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フロアは「予選1周もってくれればいい」。ウエットでハマりがちな罠と、勇気がいる“後半勝負”【国本雄資のフカボリSF】

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フロアは「予選1周もってくれればいい」。ウエットでハマりがちな罠と、勇気がいる“後半勝負”【国本雄資のフカボリSF】

 8月9~10日、スポーツランドSUGOで第8戦が行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権。今季初めて雨のレースとなった決勝では、ポールポジションからスタートした岩佐歩夢(TEAM MUGEN)選手がスーパーフォーミュラ初優勝を飾りました。

 この連載では、2016年王者であり、昨年限りでスーパーフォーミュラから退いた国本雄資選手が、レースを独自の視点で分析。今回は、予選日に続発したフロアの破損や、雨の決勝における勝敗の分岐点など、元王者が「特殊なサーキット」と表現するSUGO戦の裏側に迫ります。

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■赤旗で止めて欲しかった予選

 まずは土曜日、ドライコンディションでのFP1は、ルーキーの小出峻(San-Ei Gen with B-Max)選手がトップタイムを記録しました。

 B-MAXは以前にもセルジオ・セッテ・カマラ選手で、SUGOのポールを獲っていましたよね(※2020年第3戦)。SUGOはサーキットとしてちょっと特殊な部分もあるので、チームのノウハウの面で蓄積されたものがあるのかもしれません。もちろん、小出選手が今季積み重ねてきたものも大きかったと思います。

 予選では、Q1のAグループで、アタックのタイミングでスピンしたマシンがいたのに、赤旗にならなかったのは残念でした。スピンした車両の後方を走っていた小高一斗(KDDI TGMGP TGR-DC)選手らはアタックができなくなってしまったわけですし、ああいった状況であれば赤旗でいったんセッションを止めて、全車がアタックできる残り時間まで戻して、再開してほしいと思います。

 とくに小高選手は今回フリー走行から調子が良く、ずっとトップ10に入っているような状況だったので、Q2に進出してくれるかなと期待していたのですが、最後尾になってしまいました。


■いまのSFは「どれだけ車高を下げられるか」

 予選日はフロアが壊れたマシンが多かったようですね。いまのSFは車高を下げれば下げるほどダウンフォースが出る状態なので、そこを攻めた結果ではないかと理解しています。

 もう予選の時なんて、極端な話「1周だけ、フロアがもってくれればいい」くらいに思うものです。それくらいギリギリまで車高を下げると、バン! と良いタイムが出たりする。だからみんなギリギリを狙うんですが、限界をちょっとでも超えてしまうとフロアを擦ってしまい、壊れてしまうんです。

 とくにSUGOは今年路面が改修され、最終コーナーのバンプもなくなりました。以前は車高を下げるとバンプで弾かれる可能性がありましたが、いまはそれがなくなったのでもっともっと車高を攻めることができます。

 低い車高で走るためには「このバネレートなら、このバンプラバーで走ると一番効率が良さそう」といった組み合わせが各陣営にあると思うのですが、そこをうまく使えるチームが上位に行っているのかな、と思います。フリー走行で速かったB-MAXについても、その部分でうまいところを突けていた可能性はありますね。それだけに、Q1でトラブルに見舞われてしまったのは本当に残念でした。


■岩佐が実践した“メリハリ”をつけた走り

 さて、予選ポールポジションは岩佐歩夢(TEAM MUGEN)選手。彼は常にマシンから速さを引き出してきましたが、今回のSUGOでもしっかりとそれを見せてくれました。TEAM MUGENは相変わらずエアロをうまく使って走っている印象がありましたね。

 エアロのおかげで高速コーナーが速いのはもちろんですが、一方で小さな低速コーナーもしっかりカバーできている。その低速側での挙動をうまくフォローできているのが、彼らの速さのポイントになっている気がします。ジオメトリーとか、デフとか、そういったところでグリップやトラクションを出しに行っているように感じます。

 雨で迎えた決勝日は、朝のFP2の段階から、タイヤをどれだけもたせられるか、という勝負になる気配がしていました。

 トップの岩佐選手は、すごくコントロールしながら走っているように見えました。やや極端に表現するなら、セクター1・2という抜かれないところはゆっくりと走り、後ろにつかれたらマズいところだけしっかり飛ばす、といった感じでしょうか。スタートしてからずっと、そうやっていたように見えたので、見事な勝利だったと思います。それができたのは、ベースのマシンが速かったということに加え、トップで走っていたのでクリーンエアを得られ、エアロをしっかり使えていたことも大きかったと思います。


■低めの内圧設定で“我慢”した陣営に光?

