国土交通省は車検証の電子化に向けて、車検証をICカードにした場合の活用方法のアイデアを2019年7月19日~8月31日まで募集している。
実は車検証を紙からICカードに切り替わることはすでに決まっている。このために必要となる改正を盛り込んだ道路運送車両法の一部を改正する法律が2019年5月に公布されており、2023年1月の導入を目指して準備が進められている。準備を進めるなかで、車検証のICカードの活用方法に関して、いいアイデアはないかと広く一般に募集したというわけだ。
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そこで車検証のICカード化のメリットはどこにあるのか。今後のスケジュールはどうなっていくのか、探ってみた。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWEB 国交省
2023年1月から車検証は紙からICカードに!
紙による車検証は偽造防止のために進化はしているが、このままでいい気もするが……。はたしてICカード化によってどういう点が便利になるのか、見ていきたい
交通機関やコンビニなど、巷ではキャシュレス化が進んでいるが、行政や民間を含めて、自動車関連の事業に関わる人々の手間と労力を必要としてきた書類の電子化(ペーパーレス化とも表現できる)は、我々が気づかぬうちに進んでいる。
国土交通省(以下、国交省)は、昨年「車検」(正式には“継続検査”と呼ばれる)の自動車保有関係手続に際して、運輸支局に出向く手間を不要とするため、自動車検査証(以下、車検証)を紙からICカードに切り替えることを決定した。
これまでも国交省は自動車保有関係手続のワンストップサービス(OSS)を推し進めてきた。
運輸支局、警察署、県税事務所などに様々な行政手続きのためにわざわざ足を運ばなければならなかったものを、オンラインで申請できるようにして民間事業者などの負担を軽減するという、書類を用いた業務の“電子化”の取り組みだが、これをさらに拡大するために検討を始めているのが車検証のICカード化だ。
このために必要となる改正を盛り込んだ「道路運送車両法の一部を改正する法律(令和元年法律第14号)」が2019年5月に公布され、2023(令和5)年1月の導入を想定して準備を進めている。
国交省がIC車検証の利用法のアイデアを募集中!
車検証のICカード化によって想定される利便性
このなかで、国交省などを含む政府が設置した「自動車検査証の電子化に関する検討会」では、2019年7月19日、自動車ユーザーの利便性や自動車関連事業者の生産性、各種行政活動などの効率向上を図るために、一般からアイデアを募集することを発表した。
国交省では今回の募集で提案してもらったIC車検証のデータの空き領域を活用するためのアイデアを取りまとめたうえで、前記の「自動車検査証の電子化に関する検討会」で報告。今後の検討の題材として取り上げるとしている。
募集期間は2019 年7月 19 日(金)から2019年 8 月 31 日(土)までに必着とのことだ。
●IC自動車検査証の利活用方策に関するアイデアを募集する国交省のサイト
http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk6_000038.html
基本的な機能に変わりなし
■国交省が想定しているIC自動車検査証の利用方法(1~3)
国交省では上記の活用方法に限らず、広くアイデアを募集中
国交省の今回の取り組みの主旨をかみ砕いて説明すると、自動車検査証(以下、車検証)のICカード化では、紙の自動車検査証をICカードに切り替えることのメリットを最大化するため、ICカード化した自動車検査証、すなわち「IC自動車検査証」に搭載するICチップにデータの空き領域を設定して、他の行政機関や民間事業者に利活用してもらえるような仕組みとすることを想定している。
今巷で使われているICカードは接触型と接触型がある。接触型とはカード端末機のリーダ/ライタ端子と接触するモジュール端子を持つタイプでカードと端子が直接接触して通信を行う。確実な通信を行える接触型は主に、より堅牢なセキュリティが求められる決済や認証の分野で使われている。一方の非接触型とは、カード内部にアンテナの役目を果たすコイルが内蔵されており、端末のリーダ/ライタから発生している磁界にカードをかざすと無線通信でデータのやりとりができる。SuicaやICOCAに代表される鉄道改札や入退室管理、住民基本台帳番号カードなど、より利便性を求められるジャンルで活用されている
ICカード化後の自動車検査証の取り扱いについては、車検証の「検査の結果、自動車が保安基準に適合していることが確認されたことを証するもの」という定義に基づき、道路運送車両法では自動車を運行する場合に自動車検査証を備え付けることが義務付けられ、当然とはいえ、ICカード化後もこの位置づけや取り扱いなどに変わりはない。
自動車の使用者が変わる場合や引越しによってナンバープレートが変わる場合などでは、ICカード化された車検証を国に返納して、新しいIC車検証が交付されることになる。
車検証が必要な業務はこれだけある!
