オープンカーを育む北米市場
text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)オープンスポーツカーにはいつの時代も一定数の需要がある。開放的なクルマの繁栄をけん引してきたのは北米市場だった。
例えば燦さんと太陽光が降り注ぐアメリカ西海岸カリフォルニアにおいて、オープンスポーツカーはアメリカントラックと同じくらいポピュラーな乗り物なのである。
ヨーロッパ製のオープン2シーター・スポーツカーの多くは、今も昔もそのほとんどが北米市場に向けに作られ、彼の地で消費されていく。
だったらいっそのこと生産も北米で行えば手っ取り早い。BMWは1994年にアメリカ、サウスカロライナ州にスパータンバーグ工場を建設し、Z3を作りはじめる。
現在はSUVのXシリーズの生産拠点としても知られる新工場の建設は、SUV全盛の今になってみれば先見の明があったと言えるだろう。
北米というキーワードを踏まえてZ3を観察すると、Z3のアグレッシブなスタイリングはフォード・マスタングやシボレー・カマロの影響を受けているように思える。
だがBMWの歴史を振り返ってみれば、Z3が1950年代半ばに登場したオープン2シーターであるBMW507の遠い子孫であることが理解できるはずだ。
特にフロントタイヤのすぐ後ろ、ボディサイドのエアアウトレットにBMWのエンブレムを据えるデザイン手法は完全に507のそれを踏襲しているのである。
キーワードは北米とマツダ?
歴史的に見るとオープンスポーツカーは、その時代に最も数多く生産されていたモデルのコンポーネンツを流用して作ることが多い。BMWであればそれは3シリーズということになる。
Z3の場合はE36/7、E36/8という型式からもわかる通り、1990年にデビューしていたE36型3シリーズの流れをくむ。
だが実際にはE36/5という型式を与えられた3シリーズ・コンパクトが直接的なベースモデルとなっている。
E36はリアに新開発のマルチリンクサスペンションを装備していたが、現在の1シリーズの直接的な祖先となる3シリーズ・コンパクトは、コストダウンのため(日本で販売されるBMWとして初めて300万円を切る価格設定がされていた)E30譲りのセミトレーリングアームを採用していた。プラットフォーム自体もE36とE30を混ぜ合わせたものが採用されていたのである。
Z3の後継モデルであるZ4の中身は最新のBMWスポーツカーとして作り込まれており、Z3より1クラス上のプライスタグを掲げている。
だが1代のみでZ4という名称に変わってしまったZ3は、どちらかといえばシンプルであることに徹したモデルに見える。
それはなぜか?
ひとつ目のキーワードは前述の「北米」であり、もうひとつが90年代初頭にマツダ・ロードスターが発掘したマーケットを狙ったものだからである。
ライトウエイトから本筋への回帰
90年代半ばに勃発したライトウエイト・オープンスポーツカーのブームはマツダ・ロードスターの後追いによりはじまったと言っていい。
BMW Z3のみならずメルセデス・ベンツSLK、MG-F、フィアット・バルケッタ、そしてロータス・エリーゼ等々、世界中のメーカーが忘れかけていた小型オープンカーのマーケットに着目したのである。
BMW Z3は1996年のデビュー当初は1.9L直4エンジンを搭載したモデルのみがラインナップされており、トランスミッションは4速ATと5速マニュアルから選ぶことができた。
エントリーモデルの日本の価格は350万円ほどだったので、180~250万円という価格帯だったマツダ・ロードスターの直接的なライバルとは言えないが、BMW製のオープンカーとしてはリーズナブルといえた。
だが1996年から2003年までのZ3のモデルライフを振り返ってみると、シンプルなオープン2シーターを目指した当初の狙いが少しずつ変化していく様子が見てとれる。
2.2から2.8Lの直6気筒エンジンを搭載したモデルやM3用のパワーユニットを搭載したMロードスター、Mクーペといった派生モデルが追加され、BMWらしいプレミアム路線へと少しずつ回帰。その結果として現在まで続くZ4シリーズに繋がっていくのである。
後編では実際に6気筒エンジンを搭載した2002年式のZ3 2.2を試乗し、Z3のドライブフィールに言及してみたい。
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