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コルベット C1の翌年に生まれた異端車 カイザー・ダーリン 161(1) フェンダーへ滑り込むドアは唯一?

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コルベット C1の翌年に生まれた異端車 カイザー・ダーリン 161(1) フェンダーへ滑り込むドアは唯一?

西海岸の女性から支持を集めたロードスター

アメリカのスポーツカーといえば、1953年のシボレー・コルベット C1が元祖かもしれない。だが翌1594年には、カイザー・モータースも2シーターのロードスターを提供し始めている。

【画像】フェンダーへ滑り込むドアは唯一? カイザー・ダーリン 161 同時期のロードスターたち 全130枚

1年間に435台という生産数を考えると、カイザー・ダーリン 161は充分な主流モデルだったといっていい。エドワーズ・アメリカやグラスパーG2など、極少量が作られた例外とは異なり、クラシックカーとして価値を認められるだけの認知度と希少性も持つ。

3セクションで縫製されたランドートップを、スレンダーなリアに背負う。パインティント・グリーンにレッド、イエロー、シャンパン・ホワイトなど、ボディ塗装のバリエーションは多彩。特にアメリカ西海岸に住む裕福な女性から、それなりの支持を集めた。

オープンカーらしく、ゆったり走らせることへ喜びを感じ、変わった開き方のドアを楽しめる理解力が必要でもあった。ボンネットは雨漏りし、ランドートップは閉めるのに時間を要した。快晴の多い、カリフォルニアという環境が向いていた。

自由な考えを持つカーデザイナーのハワード・ダッチ・ダーリン氏は、1930年代にパッカード・レバロンとブリュースターというサルーンのスタイリングを担当。美しい容姿を生み出し、一目置かれる存在になった。

1920年代にハリウッドで仕事を始めた当初から、彼は横へスライドするドアを研究していた。1946年には、ポケットドア・システムの特許を取得している。

フロントフェンダーの内側へドアが滑り込む

このポケットドアは、ヒンジで手前側に開くのではなく、日本家屋の雨戸のように横へ開閉するシステム。ボールベアリングを利用し、長いフロントフェンダーの内側へドアが滑り込み、開口部が展開した。

現在では、ミニバンなどでスライドドアは珍しくない。約40年後に量産されたBMW Z1は、ドアがサイドシルの中へ格納された。しかし、ドアがフェンダー内へ吸い込まれる構造を持つ量産車は、恐らくこれが唯一だろう。

ポケットドアは、開いた状態で走行も可能。目新しいものへの関心が高かった1950年代のアメリカ人にとって、魅力的に映ったことは間違いない。

ただしスライド構造は、カイザーの技術力では複雑だった。途中で動かなくなったり、急な坂道でドアが開いてしまうなど、不具合も少なくなかった。改善が試みられたものの、ダーリンは1年足らずの生産で姿を消してしまう。

ドアが正常に開いても、開口部は必要最低限。乗降性に優れたわけでもなかった。ダーリン 161では話題を集める最大の武器になったが、汚名を集める弱点でもあった。

とはいえ、1度乗り込んでしまえば、その頃としては評価できる走りを披露。特に高速道路でのクルージングは、優越感に満ちた時間だったはず。

ウイリスFヘッド・ユニットは、高性能な直列6気筒とはいえなかった。吹け上がりが悪く、静止状態から97km/hまでの加速には15秒を要した。それでも、最高速度は152km/hに届いている。

カイザー婦人が気に入った新プロジェクト

それ以前の1950年に、カイザーは小さな2シーター・サルーンのヘンリーJをリリース。通信販売を手掛けるシアーズのカタログには、ベストや時計などと並んで、安価なモデルとして掲載されていた。

仕上がりは悪くなかったものの、同社はアメリカ人の嗜好を正しく理解していなかったようだ。ガソリンが安く手に入り、需要は大きなモデルへ集まっていた。

サスペンションは、フロントがコイルスプリングにウイッシュボーンと先進的。リアはリジッドアクスルだが、ドラムブレーキは同時期のシステムとしては良く効いた。

ヘンリーJの4気筒エンジンは、スポーツカーにも必要なパワーを生み出せると考えられた。ただし、量産仕様のダーリン 161には、2.6L直列6気筒が載っている。もとは、ウイリス・エアロというサルーン向けに、コンチネンタル社が製造していたユニットだ。

カイザーのデザイン・コンサルタントを務めていたハワードは、新しいロードスターの可能性を提案。ヘンリーJのシャシーに、工業用クレイで斬新なスタイリングのボディを削り出した。

ボートを手掛けるグラスパー社によって、1952年に走行可能な試作車が完成。カイザー・モータースの代表、ヘンリー・カイザー氏へ披露すると、婦人が気に入ったらしい。本人は乗り気ではなかったというが、プロジェクトは前へ進むことになった。

「アメリカ最新で最高級のスポーツカー」

結果として、この決断は大後悔を招く。ダーリン 161で生まれた損失は、1000万ドル以上だったと考えられている。

ヘンリーは、住宅建設や造船業で財を成した大富豪だった。第二次大戦後、不要になった戦闘機工場を利用し、政府の融資を受け、急成長する自動車業界へ進出。フォード、GM、クライスラーという3大自動車メーカーを凌駕できるだろうと、空想していた。

大きく華やかな、フルサイズサルーンに対する市場の嗜好を過小評価していた。次々にリフレッシュされるスタイリングも、甘く見ていた。

思うように売れないヘンリーJや、大型サルーンのカイザー・マンハッタンを加勢する手段として、ダーリンへ期待していたのかもしれない。6気筒エンジンでスタートしたコルベット C1のように、ディーラーへ足を運ぶ人を増やす可能性はあった。

「アメリカ最新で最高級のスポーツカー」というキャッチコピーで発売されたダーリン 161は、1954年1月に納車がスタート。ところが、ミシガン州に準備した工場は、前年の吹雪の影響を受けていた。

ヘンリーは、その工場の契約満了が、儲からないプロジェクトの引き際だと判断。1954年8月に、ダーリン 161の生産は終了する。残っていた、約50台ぶんの未完成ボディは売却された。

それを購入したハワードは、エンジンにスーパーチャージャーを載せ、自身のロサンゼルスのショールームで販売。この内の6台には、キャデラックのV8エンジンが積まれている。車重997kgと軽量なダーリン 161を、225km/hまで加速させたという。

この続きは、カイザー・ダーリン 161(2)にて。

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みんなのコメント

1件
  • fef********
    戦後アメリカにおける量産型スポーツカーの事始めは、クロスレイ・ホットショットだろうか。
    グラスファイバー製ボディだと、記事中のグラスパーやウーディルと言った少量生産車からスタートしているけど。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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