前回東京オリンピック開催年、1964年を振り返る連載7回目は、driver1964年5月号に掲載、スポーツカーファン憧れのロータス試乗記について。なんと本田宗一郎氏の愛車が判明するという裏話まで…。
※毎週金曜連載中
〈該当記事はオリジナルサイト参照〉
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創刊年のdriver誌5月号でもっともページが割かれたのは、ロータスのロードカー4台を集めた「精鋭 ロータスに乗る」。前半の活版から後半のグラビアへ続くちょっと珍しい構成だが、活版の試乗記に7ページ、グラビアに8ページの計15ページにわたる特集だ。今風に言えば、「最新ロータス一気乗り!」か。
コリン・チャプマン率いる英ロータスは、1950年代の創業以来、革新的なレーシングカーやライトウエイトスポーツを次々と生み出していた。前年の1963(昭和38)年には、大ヒット作となるエランやコルチナロータスをリリースするとともに、F1でコンストラクターズタイトルを獲得。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いであったことは想像に難くない。
誌面に登場するのはそのエラン、コルチナロータスに、セブン(7)、そしてエリート。試乗車はいずれも輸入代理店の所有ではなく、オーナーの協力を仰いでいる。
試乗記を担当したのは、日本のレース創生期における伝説のドライバー、浮谷東次郎だ。「浮谷東次郎web site」によれば、2年半ほど渡航していたアメリカから1963年に帰国。21歳で日大農獣医学部に入学するとともにトヨタと専属契約を結び、雑誌に寄稿しながら学校と鈴鹿サーキットに通っている。そして、1964年3月に中退。driver誌には創刊号でもダイハツ・コンパーノの試乗記を寄せており、ロータスのステアリングを握ったのもちょうどそのころかもしれない。5月には第2回日本GPにトヨタ・コロナで出場している。
「私のような若輩ドライバーにとって、ロータスのハンドルを握れたことは誠に幸運であったと言わねばならない。この幸運を一人占めするのはもったいないので、読者のみなさんと一緒にロータスに乗ったつもりで、このレポートをまとめてゆきたい」(誌面より)
原稿は自身がペンを振るったのか、編集部が口述をまとめたりしたのか不明だが、その言葉どおりロータス4台の実像がリアルに伝えられている。ロータスの信者を自称しながらも各車を神格化することはなく、欠点は欠点としてちゃんとレポートしている。
一部を紹介すると、セブンはハンドリングが「フォーミュラーで走っているような気分に酔わせてしまったほど素晴らしい」一方、乗り心地は「まるで4輪固定のような硬さで、それに例のシートと相まって、3時間以上続けて乗ったら痔になってしまいそうだ」。
元祖「羊の皮を被った狼」コルチナロータスは、強力な1.6リットルDOHCエンジン、かなり強いアンダーでありながらコントロール性の高いシャシーを絶賛するも、駆動系から響く室内騒音のうるささや、ペダルに対して高すぎるシート位置を不満にあげている。
エリートについては、噂どおり素晴らしいコベントリークライマックス製エンジンも、オプションのZF製クロスレシオミッションでなければ威力を十分引き出せない点を指摘。サスペンションは驚くほど柔らかいタッチで乗り心地や接地性に優れるが、意外にも高速コーナーではかなりのロール性を示し、ハンドリングは「カーブのきつい曲がりくねった、例えば箱根旧道のようなコースに向いている気がしてならない」。
完成度がもっとも高かったのはエランのようで、「このロータス4車の中で、一番静かであるということは、まさに予想外れであった」。ハンドリングは「高速コーナーにも威力を発揮するであろうと容易に想像できる」ニュートラルステア。「ロータスでポビュラーカーになるための要素を一番多く持っているのは、このエランのような気がする」と結論づけながら、日本では260万円にもなる価格の高さを懸念している。
ところで、この連載の第2回「走り出したホンダレーサー」で、本田宗一郎の愛車がエリートだったことに触れた。その証拠がこの特集の中にある。エリートのキャプションには「オーナー本田博俊さん」。のちに無限(現M-TEC)を創業する宗一郎の長男である。
ほかにも、コルチナロータスのオーナーは「生沢徹さん」、エランは「横山精一郎さん」。少なくとも3台のオーナーは、じつは浮谷のレース仲間だったのだ。当時、自動車レースに熱中したり輸入車を手にしたりすることができたのは、ごく一部の資産家、今で言う富裕層(それもかなりの)だった。そして、日本の若きレーサーたちもロータスの虜になった。
浮谷は翌1965年7月、船橋サーキットで行われた第1回全日本自動車クラブ選手権に出場。トヨタスポーツ800を駆ったGT-Iレースの大逆転優勝は語り草だが、GT-IIでレーシングエランに乗る機会にも恵まれ、ダブル優勝を果たしている。
〈文=戸田治宏〉
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