絶対的なブランド力を誇り日本でも販売好調のメルセデスベンツの中でも、とりわけ日本で、どうしてこんなに?と思わずにいられないほどの人気ぶりなのが、Gクラスだ。
都市部では見かけない日はなく、それもかなり頻繁に目にするのだが、よくよく考えてみると、この価格帯の特殊なクルマがこんなにたくさん走っているというのはただごとではない。
登場が早すぎて、対応が遅すぎた さよならジューク その軌跡をたどる
日本でGクラスが売れ続けている理由について岡本幸一郎氏が考察する。
文:岡本幸一郎/写真:MERCEDES-BENZ
【画像ギャラリー】1000万円オーバーなのに飛ぶように売れる驚異のメルセデスベンツGクラス
トップグレードの売れっぷりに驚愕
2019年4月にモデル追加された350dはベースグレードながら車両価格は1192万円。Gクラスの5割を占める人気グレードだ
執筆時点(2020年6月)でのバリエーションは、ボトムのG 350 dが1192万円、G 550が1623万円、AMG G 63が2114万円となっている。
各モデルの販売比率も価格相応なのだろうと思いきや、なんと直近でG 350 dが5割で、G 550が1割、G 63が4割というから驚く。
G 350が多いのはわかるとして、倍近い価格のG 63がそれに近い勢いで売れているわけだ。しかも、その大半が全額キャッシュで支払うそうな。そのあたり、Gクラスを購入する層がどういう人たちであるかがうかがいしれる。
AMG G 63の車両価格は2114万円と超高額にもかかわらず、Gクラスを購入する人の4割が選んでいるというのが驚異的人気の証
むろんG 350 dだって1000万円をゆうに超えているわけで、それなりに経済力のある人でないとそうそう買うことはできないわけだが、年齢層や職業に関係なくGクラスを乗り継ぐ人は一定数が存在する。
傾向としては、メルセデスの中では若いことが特徴で、他のメルセデスは検討せず、もともとGクラス一本にしぼっているという。SUVブームとは別次元の話で、Gクラスが好きだという人が、高所得層にそれだけ多くいるわけだ。
揺るぎないブランドイメージ
見た目も強烈なG63AMG 6×6は日本では限定5台で販売された。車両価格は8000万円で、Gクラス史上最も高いモデル
思えば現在の「GLS」の前身である「GL」が登場した頃には、Gクラスはお役御免となり、ほどなく消滅するというウサワもあった。
ところがぜんぜんそんなことはなく、それどころか実際はその後にV12搭載車や6輪車を出すなど、むしろ意欲的な新しい動きを見せたほどだった。
2018年には現行型に移行したのはご存知のとおり。ただし、「W463」の型式は従来と変わらず、あくまで「フルモデルチェンジ」ではなく大幅な「改良」であるとしているが、全面刷新されてあらゆる面で進化したことは間違いない。
そんなGクラスの人気の理由はどこにあるのかを考えてみると、もちろんメルセデスの一員であるという強力な後ろ盾もあってのことだが、とにかくデザインにつきる。
そして、人気が人気を呼び、多くの著名人が愛車としていることでも知られるようになり、それもあってその存在自体がますます特別なものになっていった。それらにより確立した誰しもが認めるゆるぎない「Gクラス」というブランドイメージがある。
デザインを継承して進化している現行は売れて当然
1979年にデビューしてから1990年までの型式はW640、それ以降はW643と改良を受けているが、基本的なデザインは大きく変わっていない
1979年の登場当初から40年あまり、基本的にデザインは変わっていない。そんなクルマは世の中にほかにない。ジープも当時とは別物だし、キャラの近いランドローバーのディフェンダーも新生モデルは原型とはまったく違った雰囲気になっている。
むろん最新のGクラスも、変えないで欲しいという声もあって、あえて昔と同じようにした面も多分にあるわけだが。そのデザインこそ、Gクラスの人気の本質だ。
いかにこのデザインが好まれているかというのは、ドライバビリティの観点からも言及できる。
改良前のGクラスの最終モデル。ヘッドランプ下のLEDが特徴で、現在でも人気が高く中古車市場では高値安定となっている
2018年に大幅改良して快適性が格段に向上したのは多方面で報じられているとおりだが、その前のGクラスはというと、同世代の並みのSUVに比べても、公道での乗り味は粗く、おせじにも褒められたものではなかった。
年々進化して走りを洗練させてきた同価格帯のSUVたちとは、むしろ差は開くいっぽうという印象だった。
ところが、そんなことは関係なく、Gクラスに乗りたいという純粋な思いを持つ人は多く、売れ行きは最後まであまり落ち込むことがなかった。強みであるデザインを継承し、弱点を解消した新型が好調に売れているのは当然のことだ。
スクエアなボディゆえ室内スペースに余裕があり、リアシートの居住性も高い。ファミリーユースとして使うにも不満はない
日本人の好きな角ばったデザインの権化
日本でGクラスがもてはやされるのは、もともと日本人が角ばったデザインを好むことも無関係ではないだろう。
最近では流麗なデザインのSUVが大半になってきたが、ジムニーやジープのラングラーも日本では特異な売れ方をしているし、ランクル系もずっと人気が高い。その究極的な姿といえるGクラスが人気を博するのは不思議なことではない。
スクエアなボディに昔ながらも背面タイヤという武骨な感じがするクラシカルなデザインはGクラス人気の最大の要因だ
それでいて嫌味がない。というのは、プレミアムブランドのセダンやスポーツカーというのは、縁のない人たちにとっては少なからず嫉妬心を生むもの。
ところがGクラスは、高価とはいえあまりそうした感情をいだかれることがないような気がする、という微妙なニュアンスをご理解いただけるだろうか…。
非日常性により弱点もネガにならず
もちろんGクラスの本質的な魅力は、軍用車をルーツとすることをヒシヒシと感じさせる作り込みつくりにある。実際、悪路走破性が相当ものであることはいうまでもなし。それは筆者も実際に体験している。
ただし、日本でGクラスを愛用するオーナーの多くが、実は悪路走行が未経験だと聞く。とはいえ、それは宝の持ち腐れではなく、いざとなればどんな道でも走れること自体、Gクラスの価値であり魅力である。
元々軍用車を民生用にしたこともあり、悪路走破性は高い。未経験者がほとんどでも、いざという時の強さを持っているのが安心感になる
ひいては、並みのSUVとは一線を画する高い着座位置と目線や、目の前に切り立つウィンドスクリーンをはじめ、すべて平板で垂直に近い角度とされたガラスウィンドウから見える風景は、ほかにはない独特の雰囲気。
そんな非日常性を日常的に味わえるのもGクラスらではの持ち味である。
気になる点としては、ボディサイズはそれほど大きくないものの、小回りがきかないことが挙げられる。現行型はだいぶ改善されたのだが、従来型はかなりキツかった。
車高が高いため運転席からのアイポイントも高い。スクエアボディで四隅の感覚がつかみやすく安全かつ快適にドライブできる
それでも都市部で愛用している人は大勢いるのだから、オーナーにとってはそれほど大きな問題ではないようで、むしろ角ばっていて見切りがよくて助かるという声もある。
Gクラスはこれからも基本を大きく変えることなく存在しつづけることだろう。
そして変わらない期間が長くなるほど、ますますその存在は特別なものになっていくことに違いない。
AMG G 63 STRONGER(ストロンガー) THAN(ザン) TIME(タイム) Edition(エディション)は250台限定で発売され大人気
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