■どんなクルマ?
「最も広範囲にわたる変更を実施したマイチェン」
新型アウディA8 自動運転レベル3に? メルセデスSクラスと異なる点をおさらい
スイス・チューリッヒでのプレスカンファレンスで語られた、改良版Sクラスの概要を聞けば、これがほぼ完全にニューモデルだと考えるかもしれない。
変更したコンポーネンツは6000点以上。エンジンは3機種を新規設定するが、うちふたつはこれまでのSクラスになかったタイプ。
たとえば直6ガソリンに電気モーターと48V電源を組み合わせたマイルドハイブリッドである。インフォテインメントシステムはアップグレードされ、半自動運転システムは加減速が可能に、ラウンドアバウトの進入と脱出も行える。
と、進化の度合いは極めて大きい。とはいえ、あくまでもこれは、W222型Sクラスのマイナーチェンジ版である。
R&D部門を率いるオーラ・カレニウスは、これはメルセデスの長い歴史の中でも、最も広範囲にわたる変更を実施したマイナーチェンジだと表現する。
実際、2014年に登場したモデルでありながら、この最新バージョンは技術面で、最新世代のBMW7シリーズやアウディA8に肩を並べるものとなった。
Sクラス、エクステリアはどう変わった?
ボディサイズは、従来と大きく変わるところはない。全長は、標準ボディが5125mm、ロング版が5255mmとなっている。
エクステリアのデザインも見慣れたものだが、ディテールには手が入っている。
クロームが目を引くグリルや形状の変わったバンパー、LEDを用いた前後ランプの新たなグラフィックにより、ルックスはフレッシュな印象を得た。
プラットフォームは既存品、すなわちCクラスやEクラスにも使用するMRAプラットフォームをベースにSクラス独自の後部構造を組み合わせたもののアップデート版。
「エア・ボディ・コントロール」ことエア・サスペンションは、最新のEクラスが用いる3チャンバー式ではなく、従来通りのシンプルなシングルチャンバー式だ。
電装系もアップグレードし、当然ながらメルセデス全ラインナップ中で最も広範囲にわたるドライバーアシストを備える。
■どんな感じ?
S400d、3.0ℓV6から2.9ℓ直6ディーゼルへ
試乗車は、400dグレードのロング版だ。標準仕様は後輪駆動だが、今回は4WD仕様をテストした。
大きく変わったのはエンジンだ。Sクラスでは2005年以来、3.0ℓV6ターボだったディーゼルユニットが、2.9ℓ直6ターボに換装されたのである。
出力は340psで、BMW 730Ldの3.0直6比で20ps、アウディA8 3.0 TDIの3.0 V6比で72ps、それぞれ上回る。ステップド・ボウル燃焼システムや多チャンネルEGRに加え、可変バルブリフト制御を新採用した。
新たな直列ユニットは、これまでのV6以上にスムーズで洗練されたエンジン。アイドリングではほとんど音も聞こえず、そこから回転が素早くスムーズに、そしてリニアに上がっていく。
これに新型の9Gトロニックと2.47:1のファイナルを組み合わせ、トルク優位の特性を引き出すようセッティングされている。
ガソリン版の2.9ℓ直6と異なりアシスト用モーターは備えないが、それでも加速はクイック。それでも、遮音の利いたキャビンでは、エンジン音が遠くかすかに聞こえるのみだ。
71.3kg-mのトルクはほんの1200rpmで発生し、2000kgのS400d 4マチックは、アイドリングからトルク発生のピークとなる3200rpmまで、どこからでも素晴らしくパンチの利いた加速を見せる。
カタログ値では0-100km/hが5.2秒、最高速度はリミッターが作動する250km/h。燃費は17.9km/ℓで、CO2排出量は147g/kmだ。
Sクラスの伝統受け継ぐ「滑るような走り」
新型Sクラスの乗り心地はこの上ないもので、競合する高級車に差をつけるほど。スムーズな路面では、素晴らしき歴代Sクラスの伝統そのままに、滑るように走っていく。
電子制御のエアスプリングは、プリセットされた車高を常に維持し、威厳をもって舗装の傷を拭い去るようだ。深い轍を横切るときでさえ、このクルマは穏やかながらも一貫して平静を保つ独自の乗り味を示す。740dやA8 3.0TDIとは異なるものだ。
「ダイナミック・セレクト」をスポーツモードに切り替えると、秀でたロードホールディングでそれと明確に知らせ、今回のロング版Sクラスに装備されていたオプションの「エア・ボディ・コントロール・サスペンション」は、巨体に非凡なボディ・コントロールを与える。
ステアリングのセンターから数°の範囲は、相変わらず非常に軽く、やや曖昧だが、90°ばかり回すと程よく重さが増し、十分に正確でドライバーを引き付ける。
4WDシステムを持つS400d 4マチックは、並外れたグリップとコーナリングでの粘りを持ち、トラクション/スタビリティコントロールの介入なしに、チャレンジングな道を速く活発に駆け抜ける。
インテリア、ドライバー・アシストは?
内装に目を向けると、フロントシートは長距離走行でも秀逸な快適性を提供する。
キャビンのデザインはわずかにリファインされ、上質な素材で覆われたダッシュボードには、計器盤とインフォテインメントシステム用の高精細ディスプレイ2基が設置される。
後席は、ロングホイールベースにより広大なレッグスペースを得ている。おそらく、それこそ高級車として最も重要な要素だろう。
また、ドライバーアシストから最新の半自動運転まで、驚くほど多くの先進技術も搭載する。
それは30秒以上の自動操舵を行わない一方、加速やブレーキングはクルーズコントロールの一部に組み込まれ、今後3年以内に次期Sクラスでの実現をメルセデス・ベンツが確約する、全自動運転への明確な一歩だ。
■「買い」か?
Sクラスより特別なものを求めるひとは、いつでもいるだろう。
しかし、ロールス・ロイス・ゴーストやベントレー・フライングスパーに乗っていたとしても、この最新のSクラス・ロング・ホイールベースが与えてくれるような幸福感を得られているかどうかは疑わしいところだ。
自分で運転するにせよ、後席に座るにせよ、このSクラスを購入したなら、目の肥えたマーケットの要求へ完璧に応える、他に代わるもののないクルマを体験できるだろう。
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