「すり抜け」とは、渋滞時などに、バイクや自転車が車の横をスルーすること。クルマの真横を次々に通過していくバイクを見て、「あれって違反じゃないの?」と思った人も多いはず。ここでは一般的に「グレーゾーン」とされている「すり抜け」を、道路交通法に基づいて検証してみた。 REPORT●北秀昭(KITA Hideaki)
「すり抜け」の取り締まりは、現場の警察官の判断に委ねられるところが大きい?
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渋滞時などに、バイクや自転車が車の横をスルーする「すり抜け」。これは違反なの?筆者はこの疑問を、
・交通安全講習の指導に来ていた交通機動隊の警察官
・取り締まり中だった白バイ警官
・交番のお巡りさん
に直接聞いてみたことがある。
彼らの回答を要約してみると、
「信号待ち時など、クルマが停車している時は、基本的に問題なし」とのこと。
では、制限速度内でのすり抜けは?
「これも基本的に違反の対象ではない。ただしクルマが思わぬ動きをする場合があるので、事故を防ぐためにも避けていただきたい」
道路上にある、黄色や白のラインを踏んでのすり抜けは?
「基本的に、ラインを超えなければ、違反ではない」
各人によって回答は微妙に違っていた箇所もあるので、すり抜けに対する取り締まりは、現場の警察官の判断に委ねられるところが大きい。これが警察官にインタビューした筆者の見解だ。
他の交通に対して迷惑になるような走行、悪質な走行、危険な走行と見なされれば違反。それ以外は、「あんまりうるさく言わないよ」という微妙なラインなのだろうと感じた。
筆者の取材による現場の警察官は、上記のような見解を示した。しかし巷には、道路交通法を厳密に見た場合、「すり抜け」は違反だという人もいる。
そこで今回は、「すり抜け」に関係するであろう道交法を、徹底的に洗い出してみた。運転免許所持者は、教習所等で教わったこともあるので、思い出してみて欲しい。
忘れてしまった人は要注意!覚えておきたい「センターライン」の基本事項
道路交通法において、「すり抜け」という言葉はない。「すり抜け」が違反か、違反ではないかのキーワードとなるのは、ズバリ「追越し」と「追抜き」だ。
対向車線との間に引かれている、道路中央の「センターライン」。センターラインは基本的に、白い破線、白い実線、黄色い(オレンジ)実線の3種類あり。
【センターラインの定義】
・白い破線(道幅6m未満):はみ出し可・追越し可
・白い実線(道幅6m以上):はみ出し禁止
・黄色い実線(道幅6m未満):“追越しのための”はみ出し禁止
【各線のポイント】
・白い破線は狭い道(道幅6m未満)ながら、見通しなどがよく、安全確認がしやすい場所に設置されているのがポイント。はみ出し&追越しの両方が可能。
・道幅6m以上の道に引かれる白い実線は、道幅が広いのが特徴(道幅6m以上)。どんなシチュエーションでも「はみ出し禁止」となっている(道路工事などで通行できない場合を除く)。ただし黄色い実線と同様、「はみ出さずに」前の車両を追越しするのは、禁止されてはいない。
・黄色い実線は狭い道(道幅6m未満)で、はみ出すと危険な場所に設置。そのため、“追越しのための”はみ出しは禁止。一方、「はみ出さずに」前の車両を追越しするのは、禁止されてはいない。また、黄色の実線でも、路上駐車のクルマなどを避けるため等の場合、はみ出しても問題ない。
上記において追越しする場合。事前にウインカーを出し、周囲の交通状況を見て安全を確認の上、追越しをする必要がある。いくら上記を守っていても、みだりに追越しすると、違反の対象となるので注意が必要だ。
なお、下記の場所では、追越しが禁止されている。
>>道路交通法 第30条(追越しを禁止する場所)
1:道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近又は勾こう配の急な下り坂
2:トンネル(車両通行帯の設けられた道路以外の道路の部分に限る。)
3:交差点(当該車両が第三十六条第二項に規定する優先道路を通行している場合における当該優先道路にある交差点を除く。)、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分
■反則行為:追越し禁止違反
■罰則:3か月以下の懲役または5万円以下の罰金(道路交通法第119条1項二号)