 一方、追う立場となった予選2番手スタートのサッシャ・フェネストラズ(VANTELIN TEAM TOM’S)選手ですが、坪井翔選手ともども、トムスはタイヤのウォームアップが早そうに見えました。とくにセーフティカー明けのリスタートでは、岩佐選手にものすごく迫ってきていたので、タイヤの内圧がちょっと高めだったのか、タイヤに負荷がかかりやすいセットだったのか。これはオートポリス戦の際にも指摘しましたが、あのとき坪井選手のアウトラップが速かったことにも通ずる部分ではないかと思います。

 そういう意味では、トムスはタイヤへの入力、言い換えれば攻撃性が高いクルマになっているのかもしれません。そして、低負荷の状況でもグリップを生み出せる反面、スティント後半になってくるとタイヤが厳しくなってくることもある、と。

 とくに今回のような、レース中の雨量の変化が読みづらいコンディションの場合、スターティンググリッドではほぼ内圧の話しかしないですね。

 ウエットレースでの内圧設定に関してよくある落とし穴としては、朝のフリー走行で低めの内圧からスタートして「全然グリップしないよ!」という状況があります。日曜朝は30分しかありませんし、そこで連続周回してもなかなかグリップは感じられるものではありません。相対的なペースが遅くて「これじゃ戦えない」という判断から内圧を上げてみると、とたんにグリップが感じられるようになる。そしてそのままレースに行ってしまって後半苦しむ、というパターンです。

 その点では、福住仁嶺(Kids com Team KCMG)選手や阪口晴南(SANKI VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)選手は、低めの内圧でレースをスタートしたのかな、と感じました。ふたりともリスタート直後には抜かれたりもしていましたが、レースの中盤から後半になって強さを発揮し、追い上げることができていました。

 低めの内圧でスタートするのって、本当に勇気がいるんですよ。最初は「こんなグリップしないタイヤじゃ走れないよ!」と思いますし。内圧が上がりきらないうちに抜かれても、焦らないことが大事です。そこで無茶してガンガン攻めた走りをしてしまうとタイヤの表面温度が上がり、機能しなくなってしまいますから。そこは割り切って、「序盤は遅いけど、中盤から後半で行くぞ!」と気持ちを切り替えなければいけません。

 最後に坪井選手を抜いて表彰台をもぎとった福住選手の走りは、まさにそれを実践したものだったのではないかと思います。また、KCMGのクルマは比較的フロントがスパっと入るキャラクターです。今回、フロントタイヤが厳しかった陣営が多かったと思うのですが、その点でもKCMGはタイヤを守ることができていた可能性が高そうです。


■あくまで勝利を目指した可夢偉のメンタリティ

 そのKCMGの小林可夢偉選手はSC中にスリックタイヤを履く決断をしました。結構路面は濡れていたように見えましたし、さすがにちょっと厳しいんじゃないかとは感じましたが、可夢偉選手はまだ優勝がありませんし、本当にそこだけを見て走っているのかなと思いましたね。普通のメンタリティだったら、「ここはしっかりとポイントを獲って」となるんでしょうけど、そうならないのが彼らしいというか。

 あのままウエットタイヤで走っていたら、それこそ福住選手と同じように、終盤に追い上げられたのではないでしょうか。5位以内に入れた可能性もあると思うのですが、可夢偉選手はそこは狙っていなかったということ。面白いですね。

 あとは今回、ザック・オサリバン(KONDO RACING)選手がいい走りを見せてくれましたね。ドライの予選でもしっかりとトップ10に入り、雨のレースでもいままでにはなかったような走りを見せてくれました。決勝での戦い方の強さに関しては、海外でレースしてきたならではの部分も感じられましたし、今後も楽しみですね。

 さて、残るは富士、鈴鹿での4レースとなりました。ここでくれぐれも皆さんに覚えておいてほしいのは、SUGOは本当に特殊なコースだということ。SUGOで速かった人が次の富士でも速いかどうかは分かりませんし、今回不調だった陣営でも、富士で息を吹き返すところは多いと予想しています。


●くにもと ゆうじ

1990年生まれ、神奈川県出身。2007年、フォーミュラ・チャレンジ・ジャパンで4輪レースにデビューし、2年目にタイトルを獲得。2010年には全日本F3選手権王者となる。翌年からフォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)にステップアップすると、2016年にはドライバーズタイトルを得た。2017年はトヨタGAZOO Racingよりル・マン24時間レースを含むWEC世界耐久選手権にスポット参戦した。スーパーGTでは2012年から現在まで、GT500クラスのトヨタ/レクサス陣営で活躍。一方、スーパーフォーミュラは2024年限りで現役を引退した。カメラの腕前はプロ級で、例年WEC富士戦の際はTGRオフィシャルフォトグラファーとしてコースサイドから写真撮影に勤しんでいる。

[オートスポーツweb 2025年08月15日]

文:AUTOSPORT web

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