ドイツが誇る最強のプレミアムクラスEV、ベンツEQSとポルシェタイカンクロスツーリスモの2台には一体どのような違いがあるのか? EVの真髄を徹底評価する!!
※本稿は2024年1月のものです
文/水野和敏、写真/ベストカー編集部、撮影/池之平昌信
初出:『ベストカー』2024年2月26日号
ベンツEQSはシートが超イイ!! ポルシェタイカンクロスツーリスモは空力対策がイマイチ!? ドイツ最高級BEV2台超辛口比較!!
■EQSとタイカンで対決
ポルシェ タイカンターボ クロスツーリスモ(手前)とメルセデスベンツ EQS450+ Edition1(奥)
新年明けましておめでとうございます、水野和敏です。早いもので2024年が明けてもう1カ月が過ぎようとしています。
元日から能登、北陸地方では地震災害が発生しました。とても大きな災害になり、心が痛みます。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。一日も早く平穏な生活に戻れるよう心よりお祈りいたします。
さて、新年最初に取り上げるのはプレミアムクラスのEVです。ポルシェタイカンクロスツーリスモとベンツEQS。タイカンは以前も取り上げましたが、今回はSUVテイストの5ドアハッチバックボディのクロスツーリスモです。ベンツは全長5mを超えるフラッグシップサルーンのEQSです。
この2台、こうして並べてパッと見るとわかるのですが、ポルシェとベンツというメーカーの違いはあっても、プロポーションの主要な要素はほとんど同じです。例えばフロントバンパーの両端がサイドに折れて繋がっていく部分。角度や長さは両車ほとんど同じです。
いつも言っていることですが、「究極」を求めていけば、自ずと到達点は同じになります。
F1を見てください。航空機や護衛艦、新幹線も同様です。ディテール(加飾部分)は各チーム、各メーカー、鉄道会社などのブランドの特徴により違いますが、それぞれの分野でプロポーションの本質的な部分は同じです。
空力を求めながら、航空機であればキャビンの広さ効率も大切です。当然、最適な解はひとつに収束されていくのです。突き詰められたクルマであっても同じことです。
ベンツやポルシェのエンジニアが空力を最善に考え、フラッグシップサルーンのパッケージングを作り上げれば、基本プロポーションに大きな違いが出るはずがないのです。この2台を見れば、まさにそれがわかります。
タイカンとEQSでは、たしかにボンネットフードの高さは異なりますが、EQSのフロントグリルはフルカバーされていてグリル開口の影響がないため、EQSのフードの高さはほとんど空力には影響しません。
タイカンのヘッドライト形状は面白いです。ヘッドライトに当たった風はライト表面に沿って斜めに流れますが、そのままフロントフェンダー内部に取り込まれる形状となっています。これはデザインと空力をうまく融合させた造形です。
■2台の空力対策
EQSはワンモーションのフォルムを採用するが、これはベンツのEVシリーズとしての新しさを表現したものだ。タイカンは、このクロスツーリズモでは5ドアハッチバックを採用しているが、リアセクションではフェンダーを張り出させて911シリーズのプロポーションをイメージさせている
車体側面を見てください。両車ともにサイドシル下方にリップ状のスカートを付けています。車体下面を流れる風がサイドシルの下から漏れないようにするためです。
タイカンのAピラーはずいぶんと立たせて、ボンネットを大きく見せ、力強いスポーツ感を演出しています。ここはポルシェの特徴的なシルエットで、EV化してもポルシェとしては継承したいポイントだということでしょう。
EQSはボンネットフードの傾斜角度がAピラーにそのまま繋がった、いわゆる「ワンモーション・フォルム」を採用していますが、それ自体に空力面の効果はほとんどありません。むしろ従来のエンジン搭載車と差別化した、未来感の演出です。
それよりも、タイカンクロスツーリスモは最初に登場したスポーツセダンタイプに比較して空気抵抗は相当増えています。
リア周りをスポーツワゴン風のバックドア形状にしているため、ルーフ後端部では風を巻き込み乱流が発生するためです。その対策としてルールスポイラーを装着していますが、充分ではありません。
また、車体の側面を流れる風が車両後部に巻き込むことで作られる大きな「渦」が生みだす空気抵抗を減らすために、リアフェンダー部を張り出して「大きな棚」が設けられていますが、これも充分ではありません。
セダン形状とワゴン形状での空気抵抗の違いは、ベンツCLAのクーペとシューティングブレークでも、タイカンと同様に起こっています。
