGPの現場の事情と、シーズン前半戦を小松エンジニアが振り返ります。

ハースF1&ヒュルケンベルグ、VF-23のデグラデーション問題の原因を理解も「状況改善には長い時間がかかる」

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2023年F1第13戦ベルギーGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選13番手/スプリント14番手/決勝15位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選20番手/スプリント17番手/決勝18位

 今年はシーズン前半戦の最後のレースがスパになりました。今季3回目のスプリントということで、まずはスプリント・シュートアウトから振り返っていこうと思います。僕たちはSQ1で2回タイヤ交換のためにピットストップをしたのですが、正直これはどうしようもない最悪のミスでした。

 シュートアウトのSQ1ではもう雨は降らないとわかっていたので、最後の数分が勝負になるだろうと考えていました。この時点での僕たちのプランは、最初はコース状況の下見のために出て行って、そのあとタイヤを変えて3周(計測→クールダウンラップ→計測)走るというものでした。最初に出て行った段階でタイヤの温度がすぐに上がったので、3周のプランでは下手したらうちのクルマでは2回目の計測時にタイムが出ないんじゃないかという心配がありましたが、予定通りにタイヤを交換して、2セット目のインターを投入しました。

 アウトラップでもタイヤの温度が上がるのが早いなと思いつつ1周目の計測ラップを始めさせたのですが、ケビンはあまりセクター2で速くなくて、ニコはさらにケビンよりも遅かったんです。このタイヤ温度と速さなら、クールダウンラップを挟んでもう1周アタックしても絶対にタイムが出ないと考え、2台ともまだ一度もタイムを計測していなかったのですが、このままではSQ2には進めないので最後の最後にピットインの指示を出しました。

 僕が心配していたのは残り時間で、前を走っていたケビンは最後のアタックに間に合う計算だったのですが、ニコは厳しいかもしれないという状況でした。アウトラップでもプッシュせざるを得ず、ケビンはなんとかアタックに入れましたが、ニコはほんの数秒の差で時間切れになりました。

 僕のミスというのは、最初から最後のアタックを1周にすると決めていないかったことです。それがベースとしてあればギリギリのタイミングでタイヤ交換をしなくてすんでいました。なかには1回もピットインしないで走り続けるチームもありましたが、うちのクルマだと走り続けるとタイヤを傷めすぎてしまってタイムは出ません。クルマの絶対的な速さが足りていないので、路面が一番いい状態の時にタイヤを最適な状態で使えないとSQ2に進出するマージンはないのです。これをビシッと決められなかったのは残念ですし反省しています。

 ちょっと話はそれますが、スパでは7月に死亡事故が起きたこともあり、サーキット側とレースコントロールがスイーパーのトラックを使って懸命に路面を乾かしていました。これがよく機能しておりコースに出て行った時には思った以上に路面に水がありませんでした。安全第一でセッション開始を遅らせた判断もよかったと思います。

 しかしもっと言えば、そもそもスパでスプリントをやるべきではなかったと思います。スパは有名なオー・ルージュがあるためクルマのセッティングが難しいコースですし、今回のように天候が安定しない週末も多くあります。今回は雨でFP1をほとんど走れず、予選が始まるとクルマのセッティングを変更できなくなるので、あまり得るものがなくリスクだけをとったような気もします。

 もうひとつ気になったのは、スプリント・シュートアウトのタイヤについてです。通常シュートアウトではセッションごとに使用できるタイヤが規則で決まっていますが、レースコントロールがウエットコンディションを宣言した場合はその制限がなくなります。実はスポーティングディレクターのスティーブ・ニールセンが、シュートアウトの直前に「ドライタイヤの使い方を自由にしたくない」という理由でウエット宣言しないとアナウンスしたんです。つまり、もしSQ1とSQ2の最中にドライタイヤが使えるコンディションになった場合には、規則通りにミディアムタイヤで走らないといけないということです。

 基本的にインターからドライにギリギリ変えられるような状況では発熱もよくグリップも高い一番ソフトなタイヤで走ります。ウエット宣言しないことでミディアムタイヤで走らせてどんなメリットがあるのかと疑問に思いました。タイヤの数的にも、この段階ではソフトの方がみんな多く持っています。ウエット宣言してチームそれぞれの判断に任せるべきだったと思います。そうしたくないのだったらそもそも何のためにこのレギュレーションがあるのかわかりません。