■反則金:二輪7000円/原付6000円
■点数:2点
※前車が「原動機付自転車」の場合は、追越し禁止には当たらない。
追越しに関しては、道路標識の認識も重要だ。
この2つの標識はどちらも、「追越しを禁止」したものだが、微妙に意味が違うのがポイント。
「補助標識なし」の標識が設置されている区間は、車線をはみ出さない追越しは認められている。
一方、「補助標識あり」の区間は、どんな状況でも追越しは認められない。
なお、“車線をはみ出さない追越し”は、正式には「追越し」ではなく、「追抜き」として扱われるのがポイント。両者の違いは下記の通りだ。
「追越し」と「追抜き」の違いを知ろう
「追越し」とは、道路交通法で以下のように定義されている。
>>道路交通法 第2条
21:車両が他の車両等に追付いた場合において、その進路を変えてその追付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。
「追越し」とは、進路を変えて=ウインカーを出して、車線をまたいで他の車を追抜く行為。
※注:バイクの場合、物理的に車線をまたがなくても追越し→同じ車線で追抜きできる。
一方、「追抜き」は、進路を変えず=ウインカーを出さず、進行中の前の車両の前方へ出ること。つまり、車線を変更せず、車両を抜く行為が「追抜き」となる。
※注:バイクの場合、上記で記した通り、これが可能となる。
「追越し」と「追抜き」の決定的な違いは、【進路変更をするか・しないか】にあるといえる。
なお、横断歩道等及びその手前の側端から30m以内の道路では、「追越し」に加え、「追抜き」も禁止されている。
>>道路交通法 第38条(横断歩道等における歩行者等の優先)
3:車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く)の側方を通過してその前方に出てはならない。
※注
バイクの「すり抜け」が違反になるか?ならないか?という大きなターニングポイントが、この点にある。
バイクの追越しは、右側の車線にはみ出ないことがほとんど。そのため、違反の対象となる「追越し」ではなく、違反の対象とならない「追抜き」に該当する場合が多い(もちろん、車線をはみ出したら違反となる)。
また、信号待ちや渋滞で停止している車両の前に出る行為は、基本的に「追抜き」ではなく、道交法にはない「すり抜け」として扱われる。
2019年4月現在、「すり抜け」を禁止する法律はない。そのため、安全が確保できる状況であれば、バイクは交差点付近でも、車両の前に出ることが可能となっている。
道交法における正しい「追越し」の方法
>>道交法第28条(追越しの方法)
1:車両は、他の車両を追越そうとするときは、その追越されようとする車両(前車)の右側を通行しなければならない。
2:車両は、他の車両を追越そうとする場合において、前車が第25条第二項又は第34条第2項若しくは第4項の規定により道路の中央又は右側端に寄つて通行しているときは、前項の規定にかかわらず、その左側を通行しなければならない。
道交法において、クルマ、バイク、自転車などが、通行中の車両を追越しする時は、右側を通ることが鉄則。
道交法において、クルマ、バイク、自転車などが、通行中の車両追越しする時、前の車両が右折しようとしている場合、また道路の右側に寄っている時などは、その車両の左側を通ることが鉄則。
すり抜け時は「停止線違反」「割り込みの禁止」「信号無視」に注意
>>道路交通法 第50条(交差点等への進入禁止)
1:交通整理の行われている交差点に入ろうとする車両等は、その進行しようとする進路の前方の車両等の状況により、交差点に入った場合においては当該交差点内で停止することとなり、よって交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれがあるときは、当該交差点に入ってはならない。
2:車両等は、その進行しようとする進路の前方の車両等の状況により、横断歩道、自転車横断帯、踏切又は道路表示によって区画された部分に入った場合においてはその部分で停止することとなるおそれがあるときは、これらの部分に入ってはならない。
■反則行為:交差点等進入禁止違反
■罰則:5万円以下の罰金
■反則金:二輪6000円/原付5000円
■点数:1点
