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レッドブルF1、トップチームへの第一歩……2009年のRB5とは、いかなるマシンだったのか?

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レッドブルF1、トップチームへの第一歩……2009年のRB5とは、いかなるマシンだったのか?

 現在はトップチームの座をほしいままにしているレッドブル・レーシング。しかし、彼らが初めて勝利を手にしたのは2009年のこと。それには、あるひとりの天才デザイナーの加入が必要不可欠だった。

 レッドブル・レーシングがF1に参戦を開始したのは、2005年のことだった。飲料メーカーのレッドブルが、前年までジャガー・レーシングとして参戦していたF1チームを買収したのである。

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 今ではレッドブルと言えば、トップチームの一角である。しかし当初は、いやその前身のジャガーも、さらにその前身のスチュワートも、中団グループのチームのひとつにすぎなかった。

 チーム名がレッドブルに変わってからも、そのポジションは変わらなかった。チーム代表に就任した元レーシングドライバーのクリスチャン・ホーナーも、当初はまだ31歳という若さであり、その手腕には懐疑的な目線も向けられた。

 ただレッドブルの資金力は潤沢であり、ミナルディをも買収してトロロッソを設立。2チーム体制としたのだ。

 それでも、チームの戦闘力を上向かせるのは簡単なことではない。しかしレッドブルは、そのために強力な武器を手に入れていた。エイドリアン・ニューウェイである。



 ニューウェイはマーチでスポーツカーやインディカーのデザインを担当した後、F1マシンのデザインに着手。その1台目となる881は非力なジャッドV8エンジンを搭載しながら、表彰台を獲得する活躍を見せる。

 その後、ウイリアムズに移籍するとFW14Bをはじめとして、数々のチャンピオンマシンを世に送り出した。1997年にはマクラーレンに移籍し、ここでもやはり複数のチャンピオンマシンを手掛けることになった。

 ただそのマクラーレンも、2005年限りで離脱。ニューウェイが次に選んだ活躍の場はレッドブルだった。

 前述の通り当時のレッドブルは、中堅チームのひとつに過ぎなかった。この決断に周囲は「キャリアを諦めるようなモノ」と見ていた。そのため、マクラーレンを離れたニューウェイには、”ガーデニング休暇”期間が設定されなかった。エンジニアがチームを移籍する際、機密情報の漏洩等を防止するために、何の仕事もできない期間=いわゆる”ガーデニング休暇”期間が設定されるのが常だ。しかしニューウェイにはこれが義務付けられなかったということは、当時のレッドブルへの期待度の低さを示していると言えるだろう。

 レッドブルに加入したニューウェイは、組織の再構築に着手。ジャガー時代の体制を一掃し、ドライバーに最新状況を共有するためのシミュレータや、レースチームとのコミュニケーションを改善するためのオペレーションルームの設置、シームレスシフトを開発するための投資などを求めた。またマシンに搭載するエンジンを、フェラーリからルノーに変更するよう、ホーナー代表を説得した。

 またニューウェイは、ホーナー代表が言う通りに、チーム内の反抗勢力を調査するためにコンサルタントを起用。首謀者を解雇することに成功した。また、マクラーレン時代から共に働いてきた空力専門家のピーター・プロドロモウを引き抜き、体制を整えていった。

 ニューウェイが手がけた最初のレッドブルは、2007年のRB3だ。細く低いノーズ先端、複雑な形状のサイドポンツーンなど、ニューウェイがマクラーレン時代に手がけたマシンを彷彿とさせるデザインだった。翌2008年のRB4も同様である。この2台のマシンは予選では速さを見せるものの、決勝では信頼性の問題にも足を引っ張られる形となり、各年とも表彰台1回のみという結果だった。

 ただ2008年イタリアGPでは、RB4に酷似し、フェラーリのエンジンを搭載したトロロッソSTR3を駆ったセバスチャン・ベッテルがポール・トゥ・ウインを記録。レッドブル系チームが、F1で初めて勝利を手にした。

 そのベッテルがレッドブルに加入した2009年が、レッドブルにとって転機となった。

 ニューウェイは2008年の早々にRB4のアップデートを断念。新レギュレーションが導入される2009年に向けてリソースを集中させた。

 この2009年は、オーバーテイクが少ないという主張を受け、FIAがレギュレーションの大変更を導入した年。フロントウイングは幅広く、そして低くなり、リヤウイングは狭く高くなった。また、エネルギー回生システム”KERS”の使用が解禁され、オーバーテイクする際に追加のパワーを使うことができるようになった。

 たたこの変更は、狙い通りの効果を発揮することはなかった。高くなったリヤウイングは、前を走るマシンが生み出す乱気流に、より敏感になってしまった。またKERSは、増えた重量ほど強力なモノではなく、むしろ搭載しないマシンの方が重量バランスに優れ、高い戦闘力を発揮することになった。

 フロントウイングの中央部分には、ウイング形状ではない平らな部分が500mm設けられた。このウイング形状部分との境目で生み出す渦により、かえって以前よりも激しい後方乱気流を生み出すことになった。



