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991型の有終の美 ポルシェ911スピードスター MTでNAの最後の911なのか

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991型の有終の美 ポルシェ911スピードスター MTでNAの最後の911なのか

911 GT3がベースのスピードスター

text:James Disdale(ジェームス・ディスデイル)

【画像】スピードスターと992型カブリオレ 全49枚

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

991世代のポルシェ911の最後を飾る、特別な限定モデル。人気バンドのベスト盤とでもいえようか。優れたGTモデルの何台かから、もっとも上質なコンポーネントをリミックス。1台のスペシャル・パッケージとして仕上げている。スピードスターとして風に髪をなびかせて走る、特別なスリルというオプショントラック付き。

すでに2019年の初めに、オープンカーに最適な陽光の中で一度試乗している。とても素晴らしい体験で、文句なしの満点を与えた。今回は晩秋の11月の英国で確かめる番。イングランドの北東部ではすでに冬。これ以上にチャレンジングな状況は中々ない。

まずはスピードスターの概略から。この名を名乗るのは、ポルシェとしては5台目、911としては4台目となる。

その起源は1954年に登場した、価格を抑えたポルシェ356スピードスターだった。今では愛好家の間で21万2000ポンド(2968万円)はくだらない、高価なクルマになっている。もちろん、最も特別なポルシェでもある。

その後登場した911スピードスターは、Gシリーズと964、997型。いずれもフロントガラスの高さを抑え、リアシートを覆うバブルカバーの付いた、変更を加えたカレラだった。だが最新のスピードスターは911 GT3をベースにしている。

ボディはカレラ4SカブリオレとGT3を融合させ、フロントフェンダーとボンネットは911R由来のカーボンファイバー製。フードカバーは同じくカーボンの専用品。リアバンパーはGT3のものだが、スポイラーやエアインテークなどはスピードスター専用のもの。

これ以上にないアナログの味わい

機械的な部分は基本的にはGT3。4.0L水平対向6気筒の自然吸気エンジンが、リアタイヤの後ろにぶら下がる。ガソリン微粒子捕集フィルター(GPF)を搭載し、環境規制にも対応。若干の改良で10psを上乗せし、最高出力は510psに増強。やや増えた車重を相殺してくれる。

後輪へパワーを伝えるトランスミッションは、911Rでも選べた6速MTのみとなる。サスペンションは基本的に不変だが、一般道も視野に入ってくるクルマだけにダンパーはわずかに柔らかくなった。素晴らしい4輪操舵システムとカーボンセラミック・ブレーキは標準装備となる。

それでは走り出してみよう。なにしろ、スピードスターは圧倒的に素晴らしい。気温は0度にまで低下し雪が薄く路面を覆っていたが、光り輝いていた。北部のペナイン山脈は、小雨が降り続いていた。だとしても、スピードスターと過ごした時間は特別なものだった。

ターボが発生する即時的な太いトルクとツインクラッチATのご時世にあって、自然吸気のフラット6に、6速MTの組み合わせ。これ以上にないアナログの味わいだ。

マクラーレン600LTスパイダーやフェラーリ488スパイダーほどのスピードはない。だがスピードスターは完璧に正確で、アクセル操作にピタリと反応する。6250rpmを超えるまで最大トルクが得られないとしても、低回転域から十二分にトルクフル。

エンジンは9000rpm目がけて唸り、吠える。聞き惚れるあまり何度もレッドゾーン目がけてエンジンを回してしまう。程よい重さのクラッチペダルを踏み込み、緻密なゲートに沿って、短く無駄のないシフトノブを上下にスライドさせる。

本物のNAフラット6のサウンド

クルマを停めて、ファブリック製のルーフを畳みリアパネルの中にしまえば、スピードスター本来の姿になる。NAフラット6を象徴するノイズは、周囲の壁やトンネルで反響し、さらに直接的に響いてくる。

正真正銘の、背中がうずくスリリングなサウンドトラック。基本的にカレラカップのレースマシンと同じユニットだから当然だ。低回転域のバリトンから、徐々にメカニカルノイズとのオーケストラが始まり、レブリミットまで盛大な叫びへと変わっていく。

ガソリン微粒子捕集フィルターは通常、排気音の音域を狭めてしまう。だがスピードスターの場合は違う様子。またクーペボディから屋根を切り取ると、剛性が低下し、補うために車重が増えるもの。しかしここでもスピードスターの影響は小さい。

