東日本を中心に大きな被害をもたらせた台風19号と、その後の台風21号や低気圧の影響に伴う記録的な大雨で、水没した車内で亡くなる「車中死」が急増した。
大雨による死者は、千葉県で9人、福島県で1人。千葉、福島の両県で死亡した10人のうち半数の5人が「車中死」だったという。
【災害に備えて覚えておきたい】ガソリンの購入・運搬・使用・保管の注意点
なかでも10月25日の大雨の際、千葉県長柄町で水没したクルマに取り残されて死亡した88歳の男性は、水没した車内で家族に電話をしていた。「水につかってエンジンが止まった」、「窓も開かない」、「椅子まで水が入って来ちゃった」、そして最後の会話が「首まで水がつかった」だった。
ここで改めて、この度の台風および大雨で犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。 被害に遭われた方の1日も早い復興をお祈り申し上げます。
そのほか、衝突・追突・横転事故、ゲリラ豪雨などの自然災害により車内から脱出できなくなる車内缶詰事故が多発し、クルマに閉じ込められ脱出できない人は年間2万333人、車内缶詰事故で焼死、溺死した人は年間169人(平成28年消防白書、厚生労働省人口動態統計)となっている。
今回、そうした傷ましい車中死を防ぐためにはどのような対策が必要なのか? またクルマはどこまで水没すると動かなくなるのか、クルマが水没した時の脱出方法などを紹介してきたい。
そして、ベストカーWEBからの緊急提案として、交通事故や水没事故などで車内に閉じこまれた時に、ウインドウガラスを割って車外に脱出するための緊急脱出ツール、「レスキューマン」の標準装備化を要望する。
現在、このレスキューマンは、トヨタ(レクサス含む)、日産、ホンダアクセス、マツダ、ダイハツ、三菱などに純正アクセサリーとして販売されているのだが、発炎筒のように装着が義務化されているわけではない。万一のことを考えると、冠水被害が多発する地域などでは標準装備にしてもいいのではないだろうか。
文/ベストカーWEB編集部
写真/丸愛産業 Adobe Stock
【画像ギャラリー】クルマのドアは水深何cmで開かなくなる?
どのくらいの水位になったらクルマを使用しない方がいいのか?
今回の台風による冠水の場合、あっという間に車内に水が入ってきたという声をよく聞いた。いったい水深何cmになったらクルマは走れなくなるのだろうか?
クルマによる避難で危険なのは「まだ大丈夫」と思っている間に、周りの水位が上がり、車内から脱出できなくなってしまうケース。避難に有効とみられてきたクルマだが、今回の台風および大雨で、大きなリスクがあるのを改めて証明した結果となった。
日本自動車連盟(JAF)が行ったJAFユーザーテストでは、乗用車は水深30cm程度の道を30km/hで走行すると、巻き上げる水がエンジンルームに入って停止する可能性があると警告。水深60cmでは10km/hでしばらく走ることができるが、やがてエンジンが止まるという。
また、命に危険をおよぼす大雨が降った場合、クルマを使うか判断に迷う場合がある。
最初は大丈夫だと思っていても、運転を進めるうちに急に水かさが増す場合があるので、水深10cmでもクルマの運転は控え、走行中に冠水してきた場合は、窓を開けて逃げ道を確保することが重要という。
■水深は何cmになるとクルマは走れなくなる?
10cm未満/走行に関しては問題はない
10~30cm/ブレーキ性能が低下し、安全な場所へ車を移動させる必要がある
30~50cm/エンジンに水が入り停止し、車から退出を図らなければならない
50~90cm/クルマが浮き、バッテリーなどの支障によりパワーウインドウ付きのクルマでは中に閉じこまれる場合がある
90cm以上/クルマの外の水圧により、ドアを開けて脱出できない場合がある
※90cmは一般的なセダンのサイドミラーより少し高い位置
(出典:JAFユーザーテスト)
内閣府では、こうした事態を避けるためには、事前にハザードマップなどを把握したうえで、水位が上がり始める前に避難することが重要で、「災害時の避難は原則的に徒歩にするように」と注意を呼びかけている。
水深何cmでドアが開かなくなるのか?
