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ゴーン元日産会長の保釈劇 仏メディアの報道は 日本の視点、違和感も

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ゴーン元日産会長の保釈劇 仏メディアの報道は 日本の視点、違和感も

もくじ

ー ゴーン劇場、日本の反応に違和感
ー 仏メディア、保釈どう伝えた?
ー ゴーン、変装をおもしろがった?
ー 見るべきところは、そこではない

なぜ日産はルノーに提携見直しを強く迫れる? ゴーン会長逮捕

ゴーン劇場、日本の反応に違和感

10億円の保釈金を支払いながら、作業服姿に身を包んで小菅拘置所から108日ぶりに出たカルロス・ゴーン元日産会長。

世間はその変装姿に驚き、嗤い、あるいは検察の敗北を予想するかのように急にゴーンにすり寄った擁護論調も目立つ。

が、「ゴーン劇場」に対する日本人の反応で、決定的にバランスを欠いている点がある。

保釈時にカルロス・ゴーン元会長が着用していた作業服や帽子の、製造元やロゴの会社、出所や経緯が、ワイドショーその他を賑わせている。

偽装は弁護団チームの1人の発案による作戦で、発案者の高野弁護士はブログで失敗の責任を認めるコメントを発表したが、日本のメディアと聴衆の間に、にわかに沸き起こった大喜利状態は当分の間、収まりそうにない。

いっぽう、フランスのメディアは保釈の様子をどのように伝えていたのだろう?

仏メディア、保釈どう伝えた?

フランスのメディアのこの保釈の様子をどう伝えたかというと、意外なほど簡潔に済ませていた。

ル・フィガロ紙が、ナポレオンが脱獄時に労働者の衣服を借りた逸話になぞらえていると、日本の新聞がわざわざ報じていたが、正確には脱獄したのは甥のナポレオン3世で、政権を掌握して皇帝になる以前のエピソードだ。

AFPと共にフランスのメディアで唯一、獄中インタビューを実現した経済紙レ・ゼコーも、労働者姿に扮した旨を描写していたものの、元のビジネスマンとしてふさわしい姿に戻るまで、帽子とマスクで自らののイメージを守るのだろうと、ツイッターで分析している。

無論、ゴーン元会長の労働者姿と、都内で報道陣のヘリコプターやバイクが起こした追跡騒ぎの大きさについては伝えられているが、もっと肝心の要点が3点ある。

1.ひとまず108日で切られた拘束日数の記録についての分析

2.ゴーン元会長が今後は自己弁護と釈明に全力を挙げると、短信とはいえ宣言した事実

3.住居の出入りするひとびとをカメラ監視したり、インターネットへのアクセスを弁護士立ち合いとするなど、保釈のために検察から課せられた条件がゴーン前会長の生活をどのように制限するか、その詳細な説明。

いってみればゴーン前会長が、通常の民主主義的な法治体制の下で等しく享受すべき、基本的人権としての自由が、どのような侵害や制限を被っているか、権力が正しく運用されているか、そこを観察しているのだ。

ゴーン、変装をおもしろがった?


ゴーン前会長は、作業員姿に扮することをおもしろがったという談話も報じられているが、それは今後の法廷での闘いに臨むにあたって決意も新たに……といったヒロイックな話でも何でもない。

ただ単に「ネタになる」から引き受けたのではないか、と予想する。

というのも有罪でも無罪でも、今回の彼の経験はフランスその他の国で、何年先になるかは分からないが、いずれ自叙伝の一部として興味を引く話ではある。それにハロウィンや学校劇など、子どもが仮装を楽しむ機会はフランスの生活にはしょっちゅうある。

それに、元よりフランスのひとびとにとっては、空から見た小菅拘置所の、×型に交叉した建築スタイル自体が「カフカ的」で、いかにも不気味で謎めいた独裁体制か何かにふさわしい。

そこで伝統的に行われてきた、一方的で強権的な長期拘束という、ほとんどバーレスクな不条理劇の主人公をゴーン前会長は演じさせられているような状況と見られている。

保釈時に扮装に応じたのは、もはやネタとして仕入れておいて損のない、「演出のひとつ」なのだ。もし弁護士の1人がいう通り、成功してマスコミに住居の場所を嗅ぎつけられなければめっけもの、ぐらいの感覚ではなかっただろうか。

ただ、ひとつ不気味なことがある。

見るべきところは、そこではない

不気味なのは、この不条理劇には黒子が多数いたことだ。

拘置所の玄関から軽自動車まで、変装したゴーン前会長を取り囲んで送り出した捜査員たちは、ガードの役目を果たしていたというより、取り逃がさざるを得ない獲物に今一度、睨みを効かせていたように見えた。

はっきりいって、メンチを切りに来たチン〇ラ、あるいは映画などで悪役として描かれた、戦前の特高警察のようだった。

扮装姿のゴーン元会長という主役と、その小道具ばかりに注目して、周囲にいた捜査員らが黒子のように無視すべきものと映ってしまうのは、いかにも日本の観劇的視点であり、盲点といえる。

もうひとつおもしろい皮肉は、ゴーン前会長を乗せて走り去った作業車の軽のドライバーは、知り合いの建築会社社長に頼まれただけで、この社長も高野弁護士に頼まれたとのことで、ゴーン前会長を運ぶなどという仕事内容は、知らなかったことだ。

恐らく今後、検察が争点としてくる容疑は、ゴーン前会長が指示した一連のお金の流れが、中東を経由したマネーロンダリングにあたるか否かという点だろう。

だが、マスコミにバレないよう高野弁護士が計画した扮装劇も、「まるで本筋に関与しないものを1枚、挟む」という点で、ロンダリング的手法ではないか。

その試みが検察の「黒子たち」によって、まんまと潰えてしまったのだとしたら、今回の扮装劇はどちらかにポイントが入ったかというより、引き分けだったというのが真相ではないか。

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