車検証のICカード化に関しては、まずは自動車に関わる事業者の利便性の向上ありきであることはいうまでもない。
IC車検証をどう利用するかについては、前述の検討会の資料でも「(車台番号など)自動車検査証情報“そのもの”を利用するわけではない」と断ったうえで、車検証としてのキー情報(車両を特定できるID情報など)を利用することや、ICカードの空き領域に「自動車関連情報等」(なんともあいまいな表現だが、実はこれがアイデア募集のカギとなる要素だ)を格納したり、紙の車検証を用いて入力などを実施している業務に関して、ICカード内の車検証情報を読み取る機能を与えることなどが想定されている。
ここで国交省の資料に示された車検証が関わる業務について紹介しておきたい。これを見ると、実に様々な用途に使われていることに改めて気づかされる。
車検証はどういうところで利用されているか、詳細にわたって書かれている
これだけの業務を本人、民間、行政などを包括して、IC車検証のデータをうまく利用することには、大きなメリットがあることは充分に想像できる。
おそらく採用当初は、行政機関や地方公共団体での利用がメインとなり、民間事業者がこれに加わるという形態が予想される。
車両を特定する情報としての“車両ID”として使うことなどは、情報を安全かつ効率よく管理できれば、ユーザーメリットが広がる可能性がある。
あくまで自由な発想でアイデアを!
ということで、今回のアイデアの公募の意図について、国土交通省自動車局自動車情報課に聞いてみた。
「必ずしも具体的な実現可能性や現行の制度等の枠組みを前提としていただく必要はなく、自由な発想による幅広いアイデアをいただきたい」としたうえで、「海外を見ても自動車に関する業務のICカード化に関しては、欧州では所有する車両についての登録証明書をデータ化した例はありますが、日本の車検証のような情報のデータ化は初めてと思われます」とのことだから、先進的な試みであることは確かだろう。
周知の通り、登録時の車検証を陸運局などに人手を介して持ち込んで、紙の状態でやりとりしなければならないことは、人手不足の今日この頃だから、民間の事業者にとって大きな負担になっている。
別表のように、各種の手続きを簡便にするための車検証のICカード化を進めることは、自動車の登録業務の簡略化に寄与するだろうし、活用できる領域もさまざま考えられる。
いっぽうで、民間のカード会社との連携などといった“タイアップまがい”なことまではやらないでしょうね? とあえて無粋な突っ込みを入れてみた。可能性があるとすれば、その場合はセキリュテイの問題はどうなるのかと心配にもなってくるからだ。
すると、「ICチップの空き領域の活用として広くアイデアを募集するのは、これをどこまで使えるか、ユーザーメリットをどこまで広げられるのかを検討したいからです。
カード会社など特定の企業との連携といったパターンはないと思われますが、あくまで自由な発想でアイデアを提案してもらいたいです」との答えが返ってきた。
当然とはいえ、IC車検証は国として国交省や総務省、警察庁も関わっていることから、クレジットカードような使い方には馴染まないだろうし、あくまで公的なカードとしてどこまで利用幅を拡大できるのか、あるいは一般ユーザーに受け入れられる利用範囲はどれほどなのかを見極めたいという意図があるようだ。
「まだまだ検討段階」とはいえ、どこまで国が管理するのかなどを含めて、車検証のICカード化には多少なりとも気がかりな部分もある。
こちらの希望としては、利便性の確保はもちろんだが、マイナンバーカードのように国家管理の匂いがプンプンする代物ではなく、実際の業務重視の仕立ててほしいというのが本音ではある。
細かいことだが、車検証がICカードになった場合、これまでの紙のように、グローブボックスに置くスペースを気にしなくなるというのはありがたいが、以前のように車検はいつだっけ? 車重は? などという確認がすぐにできなくなるのは不便。記載された内容が書かれた紙も添えられるようになるといいのだが……。
今後、2023年1月の導入まで煮詰めていくだろうが、願わくば車検制度本体の簡素化も考えてほしい、と思っているのはボクだけだろうか?
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