SKYACTIV-Dを生み出しディーゼルエンジンに力を入れるマツダ。そして、デリカD:5に搭載する2.2Lディーゼルエンジンが高評価を受けている三菱。この2社が、欧州市場での販売を縮小することを発表した。
マツダは、マツダ6(セダン/ワゴン)のディーゼル搭載モデルを欧州で販売しているが2020年10月いっぱいで生産を終了。三菱は、2020年9月に発表した中期経営計画で、欧州市場への新型車の投入計画を凍結する発表。2021年度以降に「欧州の規制に対応できない既存車種の販売は順次停止する」ことになる見通しだ。
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いまだ欧州メーカーからクリーンディーゼルエンジン搭載モデルが発売され、日本国内でも一定層に人気があるにも関わらず、欧州でのディーゼル搭載モデル販売からの事実上の撤退を発表した理由は何なのか?
環境規制対応の難しさ? それともほかに理由があったのか? その事情に迫る。
文/御堀直嗣
写真/編集部、Mercedes-Benz、Adobe Stock
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■日本とは大きく異なる事情 メーカーに迫られる厳しい環境対応
欧州市場からディーゼルエンジン車の撤退や縮小が相次いで伝えられている。一方、日本国内では、マツダや三菱自動車工業のほか、輸入車の多くがディーゼルターボエンジン車を販売している。なぜ、逆の現象が起きているのか。
理由は明快だ。欧州では来年から二酸化炭素(CO2)排出量規制が厳しさを増す。1km走行する間に排出されるCO2を95gまでとする内容だ。その厳しさは、日本的表現をするとリッター28km相当の燃費性能を実現しなければならない。
なおかつ、この数字は自動車メーカーの平均値としてなので、販売する車種すべてのCO2排出量の平均値がこれに達しなければ、反則金を支払わなくてはならない。いくら新車販売が好調でも、CO2排出量規制を達成できていない車種が売れたのでは、儲けが少なくなってしまうというわけだ。
ディーゼルターボエンジン車の性能や運転感覚という機能の問題ではなく、規制に合致できるかどうかが問われているのである。たとえば、小型車のマツダ「マツダ2」のディーゼルターボエンジンの燃費は、WLTCで21.6km/Lだ。環境性能として示されているCO2排出量は、120g/kmとなっている。小型車でこの数値だから、より大柄な車種であれば燃費性能はもちろんCO2排出量も悪化せざるを得ない。
マツダ「マツダ2」は、環境性能として示されているCO2排出量が120g/km。これよりも大きなモデルになれば、さらにCO2排出量が厳しいものとなる
ガソリンエンジンは、ディーゼルに比べ燃費が悪くなるので、いずれにしても内燃機関(エンジン)だけで欧州のCO2規制を達成することはすでに不可能なのである。電動化を早急に組み入れなければ、自動車メーカーは反則金を支払い続けなければならない。
また2021年からとされる規制も、この秋から2021年型の発売がはじまるので、実はすでに対策車を販売しなければならない状況にある。欧州各自動車メーカーが矢継ぎ早に電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を発表・発売するのはこのためだ。
これに対し、日本市場はディーゼルターボエンジンに限らずガソリンエンジンに対しても燃費向上の奨励策はあるが、反則金や罰金の制度はない。このため、日本では大手を振ってディーゼルターボエンジン車が走れる。
ビッグマイナーチェンジでユーロ6に対応する2.2Lディーゼルターボエンジンに1本化し、高い人気を維持している三菱「デリカD:5」。日本国内では、日欧メーカーがさまざまなディーゼルエンジン搭載モデルを投入している
燃費性能に対する減税策も、以前に比べてどれだけ改善されているかの指標であるため、幅広く適応されている。したがって、EVやハイブリッドカーほどの減税が適用されなくても、月々の支払金額に納得できれば消費者はディーゼル車を購入してくれる。
欧州からのディーゼルターボエンジン車が目白押しの背景のひとつとして、欧州で人気が低下している車種を日本に積極的に持ち込んでいるといえなくもない。
■ディーゼルの生き残る道に電動化はないのか!?
