中国製EVに衝撃を受けたことは数あれど、その最大のひとつが「45万円で発売!」と銘打たれて紹介された 宏光MINIEV。中国では爆発的な売れ行きをみせ、なぜこんな値段で作って売ることができるのか、なにか秘密があるのではないか…と大きな話題になった。実はこの宏光MINIEV、各種イベントで日本にちょくちょく上陸しているという(しかも分解して各パーツの予想価格まで公開した強者も!)。そうしたイベントを多数取材した中国車研究家の加藤ヒロト氏がレポートします。
文、写真/加藤ヒロト
ついにトヨタ&日産も本命モデル投入! 間近に迫るEV時代の「光と影」
■中国で2番目に売れたクルマに
2020年4月、のちに中国での販売台数ではテスラを超えることになる、とある超小型EVが発表された。その名は『宏光 MINIEV』。広西チワン族自治区柳州市が本拠地の「上汽通用五菱」が手がけたこのEVは発売当初、2万8800元(邦貨換算:約44万1000円、2020年8月のレート)という破格の値段で販売され、日本でも「45万円EV」として話題になった。
2021年6月日本能率協会のイベントで緊急展示された「宏光 MINIEV」
発売直後から人気は急上昇、6月の発売開始後5ヶ月強で約12万台を販売する勢いは他の追随を許さない状況となった。初めて1年を通しての販売を経験した2021年は年間販売台数42万6482台を記録し、これはEVダントツ1位の売れ行きだったテスラモデル3(25万9104台)に16万台以上の差をつけている。
宏光MINI EVはEVとしてはもちろん1位だが、ガソリン車も含めた中国全体の乗用車販売台数においても1位の日産シルフィ(50万150台)に続き、第2位という驚きの結果となった。
2022年3月に発表された2022年モデルでは一番下のグレードが3万2800元からと少し高めとなったが、それでも日本円では約59万7800円。依然として格安なのには変わりない。
でもなぜ、これまで小型バンを中心に作り続けてきたメーカーがここまでの大躍進を歩むこととなったのか。秘訣は「完璧」を目指さず実現した「割り切りのいい造り」にあった。
上汽通用五菱はゼネラルモーターズ、上海汽車、そして柳州五菱汽車が出資し2002年に設立された。柳州五菱汽車は元々、小さなトラクター工場が前身で、1980年代に小型商用車の生産を始めることになった。その正体はリバースエンジニアリングされた三菱自動車の3代目ミニキャブであったが、1986年に三菱自動車と正式に提携し、本格的な量産体制が整えられた。その後も改良に改良を重ね、3代目ミニキャブがベースの車種は2000年代後半まで約20年にわたって生産された長寿命モデルとなった。
今でこそ「宏光」の名前を聞くと最近話題の格安EVをイメージする人が多いが、元々は五菱が10年以上も展開しているガソリンエンジン搭載の小型乗用車に始まる。2010年に最初のモデル「宏光」がローンチされて以来、より大型の「宏光S1」や、SUVの「宏光S3」、「宏光PLUS」などの派生車種が展開されている。
ちなみに宏光は『頭文字D』とのコラボレーションも果たしている。2017年8月に中国の自動車メディア「易車」の企画で2台の宏光S1が日本へ持ち込まれ、関東圏では有名なクローズドの峠コース「群馬サイクルスポーツセンター(通称:群サイ)」にてスペシャルムービーの撮影を行った。動画は頭文字Dに登場するトヨタ スプリンタートレノ(AE86)のレプリカと一緒に群サイでドリフトを披露するという内容で、公開されるやいなや中国国内では大変な話題に。
実は『頭文字D』とのコラボしていた! 宏光MINI EVの兄貴分「宏光」のミニカー(拓意公式サイトより)
宏光の『頭文字D』ネタは瞬く間に中国にインターネットユーザーの間で広まり、中国のミニカーブランド「拓意」からは「藤原とうふ店」カラーとロゴをまとった宏光のミニカーまで作られ、販売された。意外にも日本と既に結びつきがあったブランドなのである。
宏光シリーズは中国でカルト的人気を誇っており、「五菱神車」という愛称でも知られているほど。2017年と2018年の2年間は販売台数50万台以上を記録し、小型ミニバン部門のみならず、中国で販売されている全乗用車の中でも販売台数首位の座に君臨した。
その後は台数を減らしながらも、依然として販売好調なミニバンであることは確かである。そのような状況下で投入されたのが宏光 MINIEVであり、この格安EVへの爆発的人気は、それまでの宏光シリーズが培ってきた評判も少なからず影響している。
とはいえ、代々受け継がれてきた人気と評判だけではここまでの存在にはなれない。やはり宏光MINI EVが最も受け入れられた理由が価格、そして低価格競争の犠牲にならなかったクオリティなのであろう。
