もくじ
ー 公道を舞台にした対決
ー 明らかに不利なFFハッチバック
ー GT-Rの桁外れな速さ
ー 「バタータブ」とよばれる峠
ー 過酷な道をほぼ完璧に走りこなす
『日産GT-R vs フォード・フォーカスRS』すべての画像をみる
公道を舞台にした対決
20年ほど前、フェラーリ・テスタロッサにランチア・デルタ・インテグラーレをぶつけるツインテストを行ったことがある。われわれが「ダビデ対ゴリアテ(日本なら「弁慶対牛若」だろうか)」と呼んだこの対決の企画意図ははっきりとしていた。ラリーで鍛え上げた軽量で敏捷な四輪駆動ハッチバックが、巨大なうえに値付けも法外なメタボ・スーパーカーを翻弄し、あっさりと打ち負かすというシナリオだ。
しかし、思惑どおりに事は運ばなかった。フェラーリの走りがわれわれの想像より、少なくとも2倍はよかったからである。
最終的には無難な「引き分け」でテストは結論づけられたが、その裏には今だからいえる、記事中ではほとんど触れられなかった現実がある。過酷さで知られるエクスムーア高原のワインディングでも、フェラーリはランチアをいつでも好きなだけ引き離せたという恐るべき事実がそれだ。
そんな余話を枕に今回の特集のために組んだこのカードを眺めてみると、なかなか興味深い。ひと昔前にラリー界で活躍した伝統こそ持つものの地味なハッチバックが、約1100万円と英国では2倍以上も価格の高いスーパーカーを相手に、英国で最高にエキサイティングな公道を舞台に平伏させてやろうというのだ。
明らかに不利なFFハッチバック
しかし、当時とはあまりに状況がかけ離れている。今回の対決ではスーパーカー側が四輪駆動もハイテクデバイスも備えているのに対し、ハッチバック側は動力を路面に伝える手段を前の2輪しか持っていないのである。
いくらこのテストにやってみる価値があるとはいえ、そのハッチバックがほかならぬフォーカスRSだったとしても、あまりにアンフェアではないか─わたしはそんな迷いを拭えずにいた。その一方で、数千kmもの距離をフォーカスRSで走破してきた経験から、現代のスーパーカーの速さについていけるチャンスをわずかでも持つハッチバックがあるとしたら、疑問の余地なくこのクルマしかないという確信もあった。
GT-Rの速さを証明するデータとして日産自身が用意しているのは、0-100km/h加速の3.8秒という公称値と、ニュルブルクリンク北コースで7分27秒というポルシェを上回るラップタイムだ。さらに本誌からも、以前のベストハンドリングカー選手権で勝利の栄冠を進呈したのを憶えている方も多いだろう。
どこからどう見たって、前輪駆動のハッチバックがそんなモンスターと対等に走るなど非常に困難なのは明白だ。だからテスト部隊が予定していたヨークシャーの合流点に集合した時点では、われわれは実に呑気なものだった。結果が予想できていて、それに沿った記事のプロットもできていたからだ。
GT-Rの桁外れな速さ
けれど、場所がサーキットならばフォーカスはGT-Rが巻き上げる砂を甘んじて浴びるより仕方がないかもしれないが、公道は違う。そこはまったく異なる掟が支配する場所であり、ありあまるパワーがあっても、それを効率的かつ安全に活用できなければなんの役にも立たないからだ。
だから、フォーカスが予想以上にGT-Rに迫れる可能性もないわけではなく、そうなったら構成を考え直さなければならない。もっとも、約500万円のハッチバックが約1100万円のGT-Rの牙城に迫れたならそれは十分にニュースであり、少なくとも、1台ですべてをまかなえる高性能マシーン以外のクルマに金を投じる行為が賢明かどうか、疑問を投げかける記事にはなるはずである。
ところが、1級国道を外れてGT-Rの無愛想なノーズをヨークシャーの谷間に向けて進んでいくにつれ、わたしの頭の中にある疑念が浮かんできた。もしかすると、今回の企画は完全な裏目に出るのではないか。GT-Rは凶暴に見えるのは間違いないが、見るからに速そうなアピアランスではない。
