マイナーチェンジを受けた「デリカD:5」のフロントマスクが、なかなか理解できなかった。自動車デザイナーというのは、ジョルジェット・ジウジアーロがデザインしたフォルクスワーゲンの初代「ゴルフ」の機能美とか、ピニンファリーナが手がけたフェラーリ「ディーノ206GT」の抱きしめたくなるような愛らしさに憧れて志す職業ではないのか。
それなのに、あぁそれなのに、それなのに……。
クオリティをさらに高めたPHEVのパイオニア──ミツビシ新型アウトランダーPHEV公道試乗記
その一方で、自分は“ヨーロッパ車かぶれ”ではないか、とも思うのだった。パルテノン宮殿をモチーフにしたロールズ・ロイスのいかつい顔は認めるクセに、デリカD:5に限らず昨今の日本製ミニバンの“コワオモテ”を好ましく思わないというのは、ヨーロッパ車偏重であるようにも感じる。
デリカD:5の顔をまじまじと見ても、何も答えてはくれない。そのとき、2018年のとあるニュースが頭に浮かんだ。ユネスコが「来訪神 仮面・仮装の神々」を、無形文化遺産に登録するように勧告したというニュースだ。
以下、私が立てた仮説である。
日本のミニバンのコワい顔は、ナマハゲに代表される来訪神の影響を受けているのではないか。ナマハゲが「悪いゴはいねぇが~」と、言いながら家庭を訪れて厄を払うように、日本のミニバンもコワい顔で厄払いしてファミリーに幸せをもたらすのだ。
外国から来た人に、「このクルマは来訪神をモチーフにした日本オリジナルの造形です」と、説明したらもしかすると納得してもらえるのではないか。
洗練されたオンロードの走り
いざ走り出すと、洗練されたドライブフィールに感心する。燃料を噴射する装置などを見直した2.2リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンは、余裕ある加速をもたらす一方で、ノイズもバイブレーションも極めて小さい。
新開発の8速ATもいい仕事をしていて、変速ショックは小さいのに素早くギアを切り替える。気はやさしくて力持ち、ナマハゲというより金太郎のようなパワートレーンだ。
試乗したのはクローズドのコースで、おのずとペースは上がる。エンジンのレスポンスは良好で、コーナーから脱出する時にアクセルペダルを踏み込むと間髪入れずにタイヤにトルクが伝わる。ディーゼルエンジンを積んだミニバンということで、「もっさりと走るのではないか?」といった先入観を抱いていたけれど、とんでもなかった。
コーナリングフォームも安定している。グラッと傾かず、気持ちよくコーナーをクリアする。ハンドルを切ったとき、ノーズがスッとイン側に向きを変える。業界用語で言うところの“回頭性の良さ”に感心した。
あまりに感心したので、三菱自動車のエンジニア陣に「なぜこんなに気持ちよく曲がるのか」と、尋ねたところ、大きくふたつの理由を挙げた。ひとつは、マイナーチェンジなので基本骨格はいじっていないものの、前輪から前の部分だけは仕立て直したというのだ。力がくわわったときにねじれない強さにこだわったのが、正確な操縦性とハンドルの手応えのよさにつながったという。
もうひとつは、「ランサー エボリューション」で培った4WDシステムの向上だ。4輪へ適切にトルクを配分し、コーナリング能力を引き上げる制御技術が、よりきめ細やかになったのだ。
ランサー エボリューションに搭載した4WDシステムは、低μ路でも滑らない安定性を獲得するだけでなく、トルク配分によってコーナリング性能が向上するのを証明した。その技術が、デリカD:5にも活かされているのだ。
4WDシステムは、オフロードコースでさらに霊験あらたか。2WDの状態では登れない急坂も、スイッチを4WDに切り替えると涼しい顔ですいすい登る。
オフロードコースでは、パリ-ダカール・ラリーで優勝経験のある、三菱自動車の増岡 浩さんが模範演技を披露してくれた。スキーのモーグル競技をおこなうような凸凹を軽々と乗り越え、軽くテールをスライドさせながら未舗装路を疾走する。こんなミニバン、ほかにはない。
ルックスと同じぐらい、走りにもびっくりさせられたのであった。これだけの個性を持つミニバン、いやクルマは世界中探してもなかなか思いつかない。いろんな意味でデリカD:5はすごいクルマであった。
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