では、ディーゼルターボエンジン車での電動化の道はどうなのだろう。
メルセデス・ベンツにはディーセルターボエンジンのPHEVがある。「E 300de」がそれだ。しかし、ほかのメーカーからは情報を聞かない。理由は、ディーゼルターボエンジン車は、排出ガス浄化のため後処理装置に原価が掛かるうえ、さらにモーターやリチウムイオンバッテリーを追加搭載しなければならなくなるので、よほど付加価値の高い車種でなければ車両価格が高くなりすぎる懸念があるからだ。
メルセデスベンツ「E 300de」。ディーセルターボエンジンのPHEVだが、このレベルの付加価値の高い車種でないと採算が合わないという現実がある
メルセデス・ベンツは、現在のディーゼルターボエンジン車の多くが採用する尿素水を利用するSCR(選択触媒還元)という後処理装置を、日産ディーゼル(現在のUDトラックス)とともに早くから開発し、採用してきた経緯がある。
これに対し、ほかの自動車メーカーは尿素SCRでは原価が掛かるうえ、尿素水を定期的に補充しなければならない手間を嫌って、NOx(窒素酸化物)触媒で後処理を済ませようとした。ところが、それでは不十分で、2015年のフォルクスワーゲンによるディーゼル排ガス偽装問題が表ざたとなった。以後、多くの自動車メーカーはディーゼルターボエンジンに尿素SCRを使うようになったのである。
メルセデス・ベンツ E 300deに試乗すると、モーター駆動の補助によって滑らかな加速であるとともに、エンジンを高回転で回さなくても充分な加速が得られるため、振動や騒音が抑えられ、実に快適だ。ディーゼル車であることに気づかないほどだ。だが、ここまで滑らかで静かな走行となるならば、いっそのことEVにすればいいと思わないでもない。
■欧州市場以外は問題なし? ディーゼルが突き付けられた現状
次に、欧州以外の市場についてはどうか。
世界最大の中国、それに次ぐ米国ともに、ディーゼル車への依存度が低い。中国は、エンジン車よりEVをはじめ電動車に力を注いだほうが国力を高められる利点がある。
米国は、もともとガソリン価格が非常に安い。ガソリンにかかる税金も低い。このため、あえて軽油を使うディーゼル車を選ぶ理由が乏しい。そのうえで、カリフォルニア州に代表されるように光化学スモッグという大気汚染への嫌悪感が強い。
実際1990年代にカリフォルニアを訪ねた際、霧が降りてきたと思ったが、実は湿気がなく乾いた霧で、つまりスモッグが地上まで降りてきていることを体験したことがある。思わず息を止めようとしたが、そんなことができるはずもない。そのような大気環境に生活している人にとって、クリーンディーゼルだとはいっても、ガソリンエンジンより光化学スモッグ発生物質を多く含むディーゼルエンジン車を選ぶ理由はないのである。
カリフォルニア州のロサンゼルス、サンフランシスコは、かつて光化学スモッグの原因となる大気汚染物質オゾンの大気中濃度の高さが米国内で1位、3位となっていた(HIROSHI H@Adobe Stock)
そして、米国大陸の西海岸と東海岸を中心としてカリフォルニア州が進めるZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制を採り入れようとする動きがある。それらの地域は、米国中部に比べ都市部の人口密集が高いからである。つまりクルマが増えれば大気汚染が悪化する。
日本の自動車メーカーは、米国で成功することを目指し、今日なお米国依存体質に変わりはない。たとえば、SUBARUは販売の7割を米国に依存している。これに対し欧州はどのメーカーも数パーセントから10%前後でしかない。なおかつ、そこで人気を得てきたディーゼルターボエンジンが、CO2規制に対処できなくなっているのである。
ディーゼルターボエンジンを続ける理由はもはやない。トヨタは、EVの市場導入で遅れてはいるが、欧州でのHV販売に力を注いだことから、反則金の支払額を抑えることに成功している。ホンダの新型フィットは、欧州ではHVしか販売しない(国内にはガソリンエンジン車の選択肢がある)。
地球上でよほどの僻地か、道路整備が充分でない地域などでは、燃費がよく、粘り強い走りを得られるディーゼルターボ車が望まれる可能性はあるし、クリーンディーゼル車の性能自体に疑いの余地はない。だが、それを求める市場がわずかしかなくなってきているのである。
そこにどれだけの投資をするのか? 止めるのか? 企業判断が求められた結果のディーゼルエンジン車撤退や縮小である。
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みんなのコメント
静かで凄く良いと思っていたのに、悲しい。
まだ完成の域に達していなかったのだろう。