>>道路交通法 第32条
1:車両は、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため、停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止し、若しくは徐行している車両等に追付いたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切ってはならない。
>>道路交通法施行令第2条
2:車両等は、停止位置を越えて進行してはならないこと。
■反則行為:信号無視(赤色等)
■罰則:3ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金
■反則金:二輪7000円/原付6000円
■点数:2点
渋滞するクルマの列を抜け、先頭に停止する。これもバイクの機動性を活かした「すり抜け」の定番だが…。
この時に注意したいのが、「停止線違反」「割り込みの禁止」「信号無視」の違反。「停止線違反」や「割り込みの禁止」は分かるが、「信号無視になるの?」と思った人もいるだろう。
赤信号で止まっている車列をすり抜け、前方に出ようとして停止線を超えてしまった場合、道交法では「信号無視」になってしまう。
この違反については、取り締まる警察官の裁量に問われるところ。しかし警察官が「違反だ」と主張すれば違反になるので注意したいところだ。
高速道路の「路側帯」は走行不可!「路側帯」と「路肩」との違い
道路の一番左側にある白線の外側は、「歩道があるか・ないか」によって呼び名が異なるのがポイント。
「歩道が別途設けられた道路の、白線の外側」は、路肩と呼ばれ、道交法ではバイクの走行が禁止されていない(クルマは不可)。ただし、「左側追越し禁止」の原則に違反する可能性もあるので、取り締まる警察官によっては、取り締まりの対象となる場合もある。
一方、「歩道のない白線の外側」は路側帯と呼ばれ、歩行者優先のため、バイク(原付を含む)の通行が禁止されている(自転車の走行は可能)。
なお、高速道路にある路側帯は、緊急事態に対応するためのエリアであるため、クルマはもちろん、バイクも走行禁止。
渋滞中の高速道路で、バイクが時々、路側帯を走行しているのをみかけるが、あれは違反の対象となるだけでなく、パンク(釘や異物を踏んでしまうため)、また故障車との接触や衝突等、トラブルを招く危険があるため、絶対に避けるべし。
>>車両制限令第九条(路肩通行の制限)
歩道、自転車道又は自転車歩行者道のいずれをも有しない道路を通行する自動車は、その車輪が路肩(路肩が明らかでない道路にあっては、路端から車道寄りの0.5m(トンネル、橋又は高架の道路にあつては、0.25m)の幅の道路の部分)にはみ出してはならない。
■反則行為:通行区分違反
■罰則:3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金
■反則金:二輪7000円/原付6000円
■点数:2点
まとめ
以上、道路交通法を元に、バイクのすり抜けに関する事項を検証してきた。
「すり抜けは違反か?」という疑問は、インターネット上でもアレコレ議論&説明されているが、今現在(2019年5月)の結論からいえば、「違反といえば違反だし、違反でないといえば違反でない」。道交法において、バイクのすり抜けは、“違反とも、違反でないともとれるグレーゾーン”を多く含んでいるということだ。
とはいえ、上記で説明した道交法を完璧にクリアし、「すり抜け」するのは至難のワザだろう。
冒頭で紹介した「クルマが思わぬ動きをする場合があるので、事故を防ぐためにも避けていただきたい」という警察官の言葉の通り、すり抜けには、「歩行者が突然飛び出してくる」「停車中のクルマがドアを開けて転倒」「停車中のクルマが突如進路を変えて接触」「クルマのミラー等に接触する」「クルマのボディに擦る」等々、多くのリスクがある。
機動性の高いバイクは、渋滞時、すり抜けによって時間が節約できる。この点も、バイクの大きな長所だろう。ただし、すり抜けはドライバーを「イラっと」させる行為の上位にランキングされている。
すり抜けには、相手を不快にさせないマナーも必要。このことをくれぐれもお忘れなく。
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