EQSはトランクリッド後端のリップスポイラーがもの凄く効いています。ルーフ後端からリフトバック形状で斜めのラインとなっているため、ルーフ後端の風は途中で剥離して渦を作ってしまいます。
しかし、この小さなリップスポイラーによって巻き上げられた風が乱流部とぶつかることで打ち消し合うのです。結果的に、長く真っ平なトランクリッドのクルマと同様なスムーズな風の流れを作っているのです。
EQSのホイールは空力を考えた造形です。ホイール側面に沿ってきれいに風が流れます。また、ホイール内側の風をきれいに外へ排出しています。
タイカンはそれほどでもありません。EQSのCd値は0.2ですが、タイカンは0.25前後だと思います。クロスツーリスモではないスポーツセダンタイプでは0.21程度でしょう。
■最新のインパネは液晶パネルだらけ
EQSのインパネは全面に広がる液晶が印象的だ
EQSはサッシュレスドアなのですね。しかしそのぶんウェザーストリップは分厚いゴムが三重になってしっかりとシーリングしています。ドアの開閉もしっかりとしています。
サイドシルは分厚いですが、大容量のバッテリーを搭載して、側面衝突の対策をすると、この程度になるのは当然です。乗降性も問題はありません。
インパネはもの凄いですね。運転席から助手席まで全面液晶パネルで、センターには大型のモニターが配置されます。助手席側の液晶画面では、例えばPCやスマホ画面を表示したり、エンターテイメント類の表示や動画の再生もできます。これはインパクトがあって凄いですね。
インテリアトリムの質感もよく、アルミ素材の使い方も上手です。
EQSのシートはもの凄くいいです。ベンツのなかでは一番です。形状はもちろんですが、革の質感がとても上等。手触りやソフトな座り心地、さらに適度な沈みや包まれ感。このシートは素晴らしいです。
ワンモーション・フォルムではAピラー周りの視界がプリウスのように大きな死角なっていないか心配でしたが、実際に運転席に座るとまったく問題はありません。ピラーの裏側には大きな三角窓があるので、歩行者や対向車、ガードレールの視認性は確保されています。
後席ドアもサッシュレスのシーリングが三重でしっかりとしています。それにしても液晶タブレットがあちこちに配置されています。前席背もたれ部に後席乗員用のモニター画面があります。
センターアームレストにはシートやエアコンなどを操作する液晶タブレッドがあります。これは着脱式で、後席の乗員がゆったり座ったままでの操作もできます。
リアシートもいいですね。リクライニング幅も大きく、居住性は素晴らしい。
後席乗降性もいいです。サイドシルはちょっと厚みがあるもののフロアとの段差が小さく、また、シート座面がちょうどいい高さなのでお尻がスッと出し入れできます。ドア開口部下側の間口が広いので、足の出し入れもスムーズです。
■基本的には2+2のタイカン
タイカンのインパネも液晶パネルが3枚使用されている
タイカンのインテリアを見てみましょう。
ウェザーストリップは二重ですが、厚みがあってサッシュレスドアのサイドウィンドウガラスをしっかりと抑え込んでいます。
設計さえしっかりとしていれば、サッシュ付きのドアよりも、サッシュレスのほうが風切り音は減らせるのです。サッシュ付きはガラスとの段差が生じるので、200km/h以上の高速域では風切り音が出やすいのです。
タイカンのインパネも左右いっぱいに液晶画面が配置されています。メーター表示はセンターに大型速度計を置いたポルシェらしいメーター配置です(モーター回転表示のタコメーターがないのが残念ですが……)。
シートはバケット形状でフィット感は素晴らしいのですが、表皮が滑りやすく、結果的にホールド性はやや劣ります。
ステアリングはちょっと握りが細くて頼りない印象です。スポークもプラスティック感むき出しで、安っぽさを少し感じます。
サイドシルの横幅が厚く、そのぶんシートが30mm程度内側に押し込まれています。
後席は座面クッションが薄くて硬く、背もたれも立っていてあまり居住性がいいとは言えません。あまり後席乗員を配慮した作りとは思えません。足元開口部も狭く、乗降性もいいとは言えません。
タイカンのリアセクションを外から見ればわかりますが、乗員の左右スペースは狭く、車体幅の多くをリアタイヤが収まるフェンダーの盛り上がりに使っています。ポルシェはあくまでも2名乗りで、後席はプラス2なのです。それは荷室を見てもわかります。タイカンの荷室横幅はコンパクトハッチ並みの狭さです。
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昔のアジアは排気ガスだらけだったので日本も発展途上国目指してるのかと