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新F1チーム代表・小松礼雄に苦境のハースが救えるか? “エンジニア主導”体制によって復活果たしたマクラーレンとの相違

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新F1チーム代表・小松礼雄に苦境のハースが救えるか? “エンジニア主導”体制によって復活果たしたマクラーレンとの相違

 ハースF1は1月10日(水)、これまでチーム代表を務めてきたギュンター・シュタイナーを更迭。エンジニアリングディレクターの小松礼雄が新代表として任命された。2023年シーズンにコンストラクターズランキング最下位に終わったハースを、小松新代表は救えるだろうか?

 F1ではエンジニア出身者がチーム代表に上り詰めることが多く、ハースの“ナンバー2”であった経験豊富な小松がシュタイナーに代わってチームを率いることに、さほど大きな驚きはないだろう。

■小松礼雄、ハースF1代表に就任「この機会にワクワクしている」前任シュタイナーはチームを離脱

 エンジニア主導のチームとすることで、立ち直りを図ろうとするのもこれまでF1では良く見られてきたことだ。

 直近でもマクラーレンは2023年シーズンに先立ち、元々チームでエグゼクティブエンジニアを務めていたアンドレア・ステラをチーム代表に登用。シーズン序盤こそチームは入賞すら難しい状況だったものの、技術体制の刷新やシーズン中盤の段階的なアップデートなどを経て、表彰台争いの常連にまで急成長を果たした。ハースも右に倣うことができるかもしれない。

 1月28日で48歳になる小松新代表は、BARでF1エンジニアとしてのキャリアをスタートすると、ロータス/ルノーを経て、2016年からハースに加入。ガレージやピットウォールでの経験も豊富だ。

 水曜日に発表されたハースの声明では、小松新代表のエンジニアとしての経歴がチームにとって重要であることが強調されていた。

 チームオーナーのジーン・ハースは次のように語った。

「小松礼雄をチーム代表に任命することで、マネジメントの中心にエンジニアリングを据えることになった」

 ジーン・ハースの考えは明確だ。それは複雑なグラウンドエフェクトカーを用いる現代のF1において、予算制限レギュレーションを考慮しつつ、チームが既にもっているリソースを最大限に活用し、チームを前進することだ。

 この方針については、小松新代表とシュタイナー元代表の意見が一致しなかったが、小松新代表を含むチーム内の他メンバーでは意見が一致したという。

 シュタイナー元代表は、チームを前進させるためにはさらなる投資が必要だと考えていたのに対し、ジーン・ハースはチームには既に必要なリソースが整っていると感じており、それをまとめる人材が必要なだけだと考えていた。

 ジーン・ハースは次のように語った。

「今あるリソースを効率的に使う必要があるが、デザイン・エンジニアリング能力を向上させることが、チームとしての成功のカギとなる」

「礼雄と一緒に仕事をすることが楽しみだし、我々のポテンシャルが最大限に引き出されるはずだ。これはF1でしっかりと戦いたいという私の願望を明確に示したモノだ」

 ジーン・ハースの立場からすれば、エンジニアをトップに据えることには明確なメリットがある。そして、他のチームも同じ結論に達し、チームの顔は企業の重役からエンジニアへと変わりつつある。

 マクラーレンのステラ代表だけでなく、ここ1年では多くのチーム代表が交代。ウイリアムズは、元メルセデスの戦略主任のジェームス・ボウルズを代表として起用し、アルピーヌはパワーユニット部門主任のブルーノ・ファミンを暫定代表に据え、レッドブルは姉妹チームであるアルファタウリのチーム代表として、フェラーリでスポーティングディレクターを務めたローレン・メキーズを起用した。

 今やチーム代表は企業の役員室ではなく、ピットウォールからやってくる時代なのだ。そしてステラ代表は、エンジニア主導のF1チームが躍進する輝かしい一例となった。

 ただ、エンジニアをトップに据えるという決定が、F1で良い結果を出すための絶対的な答えだと考えるのは間違いだろう。

 2023年、メルセデスのチーム代表兼CEOであるトト・ウルフは、ガレージでの経験だけでなく、ビジネスや政治的な側面も理解しているボウルズがウイリアムズの代表に適任だと語っていた。

「ビジネス的な理解と政治的な視点が必要だ。エンジニアリング部門やテクニカル部門の人に言われたことに惑わされてはいけない」とウルフ代表は言う。

「ジェームスのバックグラウンドは、エンジニアリングだ。私なら、例えば純粋なエンジニアとしてよりも、技術やスキル以外の点で彼を私の陣営に入れたい」

「とは言え、これはパーソナリティの問題だ。エンジニアのバックグラウンドを持ちながらチーム代表に相応しい人格を持つこともできるし、ビジネスや財務のバックグラウンドを持ちながらも組織に上手く貢献することもできる」

