売れていなくてもいい車はたくさんある! そう信じ続けて何度も紹介企画をお届けしている当サイト。そろそろ最新版をお届けすべく、今回(2017年秋板)は車種セレクトからジャーナリストの渡辺陽一郎氏にお願いしました。
売れてないと、(売れている車に比べて)メディアへの露出も減るし、ディーラーの店頭や横断幕で目にする機会も減ってきます。宣伝素材に使われる機械も減り、地味な車はどんどん地味に。
使い勝手抜群のSUVはこれだ!! 最新国産SUV居住性&ユーティリティランキング
しかしそれでもいい車はいい! 乗ればわかる! 知ればわかる! そう信じて、最新版をお届けします!
※なお本企画では2017年8月の月販台数が1000台以下(3ケタ)の車種を集めました。この月の車種別販売台数1位はホンダN-BOXで9810台、2位は日産ノートで9681台、3位トヨタアクアで8174台となっております。
文:渡辺陽一郎 写真:池之平昌信、MAZDA、TOYOTA、SUBARU、MITSUBISHI
■「売れない車」にも理由があるものとないものがある
クルマが好調に売れていた20世紀には、1か月の平均販売台数が3桁以下(1000台未満)になったら、いつ生産を終えても不思議はないといわれた。
ところが今は日本で売られる乗用車の半数以上が1000台未満になる。特にセダンは大半の車種が海外向けに開発された3ナンバー車で、商品の全般的な特徴も日本のユーザーから離れて売れ行きを下げた。
その結果、販売台数が4桁に達する車種の多くは5ナンバー車で、カテゴリーは軽自動車/コンパクトカー/一部の3ナンバー車を含めたミニバン&SUVとなる。日本のユーザーの共感が得られるクルマを選ぶと、必然的に上記のカテゴリーに落ち着くのだ。日本車の多くが日本のユーザーから離れた結果、車種ごとの売れ行きも二極分化した。
注意したいのは、販売台数が3桁以下の車種には2つのタイプがあること。ひとつは前述のように海外向けで、本質的に日本では選びにくいクルマだ。2つ目は日本の道路環境などを視野に入れて開発されながら、商品の性格が絞り込まれ、販売台数を伸ばせないタイプになる。この典型がスポーティモデルだろう。
2つ目については、売れ行きは少ないが、熱烈なファンが多く少数でも着実に売れている。この3桁モデルを5車種挙げたい。
■マツダ ロードスター 2017年8月販売台数 415台
まず運転の楽しいスポーティモデルにはマツダロードスターがある。全長を4m以下に抑えた2人乗りのスポーツカーで、駆動方式は後輪駆動だ。そのために前後輪の重量配分が優れ、操舵感は適度に機敏で軽快に曲がる。後輪駆動だからアクセル操作によって車両の挙動をコントロールする楽しさも併せ持つ。
さらにオープンモデルだから、ありふれた街中の移動でも爽快な運転の楽しさを満喫できる。日常生活の中でも魅力を味わえる実用的なスポーツカーだ。
ソフトトップは1.5Lエンジンを搭載して、車両重量はスポーツ指向の装備を充実させたRSでも1020kgに収まり、軽快な走りに磨きを掛けた。RFは電動開閉式のハードトップを装着して2Lエンジンを搭載。ボディ剛性が高まって快適性も優れ、長距離を移動する用途にも適する。ロードスターはスポーツカーでありながら多用途性が魅力となる。
■スバル WRX S4 2017年8月販売台数 389台
スポーティモデルではスバルWRXも挙げられる。水平対向4気筒2Lのターボエンジンを搭載する高性能セダンだが、全幅を1800mm以下、最小回転半径を5.5m(WRX S4・2.0GTアイサイト)に抑えるなど取りまわし性にも配慮した。日本の狭く曲がりくねった峠道でもボディの大きさを持て余さない。
動力性能と走行安定性は抜群に高く、ドライバーの意図どおりにカーブを確実に曲がり、危険を回避する時でも挙動の乱れが少ない。その上で運転のしやすさも兼ね備える。乗り心地や後席の居住性も優れ、ファミリーカーとしても使いやすい。日本国内で購入できる最も優秀なスポーツセダンと考えられる。
