130台以上が10時間後のチェッカーに向けて走る
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「K4GPに参戦」です。軽自動車だけの耐久レースとして人気があり、2023年はトーヨータイヤワークスとして参戦しました。レースの楽しさや難しさなどを語ります。
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モータースポーツの醍醐味を味わえる
もはや夏のモータースポーツの祭典に昇華した「K4GP」が2023年も華やかに開催されました。正式名称はK4GP「10時間耐久レース」で、戦いの舞台は静岡県・富士スピードウエイ。日時は、お盆休み真っ盛りの8月14日です。
その名称から想像できるように、軽自動車で競われるレースであり、定められた燃料で10時間を誰よりも速く走ったものが勝者になります。
僕は本格初参戦となるトーヨータイヤのドライバーとして、「プロクセスTR1」を装着したダイハツ「コペンGR SPORT」で出場したのですが、それはそれはレジャーとしてのモータースポーツの本質がぎゅうぎゅうに詰まっており、心の底から楽しむことができました。
僕がトーヨータイヤのトヨタ「GRスープラ GT4」で参戦しているニュルブルクリンク24時間耐久レースは超真剣勝負ですが、ここには緩やかなアットホームな空気が流れているのです。
規則がとても緩いことに頬が緩みました。10時間耐久レースであり、130台以上のマシンがグリッドに並びます。ですから接触もありますし、クラッシュも起こります。だというのに、レーシングスーツの着用義務もありません。レースというより走行会といった要素も含まれているのですね。
われわれトーヨータイヤはワークス体制で挑んだこともあり、ドライバー全員が揃いのレーシングスーツを新調しました。ですが、クラッシュから頸椎を保護するハンスシステムを着用していたのは僕ぐらいなもので、物々しい重装備が逆に目立っていたほどです。
そんなですからマシンの規定も緩いのです。市販車を改造するチームがほとんどですが、速さで勝るクラスの中には、6輪のフォーミュラーカーを製作したチームもあり、コースを華やかに彩っていました。
市販車改造クラスも自由奔放で、マシンを軽くしたいという理由で、リアガラスを取り外してしまっていたり、ボディの鉄板を大きくくり抜いているマシンも少なくありません。
自由にレースを楽しめる雰囲気がいい
一般的に行われているJAF傘下のレースでは、厳格に規則が決められており、チームの自由な発想が封印されます。例えばラジオのスイッチが取れてしまっただけで失格が言い渡されます。レーシングスーツの下には耐火素材のウエアを着なければなりませんし、ちょっと袖をまくっただけでペナルティの対象になります。速さにはほとんど意味をなさないのに、規則は規則だからというわけです。
そんな窮屈な雰囲気は、このレースにはありません。それぞれが自由にレースを楽しんでいるのです。一方で、ライバルチームの不正を暴こうと目を光らせているチームもないように思えました。
130台ものマシンがグリッドに並ぶのですから、レベルの差はマチマチですが、多くのマシンが家庭的な雰囲気で運営されていましたね。チーム員で小遣いを出し合い、中古車屋さんから数万円で購入してきたマシンを好き勝手に改造して参戦する。ピット内は家族の笑顔であふれています。
それでいて楽しいのは、勝利するには緻密な作戦と高度な頭脳が求められることです。使用できる燃料が定められており、しかも1回の給油量に制限がある。レース中に6回の給油が課せられます。給油は、パドック内のガソリンスタンドで作業しなければなれません。ですからチームごとに給油システムを準備する必要はありません。
アクセルを全開で走っていれば燃料が底をついてしまいます。ですから効率のいいエコラン運転が求められるのですが、さらに加えて、給油の量、そのタイミングなどが勝敗を分けるのです。単純なお遊びレースではなく、奥がとても深いのです。ですから豊富なノウハウが必要です。一度参戦したら病みつきになりますね。
こうしてモータースポーツの紹介記事を執筆するときにはたいがい「ぜひ観戦に来ませんか?」と締めることが多いのですが、今回に限っては、この言葉で綴じたいと思います。
「ぜひ、参加してみませんか?」
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一般人がスポーツ始める感覚ではスタートできない
経済的にも金持ちにしかできない