厳しい中での光明 Iペイスが40%増
text:Kenji Momota(桃田健史)
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やはり、厳しい内容だった……。
英国のジャガー・ランドローバー(JLR)が4月18日に発表した、2019年度(2019年4月から2020年3月)の世界販売総数は50万8659台。
前年度比では12.1%減となった。
ブランド別では、ジャガーが22.0%減、ランドローバーが7.7%減である。
販売減少を最大要因は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響だ。第4四半期だけでみると、JLR全体で前年同期比30.9%減と落ち込み幅が大きい。
市場別で見ると、地元英国が9.6%減、北米が7.5%減、中国が8.9%減、欧州全体が16.1%減、日本を含むその他の国で20.3%減となった。
中国については、第2四半期と第3四半期ではそれぞれ前期比10%以上増だったが、2020年1月以降に中国各地で経済活動が急速に冷え込んだ。
中国の後、経済への打撃は欧州、日本、北米に広がっている状況だ。
JLRに限らず、自動車産業界全体に対する新型コロナウイルス感染症の影響は極めて大きい。
そうした中でも、JLRでは昨年度比で販売が伸びたモデルが2つある。
1つは、レンジローバー・イヴォークで、前年度比で24.7%増。
もう1つが、ジャガーIペイス。前年度比で40.0%増と大きく伸びているのだ。
イヴォークは2019年から新型導入となったことで、乗り換え需要を含めて販売が伸びることは十分に理解できる。
一方で、EVであるIペイスがここまで大きく伸びた背景には何があるのか?
ジャガー初のEV 誕生当時は期待薄
正直なことを言うと、登場した当初、メディアはIペイスに対する関心が低かった。
2016年11月の米ロサンゼルスモーターショーで、2018年量産予定としてワールドプレミアされた時、筆者(桃田健史)を含めたメディアの見方は、いわゆる「one of them」だった。対象を自動車に限らず、欧米人がこう表現する場合、「可もなく不可もなく」といったニュアンスである。
当時、EVといえば、テスラが躍進中で、モデルSに次ぎモデルXの量産体制がやっと整い始めた頃。
さらに、セールスボリュームが大きな新車価格5万ドル市場向けにモデル3が発表されるな否や、驚異的な先行受注数を記録していた。
そんなテスラ新派が多いカリフォルニアに登場した、Iペイスに対して「モデルXに便乗したもの」といった冷ややかな見方もあった。
そうした状況が徐々に変わった。
その後の欧州各地のモーターショーで、Iペイスのボディ骨格や電動システムなどの技術展示がされ、ジャガーのEVに対する本気度がメディアや一般ユーザーの中に徐々に伝わり始めた印象がある。
こうした地道なマーケティング戦略を経て、量産が開始されると、実車に乗ったメディアや、他の自動車メーカー関係者の間で「これは、テスラとは別格だ」という声が挙がり始めた。
「別格」とは、何を意味するのか?
「EVなのに」エモーショナル
EVというと、アクセルに対するモーターのレスポンスが良く、確かに加速はいいのだが、「なんだか無機質な感じがする」という感想を持つ人が多い。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンによる振動や音を基準とするば、EVに対して無機質とか、味気ないとか、そう思われるのは、人として自然な感覚だと思う。
ところが、Iペイスの場合、なんだかちょっと違うのだ。
メディア関係者は、エモーショナルという言葉で、その違いを表現することが多い。
動力性能を数値化すれば、最大出力400ps、最大トルク71.0kg-mで、0-100km/h加速が4.8秒なのだが、テスラやその他のEVと比べて、速いとかちょっと遅いとか、そういった尺度では語れない違いがあると、世界各国のメディアが言い出した。
ボディデザイン、インテリアデザイン、着座位置、前方視界、モーター音、タイヤを通じたロードノイズなど、Iペイスを構成する世界感がある、と。
こうした「玄人ウケ」が、2019年ワールド・カーオブ・ザ・イヤーなど世界各地での受賞に直結した。
メディアでの評価が初期需要を呼び、さらに実車を乗った富裕層のなかでSNSを通じて評価の声が広まった。
日本を含め、2018年度の途中から発売された国があり、2019年度と販売台数を単純比較できないともいえるが、世界的に徐々に人気の火がついたと見るべきだろう。
Iペイスの売り上げが伸びた理由がもう1つある。
ついに始まったプレミアムEV市場
別の角度から、Iペイスの売り上げが伸びた理由に、プレミアムEV市場が確立されつつある世界市場の動向がある。
EVの歴史は100年以上あり、実証試験や、少量販売、または少量リース販売などが行われたが、大手自動車メーカーの本格に大量に乗り出したのは、2010年の三菱i-MiEVと日産リーフとまだ日が浅い。
その後、プレミアムな大量生産型EVでは、テスラ・モデルSとモデルXが市場を切り開いたが、テスラを追う動きはなかなか見えてこないなか、Iペイスが登場した。
それが2010年代後半に入ると、中国の新エネルギー車(NEV)政策や欧州グリーンディール政策などの影響が鮮明になる。
ポルシェ・タイカン、フォード・マスタング・マッハe、レクサスUX 300e、GMCハマーEVなど、プレミアムEVの量産決定や量産計画発表が相次いでいる。
こうした中で、IペイスはプレミアムEV市場のリード役の1つとなっている。
日本では、伝統のジャガーブランドとEVとの結びつきを実感している人がまだ少ないのかもしれないが、ジャガーEV戦略はまだ始まったばかり。
JLR(ジャガー・ランドローバー)は今後、プレミアムEVのリーディングカンパニーとなることを明言しており、Iペイスのさらなる改良も含めて、様々なニューEVが登場することが確実だ。
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