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予選の黄旗無視で流れ変わったフェルスタッペンと“引く勇気”のハミルトン【今宮純のF1メキシコGP分析】

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予選の黄旗無視で流れ変わったフェルスタッペンと“引く勇気”のハミルトン【今宮純のF1メキシコGP分析】

 2019年F1第18戦メキシコGPは、3番グリッドからスタートしたメルセデスのルイス・ハミルトンが逆転優勝。予選トップタイムを記録しながら3グリッド降格となったレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは歯車が噛み合わず6位入賞に終わった。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のメキシコGPを振り返る。
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 空気は薄くてもレースそのものが今年も濃かったF1第18戦メキシコGP。この国ならではの『F1フェスティバル』に観客誰もが興奮。金曜から9万2342人、土曜は11万を超え日曜には13万人以上、トータル観客数34万5694人は全21戦GPの“最多チャンピオン”だ。新大統領が一時F1開催に否定的な動きを見せたが現行契約が3年延長された。今年新記録となったこの集客力からすれば当然だろう。

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 ここでハミルトンはチャンピオンを決められなかった。とはいえ6冠を目指す覇者はさすがと思わせるドライビングを金曜から見せていた。

 雨上がりのFP1セッションは路面が汚れたまま、いたるところに濡れ場が残るコンディションでスタート。標高約2300mの高地では空気密度が20%以上低下、ダウンフォース(垂直荷重)はその分得られない。エアログリップもメカニカルグリップも減り、直線以外でたえずマシンが滑りまくる状態に。見るからに数年前のF1に近いような挙動で、カウンターステア走行があちこちで散見できた(スロー画面でそれがはっきり)。

 ハミルトンのドリフトはきれいだった。それでもときどき“スライド・アングル”が乱れたが他よりも少なく絶妙なコントロール。S字がつづくセクター2も低速のセクター3も最速タイム、彼の腕を見させてもらった。0.1秒遅れに迫ったのはシャルル・ルクレール(フェラーリ)とフェルスタッペン、このふたりがナチュラルなコントロール能力を示したのも興味深い。この滑りまくるセッションに限って言うなら、いま20人のなかで彼らは抜きん出ている(と個人的に感じた)。


 土曜の予選Q3最後に事件が起きた。バルテリ・ボッタス(メルセデス)が最終エリアで縁石に触れ姿勢を乱し、汚れたオフラインで制御不能のままクラッシュ。直後だったハミルトンは黄旗が出される寸前に間一髪で通過(ボッタスのクラッシュを視認しながら)。次に現場に来たベッテルはすぐさま黄旗振動に反応してアクセルオフ。ところがその後のフェルスタッペンは、現場を何事もなかったかのようにいつものように加速して抜けた。
 暫定PPタイムだった1分14秒910をさらに1分14秒758に縮め彼はアタックを成功させた。このセクター3タイム19秒441を19秒440まで1000分の1秒短縮、つまり全く黄旗振動の警告を従わなかったことになる。現場にあたるミニ・セクター(コース細部化した箇所)では最速通過タイムではなかったが、「黄旗で減速なんかしていない」と本人は公式会見で口にした。

 覚えていないのだろうか。昨年ロシアGP予選中にウイリアムズのセルゲイ・シロトキンがストップ、黄旗振動の現場を通過した違反行為に『3グリッド降格』を科されている。あのときはPP争いではなかったが、この日レッドブル・ホンダは素晴らしく速く、この前の1分14秒758でPPはもう決定的であった。

 複雑で細かなF1規定の違反ではなく、この競技における憲法の『国際スポーツ法典』に定められた基本事項に係る違反は重大案件だ。しかも彼は“再犯”であるが、3グリッド降格で済んだのはスチュワードが判例主義に則ったからなのだろう。


 いまさらのことになってしまうがあのアタックを自制していれば(ベッテルのように)、フェルスタッペンはPPスタートから全く違うレースを切り開けた。1コーナーでのコースオフやその後のボッタスとの接触やパンクも“仮想レース”となっていただろう……。

 ハミルトンに話しを戻す。フェラーリ勢の圧倒的なセクター1直線の速さにかなわず、予選4番手が自力で得たポジションだった。しかしフェルスタッペン降格により3位グリッドに繰り上がった。少しだけチャンスがふくらんだ。

 スタートは悪くなかった。ベッテルと1コーナーまで並走も行き場がなく、芝に出て逃れる。タイトル目前の覇者は絶対に事故に巻き込まれてはならないからだ。ムキになって挑んだらベッテルの思うつぼ、だから身を引いた。


 それを見たフェルスタッペンが2~3コーナーで攻め込んできた。受ける立場のハミルトンは彼にスペースを与えようとした。ここで当たって終えるわけにはいかない……。このスタート後の“危機回避”連続プレーはチャンピオン経験者ならではのふるまいで、いったん引く勇気(と自信)を秘めたプレーだった。カルロス・サインツJr.(マクラーレン)にも抜かれ5番手から先を見据えて71周ゲームにとりくんでいくハミルトン。

 23周目にハードタイヤへ、1ストップ戦略をとったチームに疑いの念を抱いたのは分かる。早めではなかったか、あと48周もつのか(?)。一方フェラーリはそのハードは“最長41ラップが限界”と信じていた(マッティア・ビノット代表)。ルクレールを2ストップ、ベッテルを1ストップに分けた根拠はそれだ。

 メルセデス陣営は金曜の路面とコンディションより今日は好転し、ハードのデグラデーションがデータよりおさまっているのを把握。ハミルトン自身には猜疑心があっても新任の担当エンジニア達は冷静にカバー(これがチーム力)。ハミルトンも考え直しハードをケアしながら1分21秒台から徐々にペースを上げていく。右側フロアにフェルスタッペンとの接触で傷を負い、リヤナーバスになるのを懸命にコントロール。そして終盤に2番手ベッテルが追ってくると、60周目から1分19秒台にアップ。ここまで力を残してあったハードのエネルギーを注ぎ込み、1.766秒後方に従えトップチェッカーをくぐった。今年もまた10回目だ。


 チャンピオンは決まらなくても、覇者はまるで戴冠したかのようにインフィールドで“ウイニング・ドーナツターン”をやってみせた。金曜はナチュラルスピードを、土曜にはルール・モラルを、そして日曜にはリスクマネージメントに徹したハミルトン。主催者が今年設定したインディ500マイルさながらのエレベーター舞台の表彰セレモニーに、『メキシカンF1フェスティバル』の主役は静々と現れた――。

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