スペック表に並ぶ数字にしても、パワーウエイトレシオはポルシェ911カレラSよりもほんの少し優れているだけで、トルク荷重比では同じく過給器を持つ911ターボにおよばない。だが、低速コーナーを回って長いストレートに出たとき、それは杞憂だとわかった。
そのときのGT-Rの加速たるや、免許証どころか市民権すら危うくするレベルで、要するに恐ろしく速いのだ。最速のスーパーカーが常にそうであるように、公道でGT-Rを運転するときには、それに伴う責任として、なによりも自制心を働かせることが必要不可欠となる。
「バタータブ」とよばれる峠
その後ろをついていくフォーカスは、まるで小さいが意志の強いヨークシャーテリアのようだった。前を行くGT-Rのかかとに食いついたら離れない。GT-Rのような桁外れのパワーは望むべくもないが、ドライバーを熱くさせる身のこなし、自らが備えたポテンシャルを存分に引き出させる扱いやすさでは、まったく引けを取らない。テストは実はまだ始まっていないのだが、すでにわれわれは、今回の組み合わせが紙の上の数字ほどのミスマッチではないことを理解していた。
最終的な目的地は、「バタータブ」という奇妙な名前を持つ峠の周回路である。ここほど高性能車にとってタフなテストステージは、われわれの知る限り英国内には存在しない。バタータブの道は狭く、傾斜も舗装も信じられないほど変化に富んでおり、しかも路面は不規則に波打っている。もし操安性になにか潜在的な問題が隠れていれば、容赦なくそれを暴き出してしまう難所である。
ここで求められるのは、パワー/トルクや物理的グリップの絶対量ではなく、バランスのとれた運動能力である。バネレートには荒れた路面をスムーズに抜けられるだけの柔軟性が要求される一方で、ダンパーはボディの動きが走行上の障害となる手前でそれを食い止められる鋼のごとくしなやかな制御力を持っていなければならない。
この地獄のような舗装路をどう走ろうとも、フロントノーズはステアリングホイールの操作に追従し、テールエンドはそれに付き従うように、常に安定した姿勢を保ち続けなければならないのだ。
過酷な道をほぼ完璧に走りこなす
先攻はGT-Rだ。バタータブは、GT-Rがその名を一躍世界に知らしめたニュルブルクリンクからは遠く離れている。この峠道にはほかのクルマも走っており、ブラインドコーナーの先では迷える子羊が道の真ん中を歩いているかもしれず、だからニュル以上に余裕を残しておく必要がある。総合的な配慮が常に欠かせない。このまったく異なった真の意味でもっと過酷な道を、現代のスーパーカーがどう走るのか。興味深々である。
結果は、ひと言でいうなら驚愕すべきものだった。もしGT-Rが世界最高の加速力を持っていたとしても、それだけでニュルをあのタイムで走るのは不可能だろう。だが、それでもニュルはサーキットであり、速度が大きくものをいうのは間違いない。しかし、バタータブに比べればニュルでさえドラッグレースの直線のようなものである。そんなタイトな道を、GT-Rは恐ろしいまでの速さで走破してのけたのだ。
コーナー進入時の破壊的とも形容すべき強烈な制動力、通過時の強靭な物理的グリップ力、そして奇怪なほど限界が見えない凄まじいまでの脱出時のトラクションは、今後しばらくのあいだ、わたしは忘れられそうにない。
最初に下見のために軽く流したときには、この峠道を制覇するにはロータス・エキシージSでも持ってこなければ無理かもしれないと、おぼろげに考えていた。ところが、ロングホイールベースのアウディA8 3.2FSIと車重がほぼ同じGT-Rが、ほとんど完璧にこの道を走りこなしてしまったのである。
後編へつづく
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