■タイヤマネージメントの改善点が明確になったニコ

 話は前後しますが、金曜日の予選ではニコのエンジンに油圧トラブルが起きました。これはうちのチームの組み立て作業のミスで、この週末は3回もすべて即リタイアに繋がる大きな作業ミスがありました。この油圧トラブルによりニコは路面がどんどん良くなっている状況でQ1最後のアタックが出来ず、最下位となってしまいました。

 予選成績に関してはニコの方がいいので、ニコのクルマに問題が出るとどうしてもチームとしてQ3進出が厳しい状況になってしまいます。今回Q2のケビンのランプランは完璧だったのですが、最後のアタックの前の周にターン9の進入で攻め過ぎコースオフしてしまいました。これで最後のアタックラップ開始も時間的にギリギリなってしまったので余裕をもってタイヤを準備することもできず、さらにはシャルル・ルクレール(フェラーリ)を妨害してしまったりと踏んだり蹴ったりでした。

 ニコは予選20番手だったので、レースに向けて新しいパワーユニット(PU)エレメントを投入するとともに、クルマのセットアップも変更してピットレーンスタートにすることにしました。セットアップはスプリントでのニコのコメントやクルマのデータから、リヤサスペンションのセッティングとダウンフォースを変更しました。主に空力の観点からです。レースでも路面温度は低いと予想されていたのでそれに見合ったセットアップにしました。

 しかしそれでもケビン、ニコともにタイヤのタレは大きかったですね。特にふたりともソフトタイヤで苦労しました。ケビンはソフトでスタートしたのですが、とにかくクルマが安定せずうまく走れなかったのでその後の第2、第3スティントはミディアムで走りました。ミディアムの方がバランスもよかったし、ケビン自身もよく乗れていました。それでも絶対的なグリップ不足に悩まされ、ポイント圏内で走ることはできませんでした。

 ニコはミディアムでスタートし、ピットストップのタイミングで軽く雨が降ってくることが予測されたのでソフトに交換しました。こういう雨がパラついている状況ではソフトがうまく使えましたね。他のドライバーのソフトのタレ方を見て、最後のスティントでは再びソフトでいけると思ったのですが、雨が止んだ状態で、ニコはうまくソフトを持たせることができませんでした。もちろん、根本的な問題はクルマの競争力不足です。しかし、特にニコはレースタイヤマネージメントの面で改善すべきところがここ2戦ではっきりと見えたので、次のオランダでは特にこれに焦点をあててレースに臨みたいと思います。

■シーズン前半戦を振り返って

 2023年シーズンの前半戦を振り返ってみると、VF-23はシーズン前のバーレーンテストの段階から一発の速さがある一方で、ロングランとレースに弱点があることは明らかでした。その後のアップデートで正しい方向に進んでいるものの、改善のスピードがまったく追いついていません。現状ではどうしても天候に頼らなければいけないし、土曜はまあまあ速くても日曜に戦えないとなるとレースチームの士気にもかかわります。

 現場からVF-23の問題点をはっきりと発信し続けているつもりですが、これをチームとしてしっかりと受け入れ、即座に根本的な問題解決に全力をつぎ込まなかったのがこの開発の遅れにつながっています。個人的には大変不本意ですが、問題点を直視して受け入れない限り前には進めません。そこで「でもこのクルマ、そんなに悪くないでしょ」なんて逃げていたら、後れをとるばかりです。

 自分の力不足もありました。いろいろな人の立場を尊重しながらも、押し通すところは押し通さないといけない。でもそれはもちろんチームの雰囲気にも影響します。今やっと空力の根本的な改革に着手してくれていますが、出だしが遅れたのでまだ時間がかかりますし、残り数戦でアップデートを投入できるかどうかということになると思います。それ以外にも少しずつアップデートをしますが、これは根本的なものではありません。ですから、次の数戦はとにかくほぼ今あるクルマでタイヤマネージメントの改善などに集中してベストを尽くすだけです。

 またドライバーに関しては、ニコは一発の速さとういう点ではっきりとクルマの限界を示してくれるので、昨年までと比べて大きな進歩です。あとはレースタイヤの使い方です。ケビンは、もっともっと貪欲に毎レース臨んでほしいと思います。彼はうまく乗れている時はいい仕事をしてくれるのですが、安定して力を発揮することができていないので、後半戦はこの点を改善しなければいけません。やることは山ほどありますが、やっとチームは正しい方向に向かいつつあるので、各自のやれることでベストを出せる環境を作ってひとつでも前のポジションにいきたいと思います。

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