ドライバーである以上、だれにでも起こりうる、タイヤのパンク。経験された方や見かけた方はお分かりだろうが、突然の「バンッ」という破裂音と共に、異常振動が発生、そしてまっすぐ走らせようとしても、ハンドルが左右に振られてコントロール不可能に。
たとえ安全に停車できたとしても問題はここから。昨今のクルマにはスペアタイヤがなく、手元には使ったことがないパンク修理剤のみ。さて、あなたはこの状況をクリアすることができるだろうか。
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本稿では元日産自動車エンジニアである吉川賢一氏に、(最近急増している)パンク修理剤を使用する際の注意点をまとめてもらった。
文:吉川賢一 写真:Adobe Stock
■パンク修理剤はいつから主流に?
タイヤのパンク対応としては、ひと昔前はスペアタイヤへの交換であった。自動車教習所でタイヤ交換の実習をしたことを覚えている方も多いことだろう。しかし昨今の新型車では、スペアタイヤではなくパンク修理剤を積んでいる割合が高まっている。
「最近はスペアタイヤは積んでおらず、パンク修理キットのみ搭載されている」という知識はあっても、実際に見たことがあるという人や、使い方を知っているという人はかなり少ないはず
平成20年(2008年)に発売されたスズキ・ワゴンRにパンク修理剤が搭載されたのを皮切りに、各メーカーともパンク修理剤を搭載する方向へシフトしていった。
その背景としては、政府や環境団体が、スペアタイヤを使用せずに廃棄する事例を見過ごせなくなっていた状況において、各メーカー側としてもコストや環境に配慮し、パンク修理剤を導入する流れができたとされている。
2008年に登場した4代目ワゴンRの頃から急速に普及した。リサイクルの問題もあるし、またスペアタイヤは劣化しやすく価格も高く、重い、スペースをとるなどの短所もあり、急速に入れ替わりつつある
■修理キットの正しい使い方
パンク修理剤は使用方法を習う機会も少なく、パンクしたタイヤを一時的にでも使用する、という不安感もあるだろう。いざという時に対応できるよう、使い方と手順くらいは知っておく必要がある。
まず、修理キットをクルマのトランク等から取り出し、入っているエア抜き工具(バルブコア回し)を使い、タイヤの空気を完全に抜く。
次に、コアバルブを取り外し、タイヤのバルブに修理剤のチューブを差し込み、修理剤を流し込む。
パンク修理キットのポイントは、メーカーによっても車種によっても微妙に使い方が違うこと。たいていはトランクスペース下部に収納されているので、ぜひとも一度は確認しておこう。使い方は「取扱説明書」にイラスト付きで記載されているので、こちらもぜひ確認を(上記イラストは現行型プリウスの取扱説明書より抜粋)
この時注意しなければならないのが、【タイヤ一本につき修理剤一本を使い切ること】だ。
そして流し込みが完了したら、付属品として付いているエアーコンプレッサーで空気を注入する。
純正品のエアーコンプレッサーであれば、空気圧が適正値まで注入されると、音や光で知らせてくれるものがあるが、そうでないタイプの場合は、運転席のドア付近についているタイヤ適正空気圧の表示を確認してから、空気を注入すること。これで、応急的な修理は完了だ。
たいていの場合、その修理キットにも使用の手順がイラストで描かれているので、そのとおりに作業を進めれば大丈夫であろう。
ちなみに修理剤は、加硫接着剤(化学結合により接着する)という有機溶剤系の成分である。
修理剤を注入すると、加硫接着剤がタイヤのゴムを少し溶かし、その溶けたゴムが入り込んで穴を塞ぐ。一般的に、溶けたゴムが完全に硬化するまでは、気温や環境によって変わるが、平均1時間程度かかると言われている。
■修理剤が有効なのはトレッド面の小穴のみ
修理剤は、もちろん万能ではない。
パンク修理剤は「タイヤが地面と接地するトレッド面に小さな穴が空いた場合のみ」に有効であり、側面(サイドウォール)が破けて穴が空いた場合には、修理することが出来ない。
タイヤのサイドウォールはトレッド面に比べて肉厚が薄く、仮に穴を塞いだとしてもダメージをカバーしきれず、走行中にタイヤがバーストする可能性が高いのだ。
また、接地面が大きく破けた傷の場合も修理は不可能。こういった場合はあきらめて、ロードサービスを呼ぶことをおすすめする。ちなみに、釘や破片が刺さっていても抜かずに、そのまま修理剤を使用することで、一時的には走行可能だ。
また、このパンク修理剤での応急処置の状態で、どのくらいの距離が走行可能かはタイヤの状況によって変わるが、走行速度には注意する必要がある。タイヤに傷が入っている状態であるため、再びパンクするリスクがあるからだ。あくまで応急処置であることを頭に入れて、早急にガソリンスタンドや最寄りのディーラー、修理工場などへ持っていくことが大切である。
■あくまで応急処置なのですぐ修理工場へ
自動車メーカーでは、一輪をパンクさせた状態で一定の距離を走行が続けられるか、という極限の実験も行っている。国によっては、たとえパンクをしても「クルマを停めて降りてはいけない」とされる危険な場所もある。特に高級車であるほど強盗に狙われやすいので、何が何でもディーラーや修理工場へたどり着く必要があるのだ。海外で、ランフラットタイヤの需要が高いのは、こうした背景もある。
パンク直後は動揺していたり、不安になっていたりで判断を間違えることもある。このような時こそ、平常心を保ち、落ち着いて、ひとつひとつの修理作業を正しく行うことが大切である。
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