 ニューウェイはこの渦”Y250ボーテックス”をうまく活用する方法を見つけた。この渦によって、気流を分けることができたのだ。そのため、ノーズの断面をU字型にし、先端にはカメラケースを使って両側にウイング形状の部位を設けた。Y250ボーテックスをフロントサスペンションの各アームとも相互に作用するようコントロールし、きつい下反角が付けられた。

 リヤでは、タイヤによって内側に押し出される気流が、ディフューザーに影響を及ぼすことも分かった。これをコントロールするため、リヤのブレーキダクトにはウイングレットを追加。フロアにフェンスを追加して、ディフューザーによって効果的に負圧を生み出すことに成功した。

 また以前はディフューザーが存在していた箇所にサスペンションのインボード機構を収納するため、リヤはプルロッド式を採用。これによってボディをコンパクトにし、重心も下げることに成功。さらにボディがコンパクトになったことで
リヤタイヤとボディの間に気流の流路を確保することもできた。



 RB5は、コースにデビューすると速さを見せた。開幕テストでは当初、シーズンの有力候補のひとつと見られていたのだ。チームの期待も、日に日に高まっていった。

 しかしテスト終盤、その期待は突如打ち砕かれることになる。前年限りで突如F1を撤退することになったホンダのマシンとスタッフなどを引き継いだブラウンGPのBGP001が、テスト参加が叶うといきなり圧倒的なスピードで走り始めたのだ。

 彼らとトヨタ、そしてウイリアムズは、レギュレーションの抜け穴を掻い潜って生み出したダブルディフューザーを備えていた。その中でもブラウンGPは、他を0.9秒も引き離す速さを見せたのだ。

 当初その速さには、懐疑的な目も向けられていた。しかし開幕すると、ブラウンGPの速さは本物だった。同チームのジェンソン・バトンは、開幕2戦を連勝。7戦目までに6勝を挙げてみせた。

 ブラウンGPが開幕7戦で唯一敗れた第3戦中国GPで勝ったのが、レッドブルのセバスチャン・ベッテルだった。ベッテルは予選でポールポジションを獲得すると、ウエットコンディションになった決勝でも強さを発揮してトップチェッカー。チームメイトのマーク・ウェーバーも2位に入り、レッドブルはチームとしての初優勝を1-2フィニッシュによって成し遂げた。

 なおダブルディフューザーについては、一旦禁止になる方向性になっていた。しかしFIAは一転合法と宣言した。このことは、レッドブルにとってはかなり厳しい状況であった。

 というのも、レッドブルは前述の通り、リヤサスペンションにプルロッド方式を採用していた。そのため、ダブルディフューザーを構築するのが、他のコンストラクターよりも難しかったのだ。



 ニューウェイはこのことについてしばし、政治的な判断だったと語っている。

「ダブルディフューザーが合法かどうかは、実際には技術的な決定ではなかった」

 そうニューウェイはインタビューの中で語っている。

「当時(FIA会長の)マックス・モズレーは、フェラーリとマクラーレンに教訓を与えたいと思っていたのは事実だ。彼らは当時、ダブルディフューザーを持っていなかったから、モズレーは合法であると言ったのだ。モズレーは、フェラーリとマクラーレンをトップ争いから排除することを望んでいたのだ」

 当時のフェラーリとマクラーレンは、スパイゲート事件の当事者となっていた。にも関わらず彼らは、より良い商業的な条件を引き出すためにロビー活動を積極的に行ない、新たなチーム協会を立ち上げようと動いていた。これに対するお灸の意味合いもあり、ダブルディフューザーが合法化されたとニューウェイは主張するのだ。

 ニューウェイは、RB5のリヤに搭載できるダブルディフューザーを設計するため、デザインオフィスに缶詰め状態となっており、初勝利となった中国GPに帯同することはできなかった。結局ダブルディフューザーの最初のバージョンが登場したのは、モナコGPのことだった。

 その1ヵ月後のイギリスGPには、完成形のダブルディフューザーが投入された。このグランプリではベッテルが優勝、ウェーバーが2位に入って、このシーズン2勝目をまたも1-2で達成。続くドイツGPも、ウェーバーが優勝し、ベッテルが2位に入った。

 シーズン後半は、マクラーレンやフェラーリが勢いを取り戻し、レッドブルも戦闘力を高めていた。一方のブラウンGPは失速気味。ポイント差はみるみる縮まっていった。

 ただ、バトンが前半戦で築いたリードは大きかったため、逆転には至らず。バトンが2009年のドライバーズチャンピオンに輝き、ベッテルはランキング2位止まりとなった。

 レッドブルはFIAの”政治的”な陰謀により、逆境に立たされつつも戦闘力を向上させることに成功した。しかもニューウェイは、その逆境の中でいくつかの興味深い発見をした。そのひとつが、2021年までのレッドブルのマシンの特徴とも言える”ハイレーキ”のコンセプトだ。

 ハイレーキとは、フロアの前端を路面に近く、後端を路面から離すという設定のこと。これにより、ディフューザーの効果を高めたのだ。レッドブルとベッテルは、結局この翌年の2010年からダブルタイトルを4連覇。ライバルチームも、このコンセプトを無視することはできなかった。

 結局レッドブルRB5は、2009年シーズンに合計6勝を挙げた。

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