極寒でスピードは控えめにならざるを得なかったが、911スピードスターはGT3並みに惹き込まれる特別さがあった。ステアリングホイールには欲しいと感じるすべての情報が伝わり、フロントタイヤの強力なグリップは自信を掻き立ててくれる。コーナリグを密かに手助けしてくれる後輪操舵も好印象。

試乗車が履いていたタイヤはダンロップ・スポーツマックス。ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2より一般道向きなものの、路面温度の低い条件は苦手なはず。しかし水で覆われた道で、充分なグリップ力を示してくれる。

同じ日にボクスター・スパイダーにも試乗したのだが、アンダーステアで滑り出したり、オーバーステアでテールを振ったり、落ち着きがなかった。その点、911スピードスターは安定を保ってくれる。

ただし、その安定性はコミュニケーション力に掛かっている。指先や腰回りには絶え間なくクルマが発する情報が届き、今の状態と余力を正確に知ることができるから、それを理解する力も必要となる。

全身の感覚すべてに濃密な刺激が届く

低温のウェットというトリッキーな条件で、走行性能とドライバーとの一体感を際立たせ、多くの達成感を味わえる2輪駆動のクルマは数少ない。ポルシェはグリップの限界まで、しっかり楽しませてくれる。

ドライバーが限界領域まで踏み込むと、魔法のような電子制御デバイスの秘めた力が顕になる。ギリギリまで操縦できるという余裕と自信を与えてくれるだろう。

乗り心地も素晴らしい。低速域では硬さを実感するが、スピードを上げるほどに柔らかく溶けていく。英国の北東部の路面状態は滑らかながら波打ちも多いのだが、優れた姿勢制御と充分な快適性という、絶妙のブレンドを実現させている。

スポーツモードはややハード過ぎ、アダプティブ・ダンパーはノーマルが良い。鋭い凹凸やうねりがあっても見事に丸め込み、落ち着きの無さを感じることは一度もなかった。

GT3でも同様のドライビングフィールは得られるが、完璧にクルマと一体になるような、没入感はスピードスターならでは。エンジンやタイヤからのノイズは大きく、タイヤが跳ね上げる水しぶきや砂粒がドライバーまで飛んでくる。

クルマや牧場から漂う匂いも実感できる。エグゾーストやブレーキが高温で放つ匂いはたまらない。

かなり厳しい気象条件だったにも関わらず、ルーフのないスピードスターは、911のドライビングをより素晴らしい体験にしてくれた。全身の感覚すべてに、濃密な刺激が絶え間なく届けられる、特別なマシンだ。

最高のポルシェとして歴史に残る

こんな素晴らしい991型のフィナーレを飾る911スピードスターだが、限定の1948台はすべてが売約済み。一部の過熱気味マニアでは1億4000万円近い値段で取引しようという動きもあるが、好ましいものではない。

自動車を取り巻く環境的に、フェラーリF8トリブートのように、911スピードスターにも時代の終わり感を感じずにはいられない。992型となったポルシェ911のGTモデルに自然吸気エンジンが残るかどうか、明らかではない。だが、達成するべき二酸化炭素の排出量の要求を見ると、期待はかなり薄い。

素晴らしき自然吸気4.0Lのフラット6だが、二酸化炭素排出量が317g/kmという現実を見るに、次世代の答えではないことは明らかだ。恐らくMTでNAの911は、これが最後になるのだろう。

次世代の911 GTモデルは、より環境に優しく、より速く、きっと今までと変わらないくらい運転も楽しいはず。それでもクルマを決定付ける「魂」は、奪われてしまうような気がしてならない。

そう考えると、991型のポルシェ911スピードスターが持つ、素晴らしい組み合わせに改めて気づく。史上最高のスポーツカーの1台として、過去最高のポルシェの1台として、歴史に残ることは間違いないだろう。

ポルシェ911スピードスターのスペック

価格:21万1599ポンド(2962万円)
全長:4561mm
全幅:1851mm
全高:1249mm
最高速度:308km/h
0-100km/h加速:4.0秒
燃費:7.2km/L
CO2排出量:317g/km
乾燥重量:1465kg
パワートレイン:水平対向6気筒3996cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:510ps/8400rpm
最大トルク:47.8kg-m/6250rpm
ギアボックス:6速マニュアル

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