2017年3月7日スバル STIはニュルブルクリンク2017に向けてのプロジェクトが開始した。この日富士スピードウェイではニュルブルクリンク24時間レースに出場するスバル WRX STIレースカーのシェイクダウンテストが行なわれた。
プロジェクトを統括するSTIの平川良夫社長は、「パートナー企業様のご協力を賜りながら、新しいSUBARU WRX STIレースカーを開発しました。今年はスバルにとって、2008年以来10回目のニュルブルクリンク挑戦の年となります。これまでのノウハウと経験を生かし、3年連続・通算5回目のSP3Tクラス優勝を目指します」と語った。
■2016年レースの分析と開発の方向性
チーム監督を務めるSTIの菅谷重雄氏は、2016年のレースでの課題と改良点を説明した。前年はシミュレーションで想定した目標ラップタイムをクリアできず、レースでもライバルのアウディTT RSに対して明確なアドバンテージを得ることができなかった。しかし、アウディTT RSのリタイヤに助けられてのクラス優勝だったこともあり、どこを改善すべきか、より速くするにはどうするかを、STI技術部、ニュルブルクリンク・プロジェクト推進室、モータースポーツ技術統括部が一体となり、シミュレーションを繰り返しながら2017年モデルを開発したという。
その分析の結果分かった課題は、レースの最高速度が競合車より低い、コーナーからの加速が劣る、中低速コーナーが遅い、レース序盤のペースが遅いといった4点に焦点を当て、エンジン特性、トランスミッションの改善、空力特性の改善、重量配分、軽量化、低重心化、タイヤのグリップ力アップと耐久性向上、サスペンションのストロークアップとリヤトレッドの拡大により、性能向上を目指すことにした。
■エンジン
2016年から吸入空気量を絞るリストリクター径が縮小されたため、パワーダウンに苦しみ、結果的に高速の伸びを欠いた。決められたリストリクター径の中でより最高出力を高めるために、ツインスクロールターボではなくシングルターボに変更し、またエキゾーストマニホールドは4-2-1式を採用。さらに、ピストン冠面形状を変更してより高圧縮比にすることで最高速を稼ぐことにしている。つまりより高速型のエンジンにシフトさせたのだ。
■トランスミッション
レース中に追いついた他車をより早く抜くために、6速のギヤ比をクロスレシオ化し、コーナーで前走車に追いついた場合にシフトダウンして抜けるように改良。またドライバーの負担を低減するために、従来のシーケンシャル式からパドルシフトに改良している。さらにセンターデフのLSD制御を変更し、コーナリング性能を向上させている。パドルシフトは2年前にもトライしていたが、その時点では信頼性の点でNGとなった経緯があるが、今回はより信頼性を高めたはずだ。これでようやく競合車と同等の装備となる。
■車体
2016年の結果からの課題である中低速コーナーのコーナリング速度をさらに高めるために、軽量化、低重心化、重量配分の改善を行なっている。軽量化のためによりカーボン素材を多用し、車体はより効率的な剛性向上を行なっている。もちろん規定重量に合わせるためにバラスト・ウエイトを積載するが、軽量化の結果、よりリヤ荷重を増大させる位置にバラストを積載できるのだ。
■タイヤとシャシー
ニュルブルクリンク用に開発されるファルケン・タイヤに求める性能は、1スティント・8周の最後の周回までラップタイムを低下させないこと、絶対的なグリップ力の向上を目指して2017年仕様を開発し、特にアウト側ショルダー部の耐摩耗性や、グリップ力の向上が実現しているという。
シャシー面では、上下、左右の入力が大きい中速コーナー部でのコーナリング性能を高めるために、フロントのバンプ・ストローク、リヤ・トレッドの拡大が図られている。これで旋回性、ロードホールディングの改善を狙っている。
■空力性能
2017年仕様を開発するにあたり、実車風洞を使用して開発を進め、空気抵抗は従来通りのままで、前後のダウンフォースを向上させている。特にフロントはアンダーパネルを新設計し、フロント・アンダーフロアでのダウンフォースを確保。さらにフロントフェンダー内の気流の排出を重視したオーバーフェンダー形状としている。結果的にダウンフォースは5%改善しているという。
このようにエンジン、トランスミッション、シャシー、ボディなどをリファインし、性能を向上させている。
この2017年仕様のWRX STIは、テストコースでの試走と、今回のシェイクダウンテストを終え、直ちにドイツに送られ、4月22日~23日にニュルブルクリンクで行なわれるクォリファイング・レース臨み、これが唯一の熟成の場となるなど残された時間は多くない。
いうまでもなく現地のライバルチームも座視しているわけではない、レースに向けて性能向上を行なっていることは明白で、2017年の24時間レースも目が離せない。
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