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レーシングドライバー仲間もあぜん! ル・マンでマツダ787Bを優勝に導いた3人組の「超悪ガキ」伝説

掲載 更新 15
レーシングドライバー仲間もあぜん! ル・マンでマツダ787Bを優勝に導いた3人組の「超悪ガキ」伝説

 往年の名レーサーも若かりし頃はヤンチャだった

 毎年6月になると気持ちが落ち着かない。何故なら6月中旬はモナコGP、インディ500と並び世界3大レースとして並び称される「ル・マン24時間レース」が開催される時期だからだ。僕自身このル・マンには過去3度挑戦した。残念ながら1度も完走を果たせず、心残りのレースとなってしまうことが多かったこともあり、例年レースの成り行きを注視し楽しみにもしているのだ。

ル・マンに挑んだ日本の勇敢なチャレンジャーたち[トヨタ/日産/マツダ]

 残念なことに今年は新型コロナウィルスの世界的パンデミックの影響で「第88回」となる同大会は9月以降に延期されることが決定している。そこで今回はこれまでのル・マン24時間レースで総合優勝を果たしたドライバー達のなかで、一風変わったトリオをご紹介したい。

 ル・マンは通常2名~3名のドライバーが1台をシェアして闘う。競争が激化しスプリントレース並みのハイペースで競われる近年は、3人のドライバーでトリオを組むチームが大多数となった。

 1991年の第59回大会。総合優勝を果たしたのは、その年が最後のル・マン挑戦となる日本のマツダチームだった。その年、マツダが誇る4ローターのロータリーエンジンを搭載したマツダ787Bを総合優勝へと導いたのは、ジョニー・ハーバート(英)、ベルトラン・ガショー(仏)、フォルカー・ワイドラー(独)という顔ぶれだ。この3人、じつは日本でのレース経験も豊富で1990年の国内レースを荒し回っていたのだが、僕の目にはまさに「悪ガキ」に映っていた。

 まずジョニー・ハーバート。彼と初めて会ったのは1987年、マカオGPのF3世界一決定戦のスターティンググリッドだった。その年イギリスF3のチャンピオンとしてマカオに乗り込んできたジョニーは、優勝最有力候補として大注目されコース上でのスタートセレモニー中もTVやメディアのインタビューを受けていた。

 いよいよスタート進行で各ドライバーがマシンに乗り込む段階になると、ジョニーはガードレールの方に小走りで走っていった。どこに行くのだろうと見ていると、何と彼はコース上の脇で立ち小便(!)をしたのだ。見るからに童顔な顔立ちだったが、なんという小僧だと思ったものだ。しかし、スタートしてからのジョニーの走りはじつにキレていて、マカオのコースの難しい山側をまるでゴーカートを振り回すようにドリフトさせ、ガードレールにホイールを当てて火花を飛ばしながら駆け抜けていった。

 スタートの混乱で彼の前を走っていた僕だが、その彼に抜かれ後ろから走りを見て大いに感化された。彼の走りを真似てリヤブレーキ走法に切り替えたら、一気にタイムが2秒も短縮されたのだった。

 そんなヤンチャ小僧だった彼が、今ではF1のドライビングマナーアドバイザーを務めることもあるというから驚きだ。

 残るふたりもなかなかの破天荒ぶりを披露

 次なる「悪ガキ」ドライバーはベルトラン・ガショーだ。じつはガショーも1987年のマカオGPに参戦しているが、僕が知り合ったのは1991年の全日本プロトタイプカー(グループC)選手権でのことだった。ル・マンで総合優勝し富士スピードウェイでの同レースに、マツダ787Bで凱旋参加していたガショー/ハーバート組に対して僕はフォルカー・ワイドラーと組んでフロムエー日産R90CKで参戦していた。

 ともに上位を争いガショー組は4位に、僕らは6位でフィニッシュしたのだが、チェッカー後のウイニングラップ中、なんと彼はマシンの横っ腹に体当たりしてきたのだ。トラブルでピットインが長引き周回遅れとなっていた僕らは最終ラップにガショーを追い抜いた。それでも順位は変わらないのだが、彼は順位を奪われたと勘違いしたのかもしれない。せっかく無傷でゴールしたマシンにゴール後わざとぶつけてくるなんて、なんという「悪ガキ!」だと当時憤慨したものだ。

 そして最後はフォルカー・ワイドラー。正直、彼はとてもいい青年だった。優しく、穏やかで人なつこい。だがレースになるとアグレッシブになる。それはレーシングドライバーなら当然のことだ。

 フォルカーは僕といるときはつねにいいやつだったが、ル・マンで優勝したあとジョニーやガショーと日本でつるむようになると「悪ガキ」ぶりを発揮しだした。あるレース開催日の朝。同じホテルに宿泊していた僕らは朝6時にはホテルを出ないと交通渋滞で遅刻してしまう。僕が6時ちょうどにホテルを出ようとしているとフォルカー達が部屋から降りて来て、これから朝食を食べるという。おいおい、そんなことしていたら間に合わないぞと注意すると「僕らにはガイジンロードという特別な道があるから大丈夫」というのだ。

 僕は先にサーキットへ向かい、指定場所に駐車してドライバーズブリーフィング会場に歩いて向かうと、なんとすでにフォルカー達は会場に着いているではないか!「いったいどこを走ってきたんだ?」と問いかけると「渋滞していても道路の右側はがら空きだろ。そこを走って来たんだ。欧州では右側通行だからガイジン専用さ」だと。

 本当にそのように走ってきたか真偽の程はわからないが、もし事実だとしたら日本ではそれは違反だし事故を起こしたらどうするんだ! と叱責したが、彼らは「プロレーサーだから大丈夫、大丈夫」と聞く耳をもたなかった。フォルカーはその後ロータリーの爆音で本当に耳を悪くし、レースから引退してしまった。

 ル・マンの季節になると、いつもこの愛すべき「悪ガキ」レーサートリオを思い起こすのだ。

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みんなのコメント

15件
  • ロータリーエンジンは、ル・マンに勝ったから、締め出されたワケでは無い。
  • こういう裏話好き。
    Le Mans前のマツダの巧妙過ぎるロビー戦略みたいな方向性の裏話もっと好き。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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