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業界ニュース 2018.8.21

乗り心地を決めるのはジャーク(加加速度)だ。エレベーターと加加速度で、ジャークを考えてみる

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身近な乗り物でGを頻繁に感じられるもの、それがエレベーターだろう。さまざまな機種を老若男女問わず利用し、 運転は機械とシステム任せ。ひとりの利用もあり、ぎゅうぎゅうのすし詰め高負荷状態も日常茶飯事。 にもかかわらず、エレベーターで酔ったり気分を悪くしたりという話は聞かない。 あの箱を上手に動かすために、どのような技術が盛り込まれているのだろうか。(Motor Fan illustrated vol.128より)

 日本エレベーター協会では、1970(昭和45)年からエスカレーターやリフトを含む昇降機の国内導入数を調査している。その調査によれば70年末におよそ7000台だった設置台数は91年のおよそ32000台のピークへ向かってほぼ右肩上がりで増え、93年におよそ25000台まで落ちるものの再び増加傾向を示し、2005年には35000台に届こうという数字に落ち着いている。日常の生活を振り返ってみても、エレベーターやエスカレーターの世話にならない日はないという方も多いだろう。

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 クルマは前後左右Gの変化が顕著に起きるが、上下Gはさほど大きくない。前後左右がドライバー操作によって能動的に決定できるのに対して上下は路面環境によって引き起こされる受動的な結果であることも要因にあるだろう。その点、エレベーターは上下にしか移動しない乗り物で、密閉されたかごの中に立っていることもあり上下Gのみを直接受ける。ビルの高層化が進み、それにともなってエレベーターの最高速度が取りざたされるが、乗員の快適性を大きく左右するのは加加速度(Jerk=躍度)であり、つまり加速度をいかに変化させるかに意が払われている。


加加速度を適正にする

 エレベーターの構造は、端的に言えば井戸のつるべである。かごはワイヤーによって吊るされていて、もう一方には釣合おもりが備わっている。巻上機(モーター)がワイヤーを巻き上げることで上下する仕組みで、かごを確実に静止させておくためにはブレーキを用いる。釣合おもりは、かご+定格積載量の半分を目安に重さが決められていて、つまり空荷状態なら、ブレーキとモーターを緩めればかごは上昇する作りにしてあるということだ。かつてのエレベーターは減速をブレーキに頼っていたが、昨今はインバーターによって巻上機の速度制御が可能になったため、かごの動きはほぼすべてモーターに因っている状況である。

 かつてのエレベーターに乗ったときの「動き出してガクンとし、ズーンと身体が重くなるような体感ののちにフワッと身体が浮き、再び身体の重さを覚えてカクンと止まる」というのはブレーキ+モーターによる感想であり、覚えのある方もいらっしゃるだろう。たとえば古い建物や小さなマンションなど、乗り込んだときに焦げ臭いエレベーターはブレーキが使われたためだ。

 そう聞くとブレーキの仕事が減って楽になったのではと想像するが、動いているものを止めていた時代の動摩擦力追求に対し、止まっているものを保持する静摩擦力においては摩擦材の表面が研磨されることがないため、条件が厳しい。さらに巻上機の性能が向上して(永久磁石式同期電動機によるギヤレス直接駆動型の普及)トルクが増大すると、制動力の向上が求められる。自動車と同様、加速と減速は表裏一体で性能を高めていかなければならないのだ。

 かごを始点から終点へ最速で到達させたいなら、一気に最大加速度を発揮、一気にゼロへ戻せばいい。しかし容易に想像できるように加加速度、つまり加速度/時間という視点で見ると、一気に値が上昇下降するわけで、これでは乗っていられない。エレベーターの制御目標として正弦波運転曲線があり、これは速度は最高速度を頂点とした線対称の山形、加速度を正弦波曲線としたもの。加速度および加加速度が小さいと乗り心地が良くなるが、運転時間は長くなる。乗員の快適性と運転時間短縮のバランスをとるために、加減速を最適にする必要がある。

