まちがいなく2017年の自動車産業を揺るがしたのが日産とスバルの完成検査不正問題。日本のものづくりの信頼性を揺るがしかねない事件だけに、多くのメディアが報じていたのは記憶に新しいと思う。しかし自動車媒体としてこの事件を深く見ていくと、国土交通省が設けた基準があまりにも曖昧で、スバルはその基準に適応するためにさまざまな努力をしていたように思う。はたして真相はいったいどこにあるのか? 2017年の総括としてふり返ります。
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
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■スバルの完成検査不正問題はこれが問題となった
日産に続いてスバルも不正が発覚! 10月27日、完成検査に関わる不適切な事案があったとして、スバルの吉永泰之社長、大崎篤執行役員品質保証本部長が出席して記者会見が行われた。その事案を要約するとこうなる。
1.資格を持たない社員(以下、無資格者)が完成検査の業務に携わっていた。
2.検査終了後、非資格者が資格を持つ完成検査員の印章を代行して押印していた。
完成検査とは自動車工場で完成したクルマを、出荷する前に保安基準に適しているか、安全性に問題がないかなどを自動車メーカー自身が検査するもの。本来は国の業務となる内容だが、大量生産を可能とするための〝紳士協定〟のようなものだ。検査内容は国が定めたもののほか、自動車メーカー各社が独自に設定しており、スバルの場合は約2000項目にのぼる。
ひとつの検査ラインに10以上の工程があり、常時30~40名の作業員が検査を実施。塗装品質などの商品性検査と、ライトの光軸やフリーローラーで確認する加速や制動などの完成検査を合わせると、1車につき20~30分ほど時間を要し、ひとつの生産ラインで一日当たり約900台を検査しているという。
完成検査は昭和26年に当時の運輸省が制定した「自動車型式指定規則」によって運営されており、その実施要領で「完成検査は、必要な知識及び技能を有する者のうちから、あらかじめ指名された者が行う」と通達されている。まさにここが問題とされているところで、スバルは「あらかじめ指名された者」ではない社員が検査業務に携わっていたということだ。これは日産の事例も同様である。
■完成検査員は国家資格ではなく、任命は自動車会社の裁量次第
不適切な運営があったのは、群馬製作所の本工場(1ライン)と矢島工場(2ライン)の完成検査で、日産の件があって社内で調査したところ、「もしかして、これは法令違反なのでは?」という疑義が生じたのだという。実は、ここで不適切な運営が「明らかになった」のではなく「疑義が生じた」というのが今回の問題のポイント。完成検査のルールには曖昧な部分があり、多くは自動車メーカーが独自に決めた規程で行われているからだ。
もちろん、メーカーがすべて勝手に決められるわけではなく、国交省と相談、確認をしたうえで認められるものだから、だいたいは各メーカー似たような規程になるが、それでも国が決めているルールは先に述べた「あらかじめ指名された者が行う」ことだけ。ほかは各メーカーのやり方で運営されている。
スバルの「疑義」はここで生じた。社内の独自規定では資格を持つ完成検査員を育てるために、「現場経験の期間が必要」としていたのだ。ここに矛盾があった。完成検査は資格のある者しか行ってはならない。しかし、人材を育てるために、資格のない社員に現場を経験させるというスバル独自の社内規定がある。それを両立させるのは理論上無理があるのだ。
しかし、スバルはこの仕組みで30年間、なんの疑いもなく完成検査を続けてきた。だが、改めて考えてみると、それは国交省の規程に外れているともいえる。それが社内調査で生じた「疑義」であり、スバルは国交省に確認を求め、その結果「不適切」と判断された。それがこの問題のすべてなのだ。10月1日現在、スバルで検査の資格を持つ完成検査員は245名、そして経験を積むために、無資格ながら検査に従事していた社員が4名。そういう無資格者は過去4年に遡り、多い時で17名、平均で8名いたという。
「完成検査員にするためのハードルが高すぎたのかもしれない」と吉永社長は言う。無資格でありながら完成検査の現場を経験できるのは、必要な教育と訓練を受け、100%知識と技能を身につけたと監督者が認め、指名した者にかぎっていた。そして、この現場経験の期間も2級自動車整備士の資格を持っている者は2カ月、3級なら3カ月、保有していない者は6カ月と長く、さらに、その後行われる筆記試験を受けて合格した者だけが完成検査員になるというプロセスを続けてきたという。
完成検査に従事できる「あらかじめ指名された者」というのは国家資格でもなんでもなく、会社が認めればそれで資格を得られるものだ。ある自動車業界関係者は「過去には2日間の研修で資格を与えているメーカーもあった」とも言うが、それでも法令違反ではない。
会見で、ある記者が「100%の知識と技能を身につけたと認められるのなら、その時点で完成検査員の資格を与えておけば、現場に出ていても問題にはならなかったのでは?」と質問したが、それは確かにそうなのだ。しかし、スバルはそうしなかった。それが吉永社長の「完成検査員にするためのハードルが高すぎたのかもしれない」というコメントに繋がっている。
完成検査の仕組み自体を改革していかなければならないのではないか?
■スバルの今後はいかに進むべきか、そして信頼は損なわれたか?
もちろん、スバル側にも多くの問題がある。最もまずいのは完成検査員の印章を無資格者が代わりに押していたこと。大崎品質保証本部長は「責任感を持たせるためだった」と言うが、さすがにその理屈には無理がある。印章の押印は完成検査各項目の最終承認を意味するだけに、そこまで無資格者に任せていた責任は重い。
また、そもそも完成検査には「あらかじめ指名された者」しか従事できないという明確な規程があるなかで、そうではない者が行っていたというのは、理由はどうあれ、やはり根本的に間違っている。その点に関し、「これがまずいことだと認識しないままずっとやってきた。弊社の歴史上続いているというだけで根拠がなかった」と吉永社長も過ちを認めており、「トップの責任を感じている。スバルはまだ本当の実力がついていないと強く思っている」と忸怩たる思いを吐露する。
また、スバルには「暗黙知」や「あ・うんの呼吸」で社内が回っていく文化があり、それがよかった時代もあったが、近年、会社がグローバライズされていくなかでマニュアルや契約ごとを重視する〝今の時代の企業〟になりきれていない部分もあるという。それも含めて「企業としての実力がついていない」と痛感しているとのことだ。
では今後どうするかだが、完成検査員の教育方法も含め、システムをすべて白紙に戻して再検討する。この原稿を書いている時点では、まだ具体的な再発防止策は発表していないが、制度を明文化し、社内からも社外からもやっていることがわかりやすい透明化された制度を構築していくという。また、1回目の車検を迎えていないクルマ、12車種、25万5000台のリコールを届け出る予定で、そこにはスバルで生産しているトヨタ86も含まれる。かかる費用は50億円余りを見込んでおり、その金額もさることながら、ユーザーと販売店の負担も大きい。
法令違反があったことは確かなのだから「不祥事」と表現されるのはしかたないだろう。事象の捉え方は人それぞれだ。しかし、記者たちの質問が尽きるまで行った2時間20分の会見を聞いていて思ったのは、今回の件は完成検査を重視し、その人材を育てるための教育プロセスを大事にしすぎていたのが最大の理由。
そこに間違いはあったが悪意はなく、信頼を損なうものではないということだ。これをきっかけにスバルはまた新たな一歩を踏み出してほしい。私はこの件に関して、スバルをことさらに責める必要はないと感じている。
制度に問題があるとはいえ、それを遵守しなかったスバルの責任は重い。今後はスバル社内の問題もクリアしていくことが重要だ
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