筆者は「東京フォッケウルフ」なる中年草野球チームを主宰するとともに、そのチームキャプテンすなわち「主将」を務めている。それに関連して過日、チームのK選手およびA選手が「リーダーシップというものについて主将殿とぜひ鼎談させていただきたい」と筆者に申し出てきた。
K、Aの両選手が毎週放送している草野球関連のポッドキャスト(意外と聴取率が高いらしい)のゲスト話者として収録スタジオに招かれたのだ。
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この原稿がクルマと関連する話になるかどうか我ながら不明だが、今宵行われる収録のための予習的な意味合いで、今回のカーゼニは「リーダーシップ」なるものについて考えてみたい。
リーダーに「リーダーシップ」は必要ない?
K選手から事前に送られてきた電子郵便によれば、今宵の収録のテーマというか仮タイトルは「リーダーシップなんていらない?」というものだそうだ。
……さすがは某県随一の伝統進学校を優等なる成績で卒業したK選手とA選手、物事をよくわかってらっしゃる。
つまり、わたくしというチームキャプテンには「リーダーシップ」などという成分はほぼ皆無であることを、とうに見抜いていらっしゃる――ということだ。
「ウチの主将にはリーダーシップがまるでない。にもかかわらずチームは妙にうまく運営されており、むしろ活気づいている。それはいかなるメカニズムによって実現されているのだろうか?」ということを、おそらく今宵の我々は話し合うことになるはずだ。
この問題については、わたしの中での答えはすでに出ている。
答えというかその秘技とは、「馬鹿になる」ということだ。
いや、より正確に言うなら「もともと馬鹿である自分の姿を偽らずに、格好つけずに、そのままさらす。そのことにより、周囲の者らの自発的行為を誘発させる」ということになるだろうか。
「自分は優秀である」という大きな勘違い
説明しよう。
人は誰でも格好をつけたがる。自分を、実際のそれよりも良きものとして周囲に見せたいと、心のどこかで思っている。
わたくしもそうだった。
基本的には愚鈍な馬鹿者であるにもかかわらず、まるで「優秀な人」であるかのごとき虚像を醸成すべく、さまざまな恥ずかしい努力をした。
や、というか実際に「自分は優秀である」との勘違いもしていたため、何事も人に任せるということができず、ほぼすべてのことを自身で処理対応しようとした。「あいつにやらせるより、オレがやったほうが何倍も良くなる!」と思っていたからだ。
結果は……良くなりなどしなかった。
考えてみれば当然である。
「自分は優秀である」などというのは若気の至りによる勘違いにすぎず、ごく冷静に自らの資質を見てみるならば、「ニ、三の得意分野はあるものの、それ以外はごく標準的か、むしろ標準以下の能力しかもたない人=つまりは普通の人」でしかないからだ。
メンバーに「任せる」ことでチームにグルーヴが生まれる
20代の頃は「自分は普通のボンクラに過ぎぬ」ということを認めることができなかったが、30代となって月刊誌の編集長職を務めた頃から、自然と認めることができるようになった。
そこから先はラクだった。
「あ、ごめん。それはオレわかんないや」
「申し訳ないけどオレは○○が超下手っぴなんで、○○についてはキミが代わりにやってくれないかな? 全面的に」
「やってみたけど失敗した! すまん! 誰かこのフィールドが得意な人……手伝ってくんない?」
映画やドラマのなかでは「部内に君臨する絶対者」的に描かれることも多い雑誌編集長という職業だが、わたしがその職についていた間に発した言葉の大半は、上記3パターンに類するものだった。
こんなことばかり言っていれば、当然ながら部員たちは「このヒト……大丈夫なんだろうか?」と不安になる。そして「こいつに任せとくとヤバい!」と考える結果、自主的にもろもろの動きをするようになる。
そうすると、「三人寄れば文殊の知恵」とか「十人十色」とかいう言葉が示すとおりの、さまざまな個性やストロングポイントが現場でマッシュアップされることになり、わたしひとりで何かを成さんとする場合と比べて何倍も良好な「グルーヴ」がチーム内生まれる。そしてそれにより物事が好転する――という結果になったのだ。
「なんだ、それなら最初からカッコつけずにこうしてりゃ良かった」と、当時のわたしは思ったものだ。
「丸投げグルーヴ法」実践に必要な3つの要素
わたしが今の草野球部主将としてやっているのも、ほとんどこれと同じである。
「あ、それボクぜんぜん不得手なんで、それについては例えば○○サン、お願いできませんか?」と、随時丸投げしているだけだ。あえて丸投げすることで、グルーヴが生まれるのだ。
もちろん、ただただ丸投げするだけでは何も生まれまい。というか反感のみが生まれることだろう。
「丸投げグルーヴ法」を実践するうえで大切なのは、以下の三点である。
1. リーダーに、ごく少数の項目で構わないので「何らかの秀でた能力があること」
2. リーダーに、人としての「愛嬌」があること
3. 最終的なケツを拭く覚悟はあること。
この三点だけは確実に持っている自信があるならば、リーダーはあえて馬鹿者となり(というかありのままの自分をさらけ出し)、細かいことはメンバーに任せたほうが「良いチーム」になるとわたくしは思っている。
もちろん、もしもあなたが(逮捕されてしまったが)カルロス・ゴーン氏のような圧倒的知力とカリスマ性をお持ちであるならば、ワンマン的にガンガンとリーダーシップを発揮したほうが良い結果となるだろう。
だが、たいていの人はカルロス・ゴーンではないのである。
※結局クルマの話になりませんでした。誠に申し訳ございません……。
[ライター/伊達軍曹]
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