クルマが水没するまで4~5分かかり、水深60cmでドアが開かなくなってしまう。その間に、落ち着いて速やかに行動することが大切
今回の台風による大雨やゲリラ豪雨による道路の冠水で、クルマは水深何cmで開かなくなるのだろうか? JAFが行ったユーザーテストでは、水圧の影響でドアが開くかどうかを検証しているので見ていこう。
テストはセダンとミニバンの2台で、試験場のスロープ(角度5.7度)と平坦部分を使って、30cm、60cm、90cm、120cmの水深別に、セダンでは運転席ドア、ミニバンでは後席スライドドアを対象に、車内からのドア開けテストを行った。
クルマは水没する当初は重いエンジンから沈んで後輪が浮き始めるが、セダンでは水深60cmから、ミニバンでは水深90cmから後輪が浮き始めた。この後輪が浮いている状態と、完全に水没した状態での検証を行っている。
○すぐに開けられた。△なんとか開けられた(数字は開けるのにかかった秒数)。×開けられなかった 。(出典:JAFユーザーテスト)
テスト結果は、セダン、ミニバンともに後輪が浮いている状態では、車外の水位が高いため、ドアに外から強い水圧がかかり開けられなかった。
水深60cmでは、水圧の影響により、セダンでは通常時の5倍近く(19.30kgf)の力が必要で、開けるのに24秒もかかった。ミニバンは男性の力でも開けることができない(計測不能)状態になった。
またセダン、ミニバンともに完全に水没した状態では、車内と外での水位差が小さくなり、水の抵抗で重いものの、どちらのドアも開けることができた。
脱出用ハンマーを標準装備にするべきだ!
窓ガラスは素手で割ることはできないし、外れなくなったシートベルトを切ることもできない。そこで絶対に備えておきたいのが緊急脱出ツール「レスキューマンIII。価格は2484円(メーカーによって価格は変動あり)
水没すると電気系統が浸水し、水深90cm以上になると、パワーウインドウも作動しなくなる可能性がある。
このような状況のなかで、最大限に威力を発揮するのが、クルマ用の緊急脱出専用ツールとして開発されたのがレスキューマンIIIだ。
このレスキューマンIIIは、サイドウインドウを叩き割るためのピンポイントハンマーと、シートベルトを切断できるカッターを1つにまとめたもので、クルマに常備していても安全で、しかもいざという時に使いやすく誰でも正しい使い方ができるという点が素晴らしい。
なお、ハンマーでガラスを割る場合には、フロントガラスではなくサイドウィンドウを割る。フロントガラスは合わせガラスで粉々になりづらく、割るのに大きな力が必要だからだ。
水没時には通常はエンジンの重みで車体が前のめりになり、運転席や助手席のガラスが水没しやすい。水没しているガラスを割ると、車内に一気に水が流れ込むため、脱出が困難であるとともに、水に含まれたガラスの破片でけがをするおそれがある。
一方、後部座席側のガラスは水没するまでには時間があるので、前部座席が水没してきたら、こちらを割ったほうが安全である。
ハンマーで叩く場所は、ガラスの隅がよく、全面にヒビが入るので簡単に脱出口を作ることができる。ガラスの中央部を力いっぱいたたくと、勢い余ってガラスに手まで突っ込んでけがをしてしまうことがあるので注意が必要だ。
このレスキューマン、製造販売している丸愛産業によると、改良を重ねて、現在のモノは3代目。
トヨタ、レクサス、日産、ホンダアクセス、マツダ、三菱、ダイハツなどに純正アクセサリーとして用意され、年間18万本販売されているそうだ(丸愛産業)。
カー用品店やインターネットの通販サイト、Amazonでも購入できるが、今回の台風による冠水被害で、製造するとすぐ完売という状況が続いているそうだ。
価格は2484円(メーカーによっては価格変動あり)。 ディーラーによってはクルマに標準装備としているところや、フロアマットやサイドバイザーなどの付属品に含めている例もあるそうだ。
また警視庁をはじめ、大阪府県警本部、神奈川県警警察本部など全国の21の警察本部や日本道路公団、日本自動車連盟などがレスキューマンを装備しているという。
今回、東京をはじめ、埼玉県、千葉県をはじめとする首都圏の水害による怖さを改めて実感した人も多いだろう。
しかし、いまだに緊急脱出用ツールとして認知度が高くないように見受けられる。もちろん大部分のユーザーがこうした緊急脱出用ツールを使う機会などないかもしれない。
今回の台風においても、もしレスキューマンを装備していれば、助かったケースもあったに違いない。
万が一のために常備しておいて、使い方をマスターしておくべきだ。すべての自動車ディーラーが付属品として、標準装備にするべきではないだろうか。
また、後席シートベルトの着用の義務化に伴い、首や腹部にベルトを巻き付け、外れなくなる事故が多発していることからも、前後席への装備が必要といえる。さらにミニバンなど多人数で乗車する場合は2列目、3列目にも装備したほうがいいだろう。
レスキューマンIIIの製作メーカーは丸愛産業。カッター刃の交換は性能維持のため5年を目安に新品に交換したほうがいいとのこと
レスキューマンを使えばシートベルトは2秒以内でカットすることができる
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