■なぜトヨタは水素社会に注力するのか
トヨタは、2020年10月6日に同社が研究・開発を進めている燃料電池に関してのリリースをふたつ公表しました。
トヨタが考えるこれからのサスティナブルな社会とはどのようなものなのでしょうか。
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ひとつ目は、北米市場における取り組みで、トヨタと日野が燃料電池大型トラックを共同で開発するというものです。
この取り組みは、2020年3月に発表した日本国内向け燃料電池大型トラックの共同開発をさらに発展させるものとしており、北米市場での大型電動トラックへの関心の高まりを受け、同市場向けに、燃料電池で走行する大型トラックの開発を共同でおこなうものだといいます。
大型電動トラックのベースとなるのは、日野が北米で投入している新型「XLシリーズ」で、そのシャシにトヨタの燃料電池技術を組み合わせることで、CO2を排出せずに走行する高性能な大型トラックを開発。今後、2021年の前半に試作車両を開発し、評価を進めていきます。
トヨタ側のシニア・エグゼクティブ・エンジニアである横尾将士氏は今回の取り組みについて、次のように話しています。
「燃料電池を搭載したHINO XLシリーズは、お客さまと地域社会の双方にメリットをもたらします。
静粛性、スムースな走り、そしてパワフルな走行性能を実現したうえで、走行時に排出するのは水だけです。
トヨタが20年以上にわたって開発してきた燃料電池技術と、日野の大型トラックに関する知見を組み合わせることで、革新的で競争力のある製品を生み出すことができるでしょう」
ふたつめは大型電動トラックと同日に発表された鉄道事業に関するものです。
それは、日本においてトヨタとJR東日本、日立は、水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載した試験車両を連携して開発することに合意したと公表しています。
この取り組みは、水素をエネルギー源とする革新的な鉄道車両を開発していくことで、地球温暖化防止やエネルギーの多様化などによる脱炭素社会の実現に貢献することを目的としています。
具体的に、JR東日本は鉄道車両の設計・製造の技術、日立はJR東日本と共同で開発した鉄道用ハイブリッド駆動システムの技術、そしてトヨタは燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」や燃料電池バス「SORA(ソラ)」の開発で培った燃料電池の技術有しています。
この3社が持つ鉄道技術と自動車技術を融合し、自動車で実用化されている燃料電池を鉄道へ応用することで、自動車より大きな鉄道車両を駆動させるための高出力な制御を目指したハイブリッド車両(燃料電池)試験車両を実現するものです。
なお、実証試験の開始時期は2022年3月頃を予定し、試験区間は、神奈川県内を走る鶴見線、南武線尻手支線、南武線(尻手から武蔵中原)です。
※ ※ ※
今回の公表で、トヨタは北米や欧州市場でボルボやダイムラー、テスラなどが参画する電気自動車の大型トラックに対抗する形で燃料電池車による大型トラックを展開することになります。
さらに、燃料電池技術を鉄道事業で活路を広げる取り組みも展開するなど、トヨタは自動車産業に限らず水素社会の実現に注力していることがわかります。
なぜこれほどまでにトヨタは多方面の事業に参画するのでしょうか。
かつてトヨタの豊田章男社長は、次のように述べていました。
「自動車業界は『100年に一度の大変革の時代』に入っていると、日々実感しています。
私は、トヨタを『自動車をつくる会社』から、『モビリティカンパニー』にモデルチェンジすることを決断しました。
すなわち、世界中の人々の『移動』に関わるあらゆるサービスを提供する会社になるということです」
この豊田章男社長のモビリティカンパニーに変わっていくなかで、トヨタは、コネクティッド・自動化・電動化などの新しい技術分野にも一層力を入れているのです。
■最新の燃料電池車となる次期型「ミライ」は2020年12月登場か
トヨタにおける燃料電池技術の中心的存在となるのが、前述のミライです。
2014年12月に発売された現行ミライは、水素を空気中の酸素と化学反応させて発電した電気で走る燃料電池自動車として登場しました。
約3分という短い時間で水素を充填でき、航続距離も長い燃料電池自動車は、水素の利点として持ち運びや貯蔵が可能で、さまざまなものから製造できるため、将来の有望なエネルギーとして期待されており、それらが前述の大型電動トラックやハイブリッド車両(燃料電池)に繋がっています。
なお、次期型ミライは、公式ウェブサイト上で「2020年末ごろの発売を予定」をアナウンス。
すでに公開されている「ミライ コンセプト」のボディサイズは、全長4975mm(従来型比+85mm)×全幅1885mm(+70mm)×全高1470mm(-65mm)、ホイールベースは2920mm(+140mm)となり、全長と全幅は拡大しているものの全高を低くすることで、ロー&ワイドなスタイリングに刷新。なお、現行ミライは4人乗りですが、新型ミライでは5人乗りになりました。
走行性能面では、TNGAプラットフォームによる上質な乗り心地などの素性の良さに加え、燃料電池ならではの異次元の静粛性と剛性の高さを実現しています。
FCスタック(燃料電池システムの発電装置)やFCシステムを一新したことより、リニアで滑るような質の高い動き出しかつレスポンスの良い加速、高速域までパワフルな走りとともに、加速時の静粛性もアップしているほか、同時に、駆動方式を前輪駆動から後輪駆動に変更しました。
さらに、燃料電池自動車としての性能を大幅に向上させるため水素の積載量を拡大し、従来型で650キロだった航続距離を約1.3倍延長することを目指すとしています。
ミライ コンセプトについて、チームエンジニア・田中義和氏は、次のように説明しています。
「エモーショナルで魅力的なデザインや、乗っているだけで笑顔になれるダイナミックで意のままの走り、ずっと走っていたくなるようなクルマを目指してミライ コンセプトを開発しました。
燃料電池自動車だからミライを選ぶのではなく、こんなクルマが欲しかったと思ってもらえるように仕上げています。水素エネルギー社会の実現をミライがけん引していければと思います」
※ ※ ※
世界の自動車メーカーは、電気自動車を中心とした電動化を進めるなかで、トヨタは電気自動車に加えて、ミライのような燃料電池自動車の開発をおこなっています。
日本は燃料電池自動車に対するインフラ設備が進んでいることもあり、2020年にメルセデス・ベンツは「GLC F-CELL」を販売開始、ヒュンダイも「ネッソ」を近々日本市場に投入するといわれています。
そんななかで、水素エネルギー社会をリードする象徴として、2020年末に登場する次期型ミライがどのような進化を遂げるのか注目したいところです。
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みんなのコメント
EV化では必要電力を貯めるバッテリーが大きくなり過ぎ現実的でないため、
燃料電池が有効と理解している。
また電気は送電時にロスが多いので
自然エネルギーで発電した電力で海水から水素を取り出し運搬する方がロスが少ない。
さらに水素とCO2から合成液体燃料(eFuel)を製造する事も技術的には可能。