 三菱電機の調査によれば、正弦波運転曲線を元に体感評価をまとめ、「一般に乗客が非常に乗り心地がよいと感じるレベルは、最大加速度が0.9m/s2であり、最大加加速度(加速度の時間変化率)が1.3m/s3であることが統計的に求められた」という。最大加速度0.9m/s2はおよそ0.09G。クルマの運転における前後左右Gの値からすればたいしたことがないと思われるかもしれないが、密閉された空間の上下移動で自動運転ということを考慮すればなるほどとうなずけるのではないだろうか。ウェブ上に東京スカイツリーのエレベーター加速度を実測したレポートがあり、その結果を眺めてもやはり最大加速度は1m/s2以下とのこと、どうやら納得できる数字である。

 先述のとおり、エレベーターはつるべと同様の構造を採っていて、定員の半数程度でようやく釣合おもりとバランスする。満員になれば当然かごのほうが重くなるわけで、動き出す際にブレーキを解放するとかごが一瞬落ちてしまう。想像のとおりこの現象は不安と不快をもたらし、運転時間のロスにもつながる。明電舎のレポートによれば、「0.3mm、およそコピー用紙3枚分上下しただけで、人は乗り心地が悪いと感じ」るという。そこで、かご内の重量を算出してモーターにトルクをあらかじめ印加し、これを防いでいる。モーターの構造にも工夫が凝らされていて、たとえば明電舎のモーターはローターの永久磁石を40極とし、ひとつひとつの形状をかまぼこ型断面にすることで回転脈動を最小に抑えている。

 かつての高速型エレベーターの巻上機は直流電動機を用いていた。速度調整のためにワードレオナード方式と称する可変電圧制御をとり、これは直流電動機への端子電圧を制御するための直流発電機を備え、発電機界磁電流制御によって滑らかなトルク変化特性を得ていた。しかし接触端子の定期的なメンテナンスが必要で、その後電力変換部を半導体に頼るサイリスタレオナード方式に移行する。さらに、パワートランジスターが登場するとインバーター制御が実現、従来とくに微速度での精密な制御が難しかった誘導電動機との組み合わせを可能にしている。


振動と騒音の対策

 乗り心地の追求において、加加速度とともに重要なのが振動と騒音である。ビルの高層化が進むと運転距離が長くなり、速度に注目が集まる。最高速度の歴史を振り返ってみれば、1978年の池袋サンシャイン60のエレベーターが600m/min(36km/h)を記録、ギネスブックにも掲載された。その後、1993年の横浜ランドマークタワーが750m/min(45km/h)で運行、2004年には台湾の台北101が1010m/min(60.6km/h)を叩き出し、2016年には中国の上海中心大厦のエレベーターが1230m/min(73.8km/h)で世界最速の座を射止めている。一般的なマンションのエレベーターの速度は30~60m/min(1.8~3.6km/h)だというから、いかに桁違いのスピードであるかがわかろう。ちなみにエレベーター業界で最速の座を巡っているのは三菱電機、日立製作所、東芝エレベータの日本勢3社である。

 各駅停車のように各フロアで発進停止を繰り返すような状況に対して、長い距離を比較的長い時間乗り続ければ相対的にかご自体の乗り心地に意識が向きがちである。上下方向にはワイヤーの振幅による低周波数の振動が生じるが、モーターの緻密な制御でこれを抑えている。左右方向ではガイドレールの歪み、隣同士のかごとすれ違う際の空気圧の変化などにともなう振動が発生し、たとえば前者であればレールの精度向上に加えてダンパーの付与やアクチュエーターによるローラーのガイド追従などを採用している。後者の対策は騒音とも関係し、かごの構造を二重構造にして乗員に振動騒音を感じにくくさせたり、あるいはかごの上下にスポイラーを備えて空力特性を改善するなどの方策も採られている。次にエレベーターに乗るときには、ぜひ乗り心地に意識を向けてみてほしい。

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(MotorFan Motor Fan illustrated編集部)

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