現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 可夢偉チーム代表が、最終スティントを平川に託した理由。まさかのスピンにも「彼を責めるつもりはない」/ル・マン24時間

ここから本文です

可夢偉チーム代表が、最終スティントを平川に託した理由。まさかのスピンにも「彼を責めるつもりはない」/ル・マン24時間

掲載 19
可夢偉チーム代表が、最終スティントを平川に託した理由。まさかのスピンにも「彼を責めるつもりはない」/ル・マン24時間

「見ていて寒気がしましたよ」

 トヨタGAZOO RacingのWECチーム代表を兼務する7号車GR010ハイブリッドの小林可夢偉は、2023年ル・マン24時間のレース終盤に8号車が見せた鬼神の走りをそう振り返る。

優勝マージン、わずか81秒。大波乱のル・マン100周年記念大会をフェラーリ499Pが制す/決勝24時間後レポート

 7号車が悲運のアクシデントによりレース前半でリタイア、“トヨタ6連覇”への想いをすべて背負い込んだ8号車の3人。テストデー直前に発表された“ルールにない”BoP調整により、フェラーリ499Pとは計算上、1周あたりコンマ4~5秒の性能差があるはずだった。実際、想定どおりのタイム差でレース後半の接戦は推移したが、その“計算”を上回らんとする激走をセバスチャン・ブエミが、ブレンドン・ハートレーが、そして平川亮が見せたのだ。

■「僕でいいんですか」

 残り2時間の最終スティント、誰をフィニッシュドライバーにするかは、可夢偉代表も悩んだという。

 そこまでドライブしてきたハートレーの次は、ローテーションどおりにいけば平川だった。

 だが、平川はこの決勝レース、最初の走行では雨の難コンディションで苦闘、朝の2回目のドライブではスティント序盤で小動物を轢いてしまってエアロを失い、リズムの良い走りができずにいた。

 チーム随一の実績を誇るブエミにチェッカードライバーを任すという選択肢もあったが、可夢偉の決断はローテーションどおりの平川だった。

「僕でいいんですか」「僕を信用してくれるんですか」

 チーム代表の可夢偉に、2年目の平川はそう確認してきたという。

「何を信じるかです」と可夢偉はその決断を振り返る。

「そこは僕の責任で……僕は平川を世界で戦えるドライバーに育てたいという気持ちがあります。確かに本来なら経験のあるドライバーに(託す)というのもあるかもしれませんが、でもやっぱり平川に託したいな、と。そもそも信用してなかったら、ここ(WEC)に呼んでいませんから」

 思えば、トヨタでル・マンを制したことがある日本人ドライバー、すなわち中嶋一貴TGR-E副会長も、そして可夢偉チーム代表も、ル・マンの最終スティントを担当してきた。

 一貴は“3分前”でストップしてしまった2016年、「あんなに重いハンドルはない」と関わってくれたすべての人の想いを背負う最終スティントの重責を表現した。可夢偉は悲願がようやく成就した2021年、フィニッシュドライバーを務めるにあたり「一貴は何度もこんな想いをしてきたのかと尊敬した」と語っていた。それほどまでに、一年に一度の伝統の24時間レース、その最終ランナーを務める者の双肩には、常人では理解できないほどのプレッシャーがのしかかるのだろう。

 ましてや100周年のル・マンは是が非でも勝ちたい、いや、勝たなくてはいけないレース。劣勢のなか首位を追いかける状況に、平川も「プレッシャーはとても大きく、これまでにないものだった」と振り返る。それでも、「自分の持っているものをすべて出す」という強い気持ちが勝っていた。

 ハートレーからステアリングを譲り受けると同時に、平川は猛然とフェラーリを追った。幸い、それまでの走行よりもフィーリングは良くなっていた。しかしコースに出てわずか3周目、アルナージュへのブレーキングでリヤタイヤがロック、コントロールを失った8号車はスピン状態からガードレールにクラッシュしてしまう。大きくタイムロスしてコースへ復帰、ピットで前後のボディワーク交換を行った8号車は、完全に勝機を失った。

 レース後の平川は、これまでに見せたことのないほど、悔しさや自責の念をストレートに滲ませていた。表彰台でも、記者会見でも、硬い表情で俯く平川を、可夢偉やハートレーがそっと支える姿が印象的だった。

 平川はスピンの瞬間を「ブレーキでリヤがなくなってしまい、そこは想定外でした。自分でも何が起こっていたか分からないです」と振り返った。

「彼を責めるつもりはありません」と可夢偉代表は言う。

「(原因は)本人がどうのこうのとうよりも、すべての雰囲気ですよ。『いくしかない』という雰囲気をチームで作ってしまっていましたし、その雰囲気でずっとあそこまで食らいついてきてしまったから。もちろん、経験のあるドライバーだったら『もう、ここら辺が限界だな』って分かったかもしれない。でもそれも含めて、チャレンジしなければ分からなかったことだし、これが本当にいい経験になって、もっと強いチームを作るということにつなげられるんじゃないかなと思っています」

 平川の見せた走りをそう評価する可夢偉は、「僕もああいう状況のときに、もしかしたら失敗したかもしれない。でも大事なのはそこではなくて、失敗してもみんなが『もっと次は頑張ろう』というチームを作るのが僕の責任ですから」とチーム代表の立場から俯瞰する。

 それまでのペース差を見れば、たとえスピンがなかったとしても、首位フェラーリには追いつかなかった可能性は高い。それでも平川が見せた攻めの走りと、『ル・マンの最終スティントを走る者にしか得られない経験』は、平川とチームにとって、この先に繋がるものであったはずだ。

