■大切な展示車両が傷だらけ? なぜそこまでクルマを磨きつづけるのか
中国のモーターショー会場では「熱心に大勢の清掃スタッフが展示車両を磨いたり、ブースの床などを掃除している」という姿を目にします。2019年の上海モーターショーに限らず、2018年の北京モーターショーでも、筆者(加藤久美子)は同じような光景を見てきました。
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なかには磨きすぎて、塗装面が傷だらけになっているクルマも少なくありません。なぜ、中国のモーターショーでは、どのブースでも熱心に掃除をしているのでしょうか?
「お掃除しているスタッフが凄く多い」ことに筆者(加藤久美子)が気づいたのは2018年の北京モーターショーです。ただ人数が多いだけではありません。メーカーに関係なく、たとえ報道関係者がクルマにカメラを向けていても全く気にすることなくクルマを磨きつづけていました。
2019年の上海モーターショーでもやはり状況は変わりません。「写真を撮るのでクルマから離れてほしい」と申し出ると離れてくれますが、私たちが意志を伝えるまではずっと展示車の掃除をしています。来場者の間を縫うようにして床のモップ掛けをしている人もいる状況です。
それはレクサスのブースだけではなく、ホンダが海外展開している高級車ブランド「アキュラ」のブースでも変わりません。何度も何度も同じ場所を熱心に黄色いクロスで磨いています。
「あんなに同じところばかり磨いて、ボディに傷がつかないんだろうか?」
同行したカメラマンがつぶやいたので、それもそうだなと思い、展示車両のレクサス車に近づいて良く見ると、本当にスクラッチ傷が凄い。丸く輪を描いたようなおなじみの洗車傷やワックスの磨き傷がほぼ全面にできています。
他の展示車両にも近づいてみてみましたが、変わりませんでした。とくにひどいのは、黒い樹脂の部分です。
気になって他のメーカーのブースも見てみましたが、清掃スタッフの数はどこも変わらないくらいたくさんいました。
そこでふと目にとまったのが、フォルクスワーゲン(以下、VW)ブースでお掃除をしていたドイツ人スタッフです。彼はクルマを磨く前にスプレーで洗剤のようなものを使っていました。手に持っているクロスは、他社ブースで使われていた黄色い布ではなく薄青いクロスです。
彼が拭いたクルマにはほとんど傷がありません。おもわず、なぜ傷がついていないのかを尋ねてみました。VWブースのスタッフは次のように説明します。
「確かに、磨きすぎて傷がついているクルマは多いと感じます。でも、ここ(VWブース)のクルマにはほとんどついていないでしょう? それは傷がつかない特別なクロスを使って、細心の注意を払いながらクルマを綺麗にしているからです」
※ ※ ※
ちなみに、同じVWグループの「上汽VW」「一汽VW」「アウディ」「シュコダ」などの展示車両はすべて同じ方法で磨かれており、傷はほとんどついていませんでした。
■「キミ、本当に掃除してる?」2018年まで存在した美人清掃スタッフの正体とは
ところで中国のモーターショーのジープブースには、2018年までは白人の美男美女モデルがたくさんいたのですが、2019年は打って変わって地味路線に変更されていました。
じつは中国のモーターショーでは、2015年の上海モーターショーや2016年の北京モーターショーから「過激な衣装のモデルは禁止」「単にクルマの横に立ってにっこりするだけのモデルは禁止」というお触れが出ていたのですが、ジープブースでは美男美女が「単なるモデルではない」ことの証拠に、掃除道具を持たせて立っていたようです。
確かに、美しいモデルさんなら掃除度具を持って写真に写り込んでも絵になるかもしれません。
2019年のモーターショーから美男美女が消滅したのは、米中貿易戦争の真っただ中だからでしょうか。中国では、2018年の後半からアメリカ車の販売が激減しています。
ではなぜ、ここまでクルマを綺麗にすることやフロアの掃除を熱心に行うのでしょうか。日系自動車メーカーのブースの日本人スタッフは次のように説明します。
「清掃スタッフが多いのは、文化の違いがあることと、来場者に好印象を与えたいことが理由だと思います。中国は日本と違い、ゴミをポイ捨てする人や遠慮なくクルマにベタベタ触る人もいます。そのため主催者や出展社、会場や展示車両をキレイに保って、来場者に良いイメージを持ってもらいたいのです」
※ ※ ※
確かに来場者の様子をみていても、展示車両を遠慮なく触る人が日本よりはるかに多いのは確かです。
日本では子どもの頃から「綺麗に飾ってあるものをむやみに触ってはいけない」という教育を受けている人が大半ですし、お客さんがいる前では掃除をしないのが普通です。日本と中国で習慣や文化の違いは確かにあるのかもしれません。
しかし、こんなにたくさんの清掃スタッフがずっと掃除をしていたら、クルマに近づくことや写真を撮ることもはばかられますし、塗装面は傷だらけになって、主催者や出展社が期待する「好印象」どころではないような気もします。
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