 ラリー畑出身のシュタイナー元代表は、技術的なバックグラウンドとビジネス的なバックグラウンドの両方を持っていた。

 シュタイナー元代表はハース創設期からチームを牽引し、COVID-19の世界的蔓延によって苦境に立たされた時も、チームを存続させる上で重要な役割を果たした。シュタイナー元代表はマネーグラムをチームのタイトルスポンサーに招き入れるなど、より強固なビジネス基盤に乗せた立役者だった。

 またシュタイナー元代表は、NetflixのF1ドキュメンタリー『Drive to Survive』に登場した際に率直な物言いが反響を呼び、高い知名度を得ていた。

 ジーン・ハースがシュタイナーとの契約更新を見送り、“広告塔”を失ったことが、チームにとっての損失であることを否定する人は誰もいないだろう。

 小松新代表は全く異なる性格の持ち主であり、シュタイナー元代表ほど率直で、見出しを大々的に飾るような発言はほとんどしないだろう。

 食うか食われるかのF1の世界では、エンジニアが強引なアプローチながらも、激しい競争の中で素晴らしい効果を発揮することもある。とは言え、時に人々の反感を買うこともある。

 また、エンジニアを責任者に据えたチームは、エンジニアが不得意とする分野でのサポート体制を築くことも重要となる。実際、マクラーレンのステラ代表は、CEOのザク・ブラウンとの二人三脚でチームを運営。アルファタウリではメキーズがチーム代表を務める傍ら、ピーター・バイエルがCEOとしてビジネス面を監督している。

 ハースは小松新代表をサポートする人材として、今後最高執行責任者(COO)を任命するとしている。新たなCOOはファクトリーからレース以外の問題に専念することとなり、小松新代表はコースサイドでこれまで以上に大きな責任を負うことになる。

 2024年に小松新代表がハースにどのような影響を与えられるのかを判断するのは明らかに時期尚早だが、彼のようなエンジニアをトップに据えることが、ステラ代表がマクラーレンにもたらしたような好転を約束すると考えるのは甘いだろう。

 まず、ステラ代表はおそらく、目立たない逸材だったというユニークなケースだ。

 マクラーレンは2022年のフランスGPの時点で、新たな方向に舵を切る必要があることを悟っており、ステラが代表の席に座る頃には、復活に向けてチームは前進していた。そしてステラ代表は、マクラーレンのファクトリー内でも人気が高く、際立った個性を発揮しており、チームスタッフ全員のポテンシャルを引き出す才能を有していたのだ。

 小松新代表が率いるハースは全く異なる状況にいる。

 前述の通り、ハースは2023年シーズンのコンストラクターズランキングで最下位に終わった。アメリカGPで投入した大型アップデートは期待した効果を発揮せず、マシンの将来的な方向性を示すこともなかった。

 2024年シーズンに向けて、ハースがオフシーズン中にコンセプトの答えを出すことができたかどうかはまだ分からない。その点、テクニカルディレクターを務めてきたシモーネ・レスタがフェラーリへ戻ることも、ポジティブなこととは言えないだろう。

 小松新代表は、チーム再建に向けたプロセスの中で、ステラ代表よりもかなり早い段階でチームを任されたため、マクラーレンが2023年に達成したような進歩を2024年のハースに求めるのは無理がある。

 マクラーレンは莫大な投資を実施し、シミュレータや風洞といったインフラ設備を刷新。他チームから人材を引き抜いて技術部門を強化しており、その流れの中でステラは代表に就任した。

 一方で小松新代表のハースでの使命は、既にあるリソースを全て使い、できることをやるという意味合いが強い。

 そして小松新代表は毅然とした性格であり、ステラ代表とは全く異なる。そして外から見る限り、ステラ代表がマクラーレンを率いる際に用いる柔和な雰囲気は感じられない。そのため、エンジニアリングディレクターからチーム代表への昇格に、小松がどう対処するかが注目される。

 ただ、小松新代表にとって有利なのは、彼がチーム創設期からハースの中心人物のひとりだったということ。ハースのことを知り尽くしており、チームの様々な浮き沈みを経験してきた。

 ハースはF1で最も小さなチームであることに変わりはないが、小松新代表はそこに潜在的な可能性を見出している。

 2024年初め、motorsport.comの姉妹誌「GP Racing」の取材に応じた小松は、ハースに対する自身の見解について次のように語っていた。

「我々は真のレースチームです。他のチームにあるような惰性や官僚主義はありません」

「決断が必要なら決断します。他人がどう思うかなんて私は気にしていません。間違った決断をしたらクビになるかなんて考える必要もありません。もし私が間違った決断をして、ボスにそれを説明しなければならなくなったとしても、私はそうします。何も隠す必要はないんです」

「ここハースでは、決断を下すことを恐れる必要はありません。決断のほとんどが正しいこと。それこそが本当に重要なことです。常に100%正しいなんてことはありえませんからね」

「でも、自分で決断することを恐れていたら、上手くいくはずがありません」

 チーム代表という新たな役職では、これまで以上に小松の決断にスポットライトが当たることとなる。そしてチームを間違った方向へ導く猶予は、はるかに少なくなる。一か八かだ。

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