「自分自身のミスから学び、さらに強くなって戻ってきたい」。記者会見の最後に、平川はそう絞り出した。

こんな記事も読まれています

2台でペナルティ3回。乱戦を6&7位で終えたトヨタ「ポルシェとフェラーリは明らかに我々より速かった」/WECスパ
2台でペナルティ3回。乱戦を6&7位で終えたトヨタ「ポルシェとフェラーリは明らかに我々より速かった」/WECスパ
AUTOSPORT web
ロードコースは譲らない。王者アレックス・パロウが圧巻のポール・トゥ・ウイン/インディカー第4戦
ロードコースは譲らない。王者アレックス・パロウが圧巻のポール・トゥ・ウイン/インディカー第4戦
AUTOSPORT web
道路の真ん中にあるナゾの物体 やたら派手で中身は何? 円柱以外の形もあり
道路の真ん中にあるナゾの物体 やたら派手で中身は何? 円柱以外の形もあり
乗りものニュース
フォードF1責任者、レッドブルとのパワーユニット開発は順調と主張「ただ、ライバルのことは分からない」
フォードF1責任者、レッドブルとのパワーユニット開発は順調と主張「ただ、ライバルのことは分からない」
motorsport.com 日本版
最強「V8エンジン」搭載! 新型「カクカク本格SUV」発表! 豪華内装の“3列シート”モデルも用意の「ディフェンダー」登場
最強「V8エンジン」搭載! 新型「カクカク本格SUV」発表! 豪華内装の“3列シート”モデルも用意の「ディフェンダー」登場
くるまのニュース
4輪のような大排気量エンジンが超パワフル! 「ハーレーダビッドソンのドル箱」公道での走り味は? 長距離はもちろん街乗りも快適です
4輪のような大排気量エンジンが超パワフル! 「ハーレーダビッドソンのドル箱」公道での走り味は? 長距離はもちろん街乗りも快適です
VAGUE
初リタイアのアコスタ、前向きな姿勢崩さず「転倒していなければ、トップグループに加われたはず」
初リタイアのアコスタ、前向きな姿勢崩さず「転倒していなければ、トップグループに加われたはず」
motorsport.com 日本版
[サウンド制御術・実践講座]クロスオーバーで肝心要の「位相合わせ」の極意を伝授!
[サウンド制御術・実践講座]クロスオーバーで肝心要の「位相合わせ」の極意を伝授!
レスポンス
6MT×V8搭載! 新型「“FR”クーペ」公開! 830馬力超えの「最強モデル」! 60年で“最も楽しい”「スーパースネーク」米での登場に反響も
6MT×V8搭載! 新型「“FR”クーペ」公開! 830馬力超えの「最強モデル」! 60年で“最も楽しい”「スーパースネーク」米での登場に反響も
くるまのニュース
マセラティ新型BEV「グランカブリオ・フォルゴレ」発表 2028年までに完全EVメーカーに生まれ変わるラグジュアリーブランドは“電動ボート”にも進出
マセラティ新型BEV「グランカブリオ・フォルゴレ」発表 2028年までに完全EVメーカーに生まれ変わるラグジュアリーブランドは“電動ボート”にも進出
VAGUE
ウェーレイン、激しいバトル繰り広げたデニスに不満漏らす「ポルシェ勢同士の接触はあってはならない」
ウェーレイン、激しいバトル繰り広げたデニスに不満漏らす「ポルシェ勢同士の接触はあってはならない」
motorsport.com 日本版
テスラ「モデルS」で初参戦! アニメとコラボした女性ドライバーだけのレーシングチーム初となるレースのゆくえは?
テスラ「モデルS」で初参戦! アニメとコラボした女性ドライバーだけのレーシングチーム初となるレースのゆくえは?
Auto Messe Web
控えめだけど実力◎!ロングドライブも快適な輸入ラグジュアリーカー3選
控えめだけど実力◎!ロングドライブも快適な輸入ラグジュアリーカー3選
グーネット
ケーターハム『セブン 485』に最終モデル、日本には10台限定で導入へ
ケーターハム『セブン 485』に最終モデル、日本には10台限定で導入へ
レスポンス
【MotoGP】中上貴晶、フランスGP決勝14位でポイント獲得「次戦でさらに上位を目指すためのセットアップに努める」
【MotoGP】中上貴晶、フランスGP決勝14位でポイント獲得「次戦でさらに上位を目指すためのセットアップに努める」
motorsport.com 日本版
なんこれ……VWじゃないの!? 日本じゃマイナーだけどいま見るとアリでしなかい「アウディ50」ってナニモノ?
なんこれ……VWじゃないの!? 日本じゃマイナーだけどいま見るとアリでしなかい「アウディ50」ってナニモノ?
WEB CARTOP
【写真で知る新型フリード】ホンダアクセス製純正オプションから狙うフリード クロスター。「家族で楽しむアウトドアカーライフ」の最適解とは
【写真で知る新型フリード】ホンダアクセス製純正オプションから狙うフリード クロスター。「家族で楽しむアウトドアカーライフ」の最適解とは
Webモーターマガジン
サーフボードもクルマもナンパの小道具! バブル期に湧いて出た「陸サーファー」に愛されたクルマ4選
サーフボードもクルマもナンパの小道具! バブル期に湧いて出た「陸サーファー」に愛されたクルマ4選
WEB CARTOP

みんなのコメント

19件
  • いやどう考えても失策。平川なんかで逆転できるとでも?バカね。今年は節目の年でもあり理不尽なウェイトハンデをはね返す意味でも勝たなければいけない年だった。もうルマンを見る気なし。
  • この失敗が大きな経験になったのなら良かったと思う
    新たなドライバーも育てないといけないからね
    こんな経験、プロでも中々出来る事ではない
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村