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F1パワーユニット組立てノウハウ&信頼性を飛躍的に向上させたCT検査【ホンダのレース開発最前線/HRC内部公開1】

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F1パワーユニット組立てノウハウ&信頼性を飛躍的に向上させたCT検査【ホンダのレース開発最前線/HRC内部公開1】

 今年4月にホンダF1を始めとした四輪開発部門がHRC(株式会社ホンダ・レーシング)に今年の4月の意向して2輪モータースポーツ部門と統一されて約5カ月経った8月頭、これまで秘匿とされた研究開発拠点HRC Sakuraがメディアに公開されることになった。F1パワーユニット(PU)の研究開発に製造組立、そして国内四輪モータースポーツの最高峰、スーパーGT500クラスのNSX-GTの開発の一部が明らかになった。HRCの内部を、全4回に渡ってお届けする。

 最初にお伝えするのは、現在はレッドブル・パワートレーンズに製造供給しているホンダ/HRCのF1のパワーユニット、ICE(内燃エンジン)の組立と、パワーユニットの品質管理、精密検査を行うCT検査室について。

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 ホンダF1パワーユニットのエンジニアリングサポートは、大きく3つのフローに別けられる。

1)開発(設計→プロトタイプ製造→構成部品単体テスト→ダイナモテスト→サーキットシミュレーションテスト)

2)供給(生産計画/部品調達→国内外のサプライヤーからの部品受け入れ→在庫/出庫管理→組立→発送確認テスト)

3)レース運営サポート(発送→レース間メンテナンス→現地支援→X線/精密検査→分解確認→組立)

 このうち、昨年までのPU供給では1)から3)までのすべてのフローがSakura研究室内で行われていたが、今季からF1パワーユニットの開発が規定で制限され、今年からは2)の供給と3)の供給サイクルとなっている。

 今回の取材で公開された組立エリアは、写真のとおり広いスペースのなか、1基につき2名のスタッフが手組でエンジンを組立ていく。1基あたりの組立時間はおよそ1日8時間の作業時間で想定すると1週間/1基。今年の規定で1台あたり年間3基の規定で、4台×3基の12基はすでに発送済みで、この写真の組立は今回の取材向けに用意されたスペア用とのこと。

 F1エンジンを手組で組立てるにあたり、すべてのボルトにそれぞれ設定されたトルクで締め、そのために専用トルクレンチを独自開発して組立ている締結管理システムを作って、各作業エリアからパソコンで同じ指示書でどの順番でボルトを締めていくのかが独自トルクレンチと連動して、一括管理体制で組立てを行っているという。組立てられたエンジンは、性能テストで優れたいやゆる『いいエンジン』から供給されて行き、スタッフにとっては自分の組立てたエンジンがレッドブル、アルファタウリのどのチームに搭載されるかはわからずに組立てることになるという。

 それでも、自分が組立てたエンジンが4台のうち、どこに搭載されているかは把握できるとのことで、組立てるスタッフにとってはエンジントラブル、エンジンブローなどが起きてしまった際には、当然、大きな落胆を感じることになる。スタッフは入れ替わりで現地のサーキットにも行って、レース現場でメンテナンスを担当することもあり、およそ3年くらいを目処に異動で入れ替わることになるという。

また、走行後のエンジンの分解もここで行われるが、トラブルがあった際の分析などはさらに精密に検査するX線を使ったCT(コンピュータ断層撮影法)検査室にてチェックされることになる。
 
 こちらのCTスキャン室は残念ながら写真撮影はまったくNGだったが、「稼働率が高くて忙しいです」と担当者が話すように、裏を返せばホンダF1パワーユニットの信頼性を司る、髙レベルの秘匿のエリアとも言える。室内には2台の産業用CTスキャン機器が備えられ、場合によっては24時間の稼働が可能。業務は大きくふたつに別けられ、トラブルが発生した時の部品の原因解析、アッセンブリー状態で部品を分解することなく内部を確認できるのが大きなメリットだ。

 ふたつ目が、不具合が発生しそうな部品の健全性確認、スクリーニングという作業だ。これがまた非常に重要で、製造した部品、そして国内外のサプライヤーから供給された分品を使用する前に検査して良品のみを使用するよう選別することで、未然にトラブルを防ぐことができる。実は数百パーツ納入された部品のなかでも10パーセント近くに不良部品が見つかる場合もあるとのことで、この取材の時には温度センサーの初期不良の断線図が公開された(撮影は不可)。

 このCT検査室での作業が導入されたが4~5年前ということで、レースでの実績を考えると、ホンダF1のパワーユニットの信頼性が飛躍的に向上した時期と重なる。このCT検査での細かな事前チェックが、信頼性の向上に大きな役割を果たしていることは間違いない。最先端のF1パワーユニット開発には途方もない細かな作業の積み重ねと、スタッフひとりひとりの手と目による確認作業が必須なことが、組立て作業、そしてCT検査室の作業から感じられた。

【第2回エンジンベンチ、シミュレーション室編に続く】

株式会社ホンダ・レーシング(HRC)
1982年9月に設立され、2輪のモータースポーツ活動を中心に数々の実績を重ね、今年2022年の4月に四輪部門HRD Sakuraも移行し、ホンダのモータースポーツ活動が集約された。レッドブル、アルファタウリに供給しているF1パワーユニットはHRCとしてレッドブル・パワートレインズに支援。F1は今季からPU開発が凍結され、製造と供給をHRCが担っている。国内ではスーパーGTのエンジン、車体開発、そしてスーパーフォーミュラのエンジン、そして将来的な車体開発、ドライバー育成を受けもつ。今年で40周年を迎える。




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みんなのコメント

11件
  • 誤字ひどくないですかね。
    いやゆるとか
  • ホンダはスゴイよな技術的な事をいつも惜しげも無く見せてくれる。
    F1のインディもTVでカメラ入れてたし。
    自社技術に自信がある証拠だね。
    トヨタだと余所に頼んでるから絶対有り得ない。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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