アクの強い顔つきは賛否両論だが迫力は十分
世界的に見ても希有な存在といえるミニバンSUVという個性的なコンセプトが人気の三菱デリカD:5。デビューイヤーは2006年だから、かれこれ12年も販売を続けてきているのだが、シャモニーやジャスパー、アクティブギアなどの限定モデルを投入するなどして今でも高い人気を誇る。
【意外と知らない】燃費良好のディーゼル車がもつ5つのデメリット
2012年にディーゼルモデルが投入されてからは90%以上のユーザーがディーゼル4WDを選択しているという。一方で、より高い質感や先進的な装備を求める声も高まっていて、三菱としてはそうした顧客ニーズに応えるために大幅なモディフィケーションを実施して対応する策をとった。
まず外観デザイン。従来型D:5を知っている人は誰もが目を疑ったに違いない。三菱がこのところ提唱しているダイナミックシールドという大胆なフロントマスクデザインを取り入れ、大型のマルチLEDヘッドライトを縦に配置するという奇策とも思えるデザインだ。
公開されるや否や賛否両論が三菱にも寄せられ、その多くはネガティブな声が多かったという。実際に僕も初めて見た時はやり過ぎ感のような違和感を覚えた。従来のD:5が悪路で活き活きしとて見えるアクティブな顔つきだったのに、市街地や都会を意識した、奇をてらった確信犯的異型デザインと思えたからだ。企画担当やデザイナーも競合車としてトヨタのアルファード/ヴェルファイアなど都会派ミニバンを意識したと語っており、「おいおい、D:5の立ち位置は違うのではないか」と感じたからだ。
しかし、だ。今回プロトタイプに試乗機会が与えられ実車を目の前にしてみると「これもアリ!」と正直に思えてしまった。新型D:5には標準車とアーバンギアの2タイプがラインアップされる。両車はラジエターグリルやフロントバンパー下部の処理、サイドスカートなどボディパーツが異なる。共通しているのは縦型のマルチLEDヘッドライトで、これが賛否の元凶となっている訳だが、実際に見てみると以外とすんなり収まっている。個人的にはアメリカンマッスルピックアップが好きで、その迫力に通じる逞しさを見出だせたからだ。
ボンネットフードが従来モデルより高められ(これは歩行者保護性を高めたことによる)、フロントエンドの面積が拡大したことでデザインの自由度が増し縦型ランプが綺麗に収まったのだと言える。
一方で、フロントバンパー下部の張り出しも若干増えた。これも歩行者の足払い性確保に通じる必要な処置で、従来悪路を得意としていた24度ものアプローチアングルは標準車で21度、アーバンギアでは15度に減少していしまった。それでも他社のミニバン系が10度以下のアプローチアングルであることと比べれば悪路適合性は突出していることになる。
今回は実際に舗装路だけでなく極悪路での走行テストも行えるのでリポートしていこう。
電動化したパワステが上質なフィーリングを生む
まずは舗装路だ。運転席に乗り込むと、あまりの豪華な仕上げに一瞬戸惑う。従来モデルD:5がプラスチッキーでコンサバティブなダッシュボードデザインであったのに対し、ソフトパッドでフルカバーされるのだ。さらに10.1インチの大型タッチスクリーンモニターがダッシュボード中央に備え付けられ、ウッドパネルやピアノブラックのコンソールパネルなど、上質な高級車のように仕上げられている。
これをフルモデルチェンジと言わないで何というのかと疑問に思えるほどの激変ぶり。しかし操作性、視認性ともによく、デザイン的にもレイアウト的にも好印象。しかもエンジンをスタートすると静かで振動が少なく、高級乗用車のように静寂な室内が実現している。インパネの見た目、触り心地だけでなく吸音、遮音面も大きく改善されている。
いよいよ走行開始だ。エンジンは新開発の2.2リッタークリーンディーゼルターボエンジンのみの設定。最大出力144馬力/3500rpm、最大トルク380N・m/2000rpmという比較的低回転を得意とするパワー特性を与えられている。これに初採用の8速(!)トルコンATが連結され4WDを駆動する。
発進は1速スタート。5.250というローギヤな変速比は、急な坂道でも発進をスムースで容易にする悪路を知り尽くした三菱ならではの設定と言える。舗装路の平坦路では2速発進でも十分と思えるほど力強い。一方7速、8速は0.809に0.673というオーバードライブの超ハイギヤードで、100km/h巡航は8速なら1600rpmでこなしてしまう。
2ndギヤのアクセル踏み込み領域からロックアップし、8速までロックアップ機能が組み込まれ実用燃費は大幅に向上しているという。
走り始めて感じるのは静かなこと。静粛性の高さは欧州プレミアムブランドに匹敵する上質さで、振動の少なさも特筆できるレベル。ステップ比の細かな8速ATは変速ショックが少なく、ビジーな変速プログラムでもないため実用性が高い。ステアリングコラム固定式のパドルを操作してマニュアル変速することもでき、シフトの応答性も高くコントロール性に優れていた。
また、ステアリングフィールが格段に向上していることも驚きだった。従来油圧のパワーアシストが行われていたが、新型はデュアルピニオンの電動アシスト方式を採用している。このセットアップが秀逸で、ワンダリングなど不要な路面からの入力を押さえ込み、操舵については適度な操舵力を残しつつ直進性、旋回時応答性も見事に調教されている。このステアリングシステムの操作性を体感したらもう油圧の従来モデルには戻れなくなった。
このように舗装路での走行性、乗り心地、快適性、そして質感の進化は目を見張るものがあり新型の実力を確認することができた。
進化した4WD制御がもたらす極悪路をものともしない走破力
次は極悪路にチャレンジしてみる。朝方まで雨が振っていた影響で泥濘路は極めて滑りやすい状況だ。装着タイヤはヨコハマタイヤのジオランダーでM+S表記がある。
ドライビングモードはFWD(前輪2輪駆動)、4WD、4WDロックの3モードをダイヤル調整で簡単に選択可能。
まずは4WDで発進してみる。平面では何の苦もなく発進し約25度の傾斜斜面でわざと一旦停止し再スタートを試みた。さすがにわずかにタイヤが空転するが、それでもトラクションコントロールの作動で苦もなく最スタートできる。
カーブ区間を抜けさらにきつい勾配の斜面でのモーグル形状路面でも一旦停止。対角の1輪が宙に浮く状態で極めてシビアなコンディションとなる。ここでは4WDロックを選択。強化されたブレーキLSDが空転車輪を制御し簡単に脱出させてくれる。こうした対角離地での走破性をスムースにこなせる制御にも力を注いだというだけあり高い実力を示していた。
こうした車体に大きな曲げや捻り応力が加わる難所でもボディの骨格がしっかりしていてミシリともいわない。足まわりやエンジンマウント、クロスメンバーなどからも異音が全くなく快適性は舗装路の時と同じ。もともと恐竜骨格構造といわれた高いボディ剛性を持つD:5の美点がそのまま引継がれているといえるのだ。
パリ・ダカを制した増岡 浩さんによれば45度の斜面を持つ三菱得意の体験キットでも新型D:5は苦もなく一番トップまで快適に昇ることが可能だという。
メーカーは控えめにマイナーチェンジと言っているが、その実、中味の進化はフルモデルテェンジといって差し支えないほどに高く、実際に走ったあとは外観もカッコよく見えるようになった。
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