VWとフォード 想定以上の大規模連携
text:Kenji Momota(桃田健史)
【画像】VWとフォードがタッグ 「変わる」クルマ4選【詳細】 全147枚
あれ、トヨタはどうなったのか……。
最近のフォードの動きを見て、そう思っているかたがいるのではないだろうか。
フォードは2020年6月10日、独フォルクスワーゲン(VW)と商用車、EV(電気自動車)、そして自動運転まで及ぶ総括的な技術連携を発表した。
具体的には次の通りだ。
商用車
2022年までに、フォードがミッドサイズ・ピックアップトラックをVWブランド「アマロック」として供給する。
フォードのベース車について明らかになっていないが、世界戦略車の「レンジャー」の兄弟車になると考えられる。
小型商用バンでは2021年を目途に、VW「キャディ」をベースにフォード次期「トランジットコネクト」を仕立てる。
その後、積載量1t級の商用バンについてはフォードが主体となりVWへの供給を進める。
EV(電気自動車)
2023年までにフォルクスワーゲンのEVプラットフォーム、MEB(モジュラー・エレクトリック・ドライブ・マトリックス)をフォードが採用した量産車を導入する。
自動運転
フォードが投資してきた米ベンチャーのアルゴ社にVWも投資し、フォードとVW共同での自動運転車の開発を目指す。
ただし、今回の連携は技術分野にとどまり、両社それぞれの資本参加は行わないという。
なぜ、両社連携はこのタイミングなのか?
両社連携 新型コロナウイルス影響?
今回の技術連携に及んだ理由について、2社それぞれがニュースリリースを出し、その中でCovid 19(新型コロナウイルス)拡大の影響を加味したという、CEO(最高経営責任者)のコメントがある。
いわゆる「コロナ後(ウィズコロナ、アフターコロナ)」での自動車産業の変化を指している。
他の自動車系アライアンス、例えばルノー日産三菱でも、こうした理由で技術連携の必要性を強調する。
だが、自動車産業の大変革は「コロナ前」からも大きく動き出してきており、「コロナ影響」はあくまでも、自動車産業の大変革を加速させた1つの要因に過ぎないのではないだろうか。
確かに「コロナの影響」によって、世界市場における自動車の生産と販売が2019年レベルまで回復するには、少なくとも2~3年かかるとも見方が業界内で多いのは事実だ。
だが、視点を変えると、「コロナ影響」は、経営サイドとして、労働組合を含む社員や部品供給など関連企業に対して「世界全体で厳しい局面なのだから、ここで大ナタを振るわざるを得ない」といった言い訳にも聞こえる。
今回のフォード/VWの連携では、商用車の生産拠点の見直し等で人員削減などが行われる可能性があるが、そうして雇用に関してのコメントないのが気になる。
もう1点、気になるのが電動化によるブランドのあり方だ。
電動化でクルマの差別化はどうなる?
VWのEVプラットフォーム、MEB(モジュラー・エレクトリック・ドライブ・マトリックス)では、「ID.3」を皮切りとした、VWグループ全体でのEV化が加速している。
ブランドとしては、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、スペインのセアト、チェコのシュコダ、さらにランボルギーニとベントレーまで、VWグループ全体へと及ぶ。
EV普及で最重要なことは、電池、モーター、制御系などの電動駆動系の量産効果を高めるための共通プラットフォーム化であることは、自動車業界の常識となっている。
テスラや、中国のEVベンチャーでも、同様の考えを持つが、世界最大級のVWグループによるEVシフトが世界市場に与える影響は計り知れない。
一方で、VWのEVシフトについては、あまりに規模が大きく、しかも短期間に行う計画であるため、業界内からは「本当にやり切れるのか?」、「やり切れなければ、業界全体としてのEVシフトが頓挫する」といった声があるのも事実だ。
そうした中で今回、フォードがVWとEVで組んだ。
フォードとしては、GMがホンダ向けにEVプラットフォームの提供を発表し、ルノー日産三菱では日産主導のEVプラットフォーム共有化が明確になる中、EVで組める相手を探してきた。
当然、候補の1つはトヨタであったはずだが、2019年7月にはVWとの連携を公にし、今回の詳細発表に至った。
トヨタではなくVWと組んだ理由は?
フォードは電動化について、トヨタとの連携を進めた時期がある。
2011年に、SUV向けのハイブリッド技術や、通信などによるテレマティクス技術での共同開発を行うと発表している。
だが、2010年代中盤以降、VWのEVシフトが加速。一方のトヨタの電動化戦略はハイブリッド車と燃料電池車に重きを置き、EVは当面、短距離移動のシティコミューターを想定。
フォードは量産型EVについては、EV技術で定評があり、さらに独自の生産ラインを持つカナダのマグナインターナショナルと協業し、フォーカスEVなどを市場導入してきた。
なお、今年(2020年)発売のマスタング・マッハeについては、VWのEVプラットフォームとの関係性についてフォードからコメントはない。
どちらにしても、フォードとしては今後、本格的なEVシフトに向かうため、スケールメリット(量産効果)と業界内での各種アライアンスを考慮した結果、トヨタではなくVWとの連携に踏み切ったのだと考えされる。
また、自動運転技術のアルゴにこれまで巨額投資してきたフォードに対して、自動運転技術での新規投資を検討してきたVWの思惑が一致したことも、EVでの総括連携に至った一因だろう。
一気に進む自動車産業再編。
果たして次は、どことどこが、どのように手を組むのだろうか?
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みんなのコメント
会社間の技術提携は特に珍しいものではありませんが、トヨタ・フォード間のものでせいぜい思いつくのは以前ひどく失敗しているHVピックアップのパートナーシップとHVの一部特許のライセンス程度ですし。
むしろ言語・企業文化の近いフォルクスワーゲンとの方がうまくいきそうですね。
利益の9割を北米・中米で得ているフォードと、収益のほとんどが中国・西欧のフォルクスワーゲンなので、競合する市場も少ないというのもメリットかもしれません。