現在展開中の2022年モデルは3万2800元(約59万7800円)から販売。ベースグレードは容量9.3 kWhのバッテリーに出力20 kWのモータを搭載、航続距離は120 kmとされている。室内は大人4人座れる十分な空間が確保されている。前に大人2人が乗り、後部座席は荷物スペースとして活用、もしくはISOFIX対応のチャイルドシートを設置するという使い方も可能だ。カップルか親子か、はたまた友人同士か、乗員の組み合わせは何通りにも広がるが、とにかく少ない人数が荷物を乗せてちょっと移動するにはちょうどいい乗りものだというのがわかる。
■インスピレーションに繋がれば、と
実はこの宏光 MINIEV、公道は走れないものの、日本に研究目的で輸入されたことがある。2021年6月に一般社団法人 日本能率協会が開催した「TECHNO-FRONTIER 2021」に出展された。
日本能率協会によると、「小さな電子部品が集まって作られる究極の完成体がEVであること、そしてイベントのターゲットである日本のエンジニアに中国でもっとも売れているEVを見てもらうことで、なにかのインスピレーションに繋がれば」という想いのもとで、日本初の展示に踏み切ったとのこと。
能率協会のイベント後は名古屋大学の山本真義教授率いるパワーエレクトロニクス研究室にて2021年ひと夏の間展示されたり、国内の某自動車用電装部品メーカーなどに研究目的で貸与されたりしたこともあった。そして同年10月、実際に宏光 MINIEVを分解し、外からは見えない中身の実情を知るための「分解大会」が名古屋大学で開催された。
2021年10月に開催された宏光MINI EVの分解大会。EV開発に関わる多くの技術者がボランティアで参加。(写真提供:名古屋大学パワーエレクトロニクス研究室)
筆者もこの「分解大会」に参加させてもらったのだが、当日はトランジスタ製造会社や、大手モーター製造会社、変速機製造会社、自動車用電装部品製造会社など、多種多様な国内の自動車関連企業の社員なども参加しており、さすがは話題のEVといったところだ。分解は自前の工具を用意してきた参加者たちによってスムーズに進められ、オンボードチャージャー、DC-DCコンバータ、12Vバッテリー、車両接近警報装置、エアコン用コンプレッサなどの各種電装品が車体から続々と取り外されていった。
駆動用バッテリーやモーターなどの駆動に関わる主要部品は車体本体の分解と並行して、各電装関連会社の社員によって細かく分解されていった。
分解してみると、予想をはるかに上回るしっかりとした設計、そして洗練された部品配置に誰もが驚かされた。内装においてはダッシュボード、内張り、パネル、ディスプレイなど、どれも日本車に引けを取らないクオリティで作られているのがわかる。また、駆動系の制御に用いられる部分も、分解に参加した電装部品メーカーの社員は「効率よく設計されている」と、驚きの声をあげた。車体のサブフレームはパイプフレームのような構造になっており、これにより高い剛性と車体の軽量化を実現。量産車、それも日本円にして60万円以下で販売される格安EVにこのような構造が採用されているのに参加者はただただ圧倒されていた。
また、その車両を構成する要素をやみくもに妥協して使う人に不便を強いるのではなく、本当に不要な部分は不要と割り切って取り除く「割り切りのよさ」も価格の安さとクオリティを両立させる重要な要因の一つであった。
分解大会を行った名古屋大学の山本真義教授が日経新聞に提供した宏光MINI EV(航続距離170km、バッテリ13.9kWhを搭載する上級グレード。日本円で約69万円)の推定コストが非常に興味深いので以下に紹介させていただく。
大容量バッテリ(13.9kWh):16万円
電動系(モータ、インバータ、デフ):5万円
電装系(OBC、DC-DC等):6万円
足回り系:4万円
ボディ(ハイテン材57%):5万円
組み立て、販売、サービス:6万円
装備(エアコン、ABS等):6万円
合計はなんと48万円! 異常なまでに原価率が高そうだ。
「中国で原価ギリギリなので、日本での製造は無理。販売元の五菱もNEVクレジット制度にてなんとか利益化を実現しているのでしょう」(山本教授)
ちなみに日本で2021年、最も売れたトヨタヤリスの販売台数は約21万台。原価ギリギリであってもNEVクレジットの助けもあり、年間42万台が売れる中国市場なら成立する価格設定と言えるだろう。
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