■三菱 アウトランダーPHEV 2017年8月販売台数 293台
最先端の環境性能を備えた車種では、三菱アウトランダーPHEVに注目したい。2Lエンジンは主に発電機の作動に使われ、ホイールの駆動は限られた巡航時を除くと前後に配置されたモーターが行う。そのために加速感が滑らかで、乗り心地を含めて上質な走りを味わえる。4輪の駆動力制御も綿密に行われ、走行安定性と乗り心地のバランスが優れている。
さらにハイブリッド車でありながら充電機能も備わり、駆動用リチウムイオン電池の総電力量は12kWhを確保した。エンジン音や振動を発生させないモーター駆動による上質な走りを、長い距離にわたって楽しめる。
■トヨタ ポルテ 2017年8月販売台数 555台
そして日本の市場に適した背の高いコンパクトカーやミニバンにも、売れ行きが伸び悩みながら、実際に使う人達からは高い支持を得ている車種がある。
この典型がトヨタポルテ(あるいは姉妹車のトヨタスペイド)だろう。全長が4mを下まわるコンパクトカーだが、全高は1690mmとミニバン並みに高く、広い室内を備える。
ドアの配置は左側が1枚のスライド式、右側は前後に2枚の横開き式とした。左側に備わるスライドドアの開口幅は1020mmとワイドで、床面地上高(床と路面の間隔)は300mmに抑えたから、助手席の乗降性が抜群に良い。高齢の同乗者にも優しく、福祉車両のような使い方ができる。
また後席には座面を持ち上げる機能が備わり、助手席を前方に寄せると車内の中央が広い空間になる。床の低いスライドドアから、車内の中央に荷物を積み込むことも可能だ(ただし衝突時に加害性を持つ荷物は避けたい)。
このようにポルテはほかの車種にはない魅力を備えるため、実際に使う人達の満足度が高い。それなのに売れ行きが低迷するのは、左右非対称のボディが、一般的な用途ではメリットをイメージしにくいからだ。後席に座った乗員が左側から乗り降りする時も不便を感じる。緊急自動ブレーキのトヨタセーフティセンスCの装着が、2016年6月にズレ込んだことも販売が伸び悩む原因となった。
今では背の高いコンパクトカーとしてトヨタルーミー&タンクも用意され、販売台数はさらに落ち込んだが、走行性能、乗り心地、内装の仕上げなどはポルテ&スペイドが優れている。ルーミー&タンクは、わずか2年間で開発された経緯もあり、商品力はポルテ&スペイドに劣る。
■三菱 デリカD:5 2017年8月販売台数 874台
ミニバンではデリカD:5も根強い人気に支えられている。プラットフォームはアウトランダーと共通で、4WDには前後輪に駆動力を配分する油圧多板クラッチの締結力を高めるロックモードを装着した。最低地上高はSUVの平均水準を上まわる210mmを確保して、悪路のデコボコも乗り越えやすい。ミニバンの4WDではナンバーワンの走破力を備える。
さらに2.2Lのクリーンディーゼルターボも用意した。今のところミニバンでは唯一のディーゼル車だ。
そしてもうひとつの魅力は居住性。全長が4800mmを下まわるミニバンでは3列目シートのスペースが最も広く、1/2列目の座り心地も快適だから多人数乗車に適する。これらの商品特徴は、いずれもデリカD:5でなければ得られない。そのためにデリカD:5を何台も乗り継ぐ根強いファンが少なくない。
また三菱の販売店舗数は全国に約600箇所だ。トヨタ4系列を合計した4900店舗、ホンダの2200店舗、日産の2100店舗に比べると圧倒的に少ない。デリカD:5の月販台数が800台にとどまっても、1店舗当たりの取り扱い台数は、ホンダや日産の2倍以上になる。これはアウトランダーPHEVについても同様のことが当てはまる。
三菱に限らず、販売台数を評価する時には、販売店舗数も視野に入れないと過小評価することになるので注意が必要だ。
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