巨大なフロントグリルが話題の新型BMW「4シリーズ・クーペ」が日本に上陸した。早速試乗したサトータケシの印象は?
想像以上に“クラシック”
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写真が発表されたときから「グリル、デカっ」とか「ブタ鼻」など、フロントマスクが大きな話題となったBMWの新型4シリーズ。実物はどんなものかと、ドキドキしながら輸入元であるBMWの日本法人のある建物の地下駐車場で対面する。初対面でパッと浮かんだ言葉は「デカい」でもなければ「ブタ」でもなく、「クラシック」だった。
なんとなれば、縦方向に伸びたグリルは、1933年に発表したBMW初のオリジナルモデルである「303」や、第2次大戦後に発表した「501」を思わせたからだ。
Hiromitsu Yasui写真で見るとグリルの面積ばかりが強調されるけれど、実車から伝わる情報量は平面からよりはるかに多い。奥行きがあって造形も複雑だから、写真の印象とは変わってくるのだ。
BMWのフロントマスクを特徴づけるキドニーグリルとは、腎臓(キドニー)がふたつ並んでいるように見えることからこう呼ばれる。キドニーグリルを初めて採用したのが前出の303だったけれど、1960年代の「1500」あたりからグリルは水平方向に伸びてスクエアな形状となった。
Hiromitsu YasuiBMWの腎臓が再び縦方向に伸び始めたのは1990年代、モデルでいうと3代目3シリーズ(E36)あたりからで、以後、成長を続けてついに戦前にまで回帰した。
惜しむらくはナンバープレートの位置。かつてのアルファ・ロメオ「156」のように、グリルのデザインの邪魔にならないようにフロントバンパーの端に寄せることはできなかったのか。
顔にばかり目が行ってしまうけれど、ルーフからトランクにかけてのラインがきれいだ。このクルマに追い抜かれて後ろ姿を見せつけられたら、ポーっとしてしまいそう。あと、横から見たときにクルマが薄く見えるフォルムは、「8シリーズ」に近くなったように感じる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui“いいモノに乗っている”
外観を観察してから運転席に乗り込むと、趣味のいい茶色ベースのインテリアに囲まれた。先代3シリーズのクーペを独立させる形で2013年に登場した初代4シリーズは、その後、カブリオレや4ドア・クーペのグランクーペなどバリエーションを増やした。
そして初めてのフルモデルチェンジを受けて、2代目4シリーズが発表された。まずは2ドアクーペのみで、先代を踏襲するならば、これからカブリオレや4ドアクーペがくわわるはずだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui試乗したのは、現時点での4シリーズのラインナップにおける最上級グレードであるM440i xDrive Coupe。BMWのMモデルにはふたつの種類があって、ひとつはM3など「公道も走れるレーシングマシン」という位置づけのMハイ・パフォーマンスモデル。
今回試乗したM440iは、「サーキットも走れる高性能車」であるMパフォーマンス・モデルにカテゴライズされる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiスターターボタンを押して3.0リッター直列6気筒ターボエンジンを始動すると、低音だけれど抜けがいい、腹に響くような排気音が地下駐車場に広がる。地下から地上に向かう急勾配の登り坂で、「いいじゃん」と思う。微妙なアクセルワークにもリニアに応えてくれるからだ。
右足の親指の付け根にちょこっと力をくわえただけで、望む通りにスピードをコントロールできる。言葉にするとあたりまえのことだけれど、「水がおいしい」とか「米がおいしい」というように、あたりまえのことを感心するレベルでできるのは大したものだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui“M”の文字が冠されているからハーシュネス(路面からの突き上げ)がビシッとくる乗り心地を覚悟していたけれど、良い意味で拍子抜けした。硬さも荒っぽさも感じさせない、洗練された乗り心地だったからだ。
4本のサスペンションが巧みに伸びたり縮んだりして路面からのショックを吸収しつつ、上下方向の揺れはスッと収束するから余分な動きが残らない。上品で高級な足まわりだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiトルクが豊かで反応のいい、ブンまわさなくても気持ちがいいエンジンと、しなやかな足まわりの組み合わせだから、都心を30km/h程度で流していても、いいモノに乗っていると実感できる。けれども、高速道路のETC ゲートを通過してアクセルペダルを踏み込むと、やはりここからがBMWの真骨頂だと思わされる。
直列6気筒ガソリン・ターボは朗らかに、歌うように回転を上げ、それに伴いパワーが盛り上がる。かつてのNA(自然吸気エンジン)のカミソリのようにシャープなレスポンスとは異なり、ターボエンジンの手応えはもう少しふくよかで丸みがある。バイエルンのエンジン製造会社は、ターボ時代の新しい気持ちよさを表現するコツをつかんだと見た。
Hiromitsu Yasuiスポーツモードを試す。トランスミッションが高い回転をキープするようになるとともに、アクセル操作に対する反応がさらに鋭くなる。スマートだった排気音も、バリバリという野卑な音が混じるようになる。ドライバーは、一気に戦闘モードに入る。
ただし、コンフォートモードではシームレスに変速したトランスミッションが、戦闘モードでは多少のショックを伝えるようになるし、アクセルペダルのオン・オフを丁寧に行わないとクルマの動きがぎくしゃくする。
スポーツモードで滑らかに速く走らせるには、ぼーっとしていちゃダメだ。なるべく遠くを見て、コーナーの曲率を読んで、アクセルペダルを丁寧に操作する必要がある。そうすると期待に応えてくれる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui“現在、過去、未来”を実感
高速道道路で渋滞に突入した。そこで、ハンドルのスポーク部分のスイッチを操作し、前を走るクルマに追従するモードを設定した。ハンドルから手を放すことができ、アクセルもブレーキも操作する必要がない。
コーナーの曲率に合わせて滑らかにハンドルを操作する様子は、1年ちょっと前に試乗した3シリーズより滑らかになっていて、この技術が猛烈な勢いで進歩しているのが伝わってくる。現状では、なにかがあったらすぐにドライバーが運転しなくてはいけないから“自動運転”という表現を使ってはいけない。でも、ドライバーの実感としては“自動運転”だ。
Hiromitsu Yasuiコンフォートモードで走る市街地では、湖を行く白鳥のように優雅。一方、スポーツモードで走るワインディングロードでは、気性の荒い悍馬の一面を見せて、ちょっと懐かしい。そしてハンズオフのモードでは、未来が感じられる。古典的なスポーツクーペ、モダンなプレミアムカー、そして未来のクルマ。現在、過去、未来。
インパネに向かって「こんにちは」と話しかけると、「ご用件をどうぞ」と返答してくれたので、iTunesのプレイリストから渡辺真知子の『迷い道』をリクエストしたのだった。
Hiromitsu Yasui文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
「クラシックに見える」ってそれ、ビーエムが「そう言ってくれ」って言ってるまま書いてる太鼓持ち。
この顔見て、「なんてクラシックなんだ!」って感想出るわけない。。