もくじ
ー 暖房用オイルが必要 積雪など恐れるに足らず
ー 何事も無く任務完了 家族の一員
ー 設計は40年前 それでも運転を楽しめる
ー 伝統的で本格的なプレミアムオフローダー
ー 驚きのオフロード性能 人生における一服の清涼剤
ー 番外編 新型Gクラスに必要なこと
暖房用オイルが必要 積雪など恐れるに足らず
なぜお湯が出ないの? 娘からの抗議がもとで、原因調査が始まり、その結果、メルセデス・ベンツGクラスが今後数カ月ではなく、わたしが生きている限り生産され続けて欲しいと思うような冒険に出ることになったのだ。
原因は単純だった。あまりにもつまらなく、あまり勿体ぶった言い方が得意ではないので率直に言えば、単にわが家の暖房用オイルがなくなっただけだった。そして、そのこと自体は問題ではなかったのだ。問題は3月に英国を襲う、「西からの悪天候」だった。わたしの家は、初めて訪問するひとには道を教えなくてはならないほどの郊外にあり、常に「こんなところにひとなんか住んでいないだろうと思っても、そのまま進んでください」と付け加えるほどの場所にあるのだ。
好天でもオイルローリーが配送に苦労するほどなのに、いま外には雪が積もり、ますますその量を増している。こんな状況でオイルを手に入れようと思えば、自分で買いに行くしかないが、出来ればそんなことはしたくなかった。しかし3日後にはオイルが底をつく状況で、なんとしてもオイルを手に入れる必要があったのだ。
オイルデポに電話をすると、ありがたいことに電話は繋がったが、電話口の相手は彼らもオイルが無くなる前に店を閉めるつもりだと言った。少し待ってくれるように頼むしかなかった。「どれくらいでこれますか?」。「1時間くらいで……」。「30分なら待ちますよ」。「がんばって40分くらいで着くようにします」。心からのお願いだった。「OK、でも41分かかるなら店は閉めるよ」
普通なら、ボスニアの冬にも立ち向かえる(決して誇張ではない)タイヤを履いた、わが愛する古いランドローバーで向かうところだが、このクルマはあまりにもスピードが出ない。しかし、幹線道路に砂が撒かれているなら、Gクラスで行けば間に合うはずだ。
無駄足かも知れないが、気温が2ケタに届かないなかでは、古く、断熱もいまひとつのわが家の配管が凍結して破損する可能性があり、そうなれば、寒さや家がキレイじゃないことなど、さしたる問題ではなくなるのだ。
しかし、この大型ベンツに乗り込んで、ドアを閉めると、ドアがロックする音と同時にクルマがわたしを包み込み、幸せな気持ちが満ち溢れてきた。この頑丈な金庫のようなキャビンに包まれていると、数cmの積雪を恐れるなど、まったくバカバカしいことのようにさえ思えてきた。
何事も無く任務完了 家族の一員
まさにその通りだった。32kmの道のりで、側溝にはまらずに路上を走っていたのは2台のディフェンダーだけだったが、この道のりのあいだ、特別なドラマなど何も起こらなかった。
オイルを積み込んで家に帰り着いた時には、木が生えていないことで、辛うじてそこに道があることがわかるほどだったが、Gクラスの速度が落ちたように感じ、トラクションコントロールの作動を示す警告灯が点滅したのは、急坂に差し掛かった時だけだった。
しかも、Gクラスは多少考え込むようなそぶりを見せただけで、トルクの配分調整を行うと何事もなかったかのように前へと進み続けた。デフロックすら必要無かったのだ。
無事オイルを家に持ち帰ると、外に出て雪と戯れる余裕ができたので、Gクラスとわが愛しのランドローバーとを交互に乗り換えて、ふつうなら動くこともままならないほど降り積もった雪のなかでの能力を確かめてみることにした。
最初はボスニアの冬にも対応可能なタイヤを履いた古いランドローバーが優勢だったが、雪が踏み固められ、路面が滑りやすくなると、メルセデスの独壇場だった。
わずか3カ月しか共に過ごしていないにもかかわらず、このクルマはもはや家族の一員だった。もうひとりの娘が初めてこのクルマを見たとき、彼女は「わたしが生まれてから人生最高の日よ」と言ったほどだ。大型モデルが嫌いで、SUVを憎んでいる妻でさえ、へたな言い訳をしながら、このクルマのことを認めない訳にはいかなかっただろう。
わたしにはへたな言い訳をする必要などまるでなかった。最高の天気で、ほかにもっと相応しい移動手段があったとしても、常にGクラスを選ぶだろ。だが、もっとも驚くべきは、客観的にみれば、このクルマはまったくお勧めなどできないという事実だ。
設計は40年前 それでも運転を楽しめる
まず、価格が非常に高く、オプション装着前のディーゼルエンジンを積んだベースモデルでさえ9万2025ポンド(1338万円)もする。さらに、G63 AMGを選べばその価格は13万6020ポンド(1978万円)に跳ね上がる。もちろん、購入しようとしているのは特別なSUVだが、その設計は40年前に遡り、フロントと比べても何もないリアシートに座っていると、荒れた路面ではまるで中世の木造船に乗っているかのような軋み音さえ聞こえてくる。
その乗り心地は控え目にいってもゴツゴツとしたもので、ハンドリングも正確さに欠ける。パフォーマンスも大したことはなく、燃費は良くても8.9km/ℓだが、それも本当に好条件がそろった時だけだ。
もちろん、家族はこのクルマを気に入っていて、わたし自身、いまではGクラスよりも欲しいと思えるモデルなどほとんど思いつかないが、一方で、それが物珍しさからくるものであり、時が経てば変わってしまうかも知れないものだという事も理解している。さらに、Gクラスのデザインは、クールに見せようとなどしていないにもかかわらず、その実用性を突き詰めたが故に結果的にクールに見える素晴らしいものだが、それも実生活では直ぐに飽きてしまうかも知れない。
