キャデラックの最新モデルにしてSRXクロスオーバーの後継車種である高級ミドルラージSUV「XT5クロスオーバー」。発売から約1年を経た今、河口湖周辺のワインディングで試乗する機会を得た。REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●ゼネラルモーターズ・ジャパン、遠藤正賢
キャデラックといえば今も昔も、アメリカ車の頂点に位置する高級車ブランドであると同時に、アメリカン・ドリームの象徴であり続けているが、その様相は21世紀を境に大きく変化を遂げている。
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20世紀末より欧州への輸出を本格化させたキャデラックは、2002年デビューの初代CTSより新たなデザイン哲学「アート&サイエンス」を標榜し、各車に極めてシャープかつ前衛的な内外装を与えるとともに、各車とも従来よりコンパクトかつスポーティなパッケージングへと一新。
また開発にあたっては、ドイツ・ニュルブルクリンクでその走りを鍛えるなど、従来の大柄でおおらかなアメリカ車、また本場アメリカでの「年寄りが乗るクルマ」というイメージを根本から覆すものへと生まれ変わった。
筆者が初めて運転したキャデラックは2007年発表の二代目CTSだが、当時その余りに上質かつソリッドな内外装と走りに感動する一方、居住空間まで極めてタイトなうえ、分かりやすくアメリカンテイストを感じ取れるのはストレートに格好良さを追求したインパネとメーターのデザインのみとなったことに、一抹の寂しさを覚えたことを今でも鮮明に覚えている。
そして、2015年の現行CT6本国デビューに先駆け、キャデラックは「Dare Greatly(大胆な挑戦)-その挑戦が、世界を変える」という新たなブランドコンセプトを掲げているが、独自の「アート&サイエンス」デザインに欧州車顔負けの走りといった、初代CTS以降に確立されたキャラクターは、最新のキャデラックにも確実に受け継がれている。昨年10月に日本での販売を開始したばかりという、現時点で最も新しいキャデラック、XT5クロスオーバーの実車に対面した時、その思いは確信に変わった。
エクステリアは、鋭いエッジを多用した「アート&サイエンス」のテイストを踏襲しながら流線型のデザインも織り交ぜられたことで要素が減り、より洗練されたデザインへと進化している。
こうした方向性は、インテリアにおいて一層顕著だ。インパネ中央のスイッチ類は小さく最小限にまとめられ、メーターも3眼から2眼となり、ステアリングもセンターパッドが小型化されたことで、洗練の度合いを大きく増している。
特に、今回試乗した上級グレード「プラチナム」のメイプルシュガー/ジェットブラックアクセント内装は、ベージュの色合いが明るく上品なだけではなく、インパネ正面やピラー、ルーフライニングのスェードと、インパネ天面やシートに用いられたセミアニリンレザーの触感が非常にきめ細かい。このインテリアが欲しいがために、XT5を買うユーザーがいたとしても、何ら不思議には思わないほどだ。それほどまでに、XT5のインテリアには人を圧倒する魅力がある。
インテリアが進化したのはデザインや質感だけではない。従来はデザインの犠牲になる傾向が顕著だった居住性・積載性も大きく改善された。日本仕様のXT5には後席までカバーする「ウルトラビューパノラミック電動サンルーフ」が全車標準装備されるため、後席のヘッドクリアランスこそ身長176cm・座高90cmの筆者が座ると2~4cm程度だが、ニークリアランスは20cm以上の余裕があり、充分にくつろいで過ごすことができる。
ラゲッジルームも、全席使用時で850L、後席を全て倒した状態で1784Lの容量が確保されているうえ、後席には40:20:40の分割可倒機能が備わっているため、ロングドライブやアウトドアスポーツに出掛ける時でも荷物の置き場に困ることは少ないはずだ。
他社はもちろん当のキャデラックもCTSやATSに2.0L直4直噴ターボを設定する中、日本仕様のXT5はCT6と同じく、低負荷時に6気筒から4気筒に切り替える気筒休止機構を備えた3.6L V6直噴NAエンジンと8速ATのみを設定。ただしエンジンは、CT6の340ps/6900rpm、39.4kgm/5300rpmというスペックに対し、XT5は314ps/6700rpm、37.5kgm/5000rpmという低回転域重視のセッティングとなっている。
また、8速ATにはキャデラック初のシフトバイワイヤ機構とジョイスティック電子制御シフターが採用されており、周辺の振動が抑えられるとともに、その下側に収納スペースが設けられたことも要注目だ。
そのほか、前後トルク配分を0:100~100:0の間で可変できるモードセレクト機能付きツインクラッチ機構と、後輪左右へのトルク配分を0:100~100:0の間で可変できる電子制御リヤディファレンシャルを備えた「インテリジェントAWD」を採用。
ボディではキャビンまわりの骨格に超高張力鋼板を用いられたほか、構造用接着剤を約24mにわたり使用されることで、ボディ剛性が高まるとともにSRXクロスオーバーに対し約90kg軽量化された。
サスペンションはフロントがマクファーソンストラット式、リアが5リンク式で、「プラチナム」にはさらに電子制御ダンパーを採用。タイヤは標準グレード「ラグジュアリー」が235/65R18、「プラチナム」が235/55R20のオールシーズンタイヤとなっている。
走行した河口湖周辺のワインディングは狭いうえ路面に凹凸やヒビ割れも多く、試乗当日は落ち葉の多いヘビーウェットという悪コンディション。314ps&37.5kgm、全幅1900mm超、車重2t弱の左ハンドル車というXT5を運転するのは、相当神経を遣うだろうと試乗前には想像していたが、実際に試乗してみるとそうした印象は皆無だった。
エッジが立ったエンジンフードとリヤフェンダーのおかげで車両感覚は掴みやすく、また3.6L V6NAと8速AT、そしてインテリジェントAWDは上り坂でも2t弱のXT5を滑らせることなく軽々と加速させ、タイトなコーナーも欧州のスポーツセダン顔負けの軽快さで駆け抜けてくれる。
ただし、20インチタイヤを装着する影響もあってか、粗粒路や大きな凹凸を乗り越えた際の突き上げが低速域でやや強く、電子制御ダンパーを「ツーリング」モードに設定した際は上下左右の揺れも大きくなる傾向が見られた。
だが、電子制御ダンパーを「スポーツ」にすると、突き上げはさらに大きくなるものの、減衰力が上がり姿勢変化が抑えられるため、特に高速での旋回時はハンドリングの軽快さが際立つ結果に。
また、最も穏やかな「全輪駆動」モードにすると、路面の凹凸に対しサスペンションが良く動き、車体を常にフラットに保ってくれる。XT5が保つ高い動力性能を目一杯引き出して走るのでなければこのモードが、後席に座った際も快適さでは最も優れているように感じられた。
21世紀を境に大きく生まれ変わり、以後世代交代を経るごとにデザイン、走りとも洗練度を高めている新生キャデラック。今後走りのブラッシュアップが進めば、完成の域に達する日は近い。
【Specifications】
<キャデラックXT5クロスオーバー プラチナム(F-AWD・8AT)>
全長×全幅×全高:4825×1915×1700mm ホイールベース:2860mm 車両重量:1990kg エンジン形式:V型6気筒DOHC 排気量:3649cc ボア×ストローク:95.0×85.8mm 最高出力:231kW(314ps)/6700rpm 最大トルク:368Nm(37.5kgm)/5000rpm 車両価格:754万9200円
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