だが、実際はそうではない。もしかしたら1年後、そのオンロード性能にうんざりし始めるかも知れないが、少なくとも3カ月では決してそんなことにはならなかった。それどころか、Gクラスでもっとも素晴らしかったのは、最近のクルマではありえないほどの一体感をこのクルマが求めてきたことだった。
相応しい道でこのクルマを上手く走らせるには、慎重な運転が必要だ。これほどの重量をもちながら、どんな条件でも運転することのできるクルマなど他に知らないが、Gクラスはコーナリングマシンではないのだから、このクルマでコーナーに突っ込んだりしてはいけない。
それでも、指先でステアリングを調整しつつ、よろめくシャシーが許す程度の正確さでラインをトレースしてやれば、その見かけからは信じられないくらいの活発さをGクラスは発揮する。そして、このクルマなりの方法であれば、運転を楽しむこともできるのだ。
伝統的で本格的なプレミアムオフローダー
高速道路を走りながら平面ガラスのウインドウスクリーンから周囲を見渡していると、このクルマ以外の選択肢など思いつかないだろう。ドライビングポジションは独特で、エアロダイナミクスなどまったく考えていないようなそのボディ形状からすれば、聞こえてくるウインドウノイズも驚くほど小さい。
さらには、思わぬ出来事にもよく遭遇した。ポルシェ・カイエンやレンジローバーといった他の非常に高価なSUVに乗ったドライバーたちが、Gのエグゾーストに興味を惹かれてやってくるのだ。なぜ彼らが興味を持つのかなど知る由もないが、その目には常に敬意が感じられ、わたしとしては、最新SUVのなかから1台を選び出そうとするときのリストに、このクルマは当然載っていなかったがために、まさにGクラスこそがこうしたクルマのあるべき姿だと、彼らが驚嘆しているんだと思うことにしていた。
もしかしたら、何人かのレンジローバーのオーナーだけが、世界でもっとも本格的なプレミアムオフローダーを運転しているのは、Gクラスに乗っているわたしかも知れないと考えたんじゃないかと思っている。本当のところはどうかわからないが、わたしが運転するまさにこのクルマが、公道用タイヤを履いたままで、ほとんどセッティングを変えることなく英国横断を達成したのだ。そして、そんなこのクルマのキャラクターを完全に試すことなく、Gクラスを語ることなどできないこともわかっていた。
だからこそ、伝統的なオフロード走行をするために、ゴツゴツとしたタイヤを履き、大型ジャッキを装備して、ミルブルックのプルービング・グラウンドにあるオフロードコースへと戻って来たのだ。
「伝統的」といったのは、トラクションとスタビリティコントロールを除けば、このクルマが完全にアナログなオフローダーだからだ。ヒルディセントコントロールもなければ、マッド、スノー、サンドといったモード切替えスイッチもない。ローレンジ用トランスファーとマニュアル操作が必要な3つの機械式ロッキングディファレンシャルが備わっているだけだったが、実際のところ、こうした機能すら必要とすることはほとんどなかった。
驚きのオフロード性能 人生における一服の清涼剤
泥だらけの丘や、崖を登るような急坂にもかかわらず、このクルマに乗ってさえいれば、どんな場所へでもあきれるほど簡単に辿り着くことができた。お馴染みのホイールスピンが役に立たなかったので、写真撮影用に泥だらけになるため、マッドコンディションでスピードを出す必要があったが、Gクラスはまるでアスファルトの上を走っているかのようなグリップで加速してみせた。
結局、このクルマの能力を本当に試すには、公道用タイヤのままの方がよかったのかも知れない。このクルマは、まるでルイス・ハミルトンが地方のカートコースに現れたかのように、あっさりとコースを征服してしまったのだ。
Gクラスをメルセデスに返却したときにはやや寂しさを感じ、いまだにそれは続いている。だが、100ポンドでその巨大な燃料タンクを満タンにしても、わたしの家からスタンステッド空港までの往復に必要な644kmを走りきることができないからというだけではなく、実際のところ、このクルマはわたしの生活における現実的な選択肢ではなかった。
それでも、機能は形態に従うという言葉が、実生活の様々な場所で通用しなくなっている現代においては、その目的のためだけに創り出されたクルマと、わずか3カ月とはいえ共に時間を過ごせたことが、まさに人生における一服の清涼剤となったのは事実だ。
設計されたのが40年前であることを考えれば、もちろんGクラスにも限界はあるが、本当のところ、そうした事実にもかかわらず、もしこのクルマよりも素の魅力にあふれた5人乗りモデルがあるとすれば、わたしがまだそれを知らないということになる。
そして、すべてがより素晴らしくなっているはずの新型Gクラスであれば、間違いなく、このモデルチェンジでもっとも重要なタスクである、そのユニークなキャラクターを無傷のままで生き延びさせることに成功しているに違いない。
番外編 新型Gクラスに必要なこと
新型Gクラスがより速く、より快適で、燃費性能に優れ、最新テクノロジーを満載したクルマであれば、何も言うことは無い。
しかし、もし旧型がもっていたユニークなキャラクターのひとつでも犠牲にすることでできあがったクルマならば、何か大切なものが失われたことになるだろう。
喜ぶべきはこの点をベンツが完ぺきに理解しているだろうということだ。
そのルックスだけでなく、欧州産プレミアムSUVとしては、依然として唯一ラダーフレームをもつモデルであり、まるで独房にでも閉じ込められたかのようなドアの開閉音もそのままだ。
その見た目どおりの素晴らしいモデルであることを期待しよう。
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