この記事をまとめると
■スーパーGTのGT300クラスに新開発となる新型Zが第2戦の富士でデビューした
豊田章男会長の「道楽」とは不見識なのか? 前例のない大企業トップによる「本気の」モータースポーツ活動で得られる効果は絶大
■11号車「GAINER TANAX Z」のチーフエンジニア福田洋介氏に新型Zの実力を聞いた
■まだまだ伸び代があるGAINER TANAX Zの今後の熟成に期待
新型ZがスーパーGTのGT300クラスにデビュー
2024年のスーパーGTにはホンダ系の有力チームが新型モデルとして「シビックタイプR-GT」をGT500クラスに投入。当サイトでもマシン解説を行ったことから、ご存じの読者もいると思うが、じつはGT300クラスにも新開発のマシンがデビューしている。
昨年までニッサンGT-R NISMO GT3でGT300クラスに参戦していたGAINERが、第2戦の富士より新型Zの11号車「GAINER TANAX Z」を投入。というわけで、8月2~5日、第4戦が行われた富士で、GAINERのピットに潜入。技術部門の責任者を務めるチーフエンジニアの福田洋介氏を直撃してきた。
──基本的な話ですみませんが、GT300クラスには国際規定モデルのFIA GT3とスーパーGT独自のGTA-GT300、あとマザーシャシーを使ったGTA-GT300MCと3タイプのモデルがあると思うんですけど、GAINERさんが独自開発した11号車のZはどれになるんですか?
福田氏:GTA-GT300車両になります。
──昨年までGT-R NISMO GT3で参戦されていましたが、今年はなぜ、Zをベースに独自開発のマシンで参戦することになったんでしょうか?
福田氏:もともとGAINERはクルマを作ることを前提に立ち上げたチームです。当初は童夢さんの設計したフェラーリでGT300クラスに参戦していたんですけど、2008年にエンジンを変更し、2009年はシャシーを含めてオリジナルのマシンで参戦していました。その後はGTE、GT2、GT3で参戦していたんですけど、あらためて自分たちで走らせるクルマは自分たちで作ろうという思いから、2024年はZを開発して参戦することになりました。
──なぜ、Zがベースだったんでしょうか?
福田氏:ここ数年はずっとGT-Rを使っていたし、NISMOさんとコミュニケーションをとっていましたからね。GT-Rは新しいモデルが出てこないなか、Zが新型に切り替わったのでNISMOさんと話し合い、ZをベースにGTA-GT300規定でレーシングカーを開発することにしました。
──エンジン開発はNISMOが担当されていると思いますが、搭載されているエンジンは3800ccのV型6気筒ツインターボですよね? GT500クラスのZには2000ccの直列4気筒シングルターボのNR4S24が搭載されていますが、GT300クラスのZのエンジンは確かGT-R NISMO GT3と同じVR38DETTですよね?
福田氏:エンジン本体はVR38DETTになります。個人的にVR38DETTは世界最強のエンジンと思っていたので、どうしてもGT-R NISMO GT3のエンジンを使いたかったんですけど、GT-RとZでは車格の違いがあって、メンバーの幅が違うので、ターボやエキマニは専用パーツになっています。
──2024年に新型Zを投入するにあたっていつから開発されていたんですか?
福田氏:企画が立ち上がったのは2021年末で、2022年には設計がスタートしました。当初はパイプフレームをベースにする予定で設計を進めていたんですけど、GTカーの原点は市販車改造ですし、市販車のフレームを活かしても速いクルマが作れるんじゃないか……という思いもあって設計を変更しました。そういったプランの変更もあって時間はかかりましたね。本格的にクルマの製造に着手したのは昨年の冬で、11月の段階ではまだロールケージの合わせを行っている状態でした。
──GT500クラスのZはカーボンモノコックを使用していますが、11号車は市販車のシャシーを使っているんですね?
福田氏:パーツを収めるためにカットした部分もありますが、基本的には市販のフレームで、フロア、サイドシルも市販車を残しています。クルマの製造という意味ではパイプフレームのほうが簡単ですけど、FIA-GT3車両と同様に量産車両のボディを使うことで衝突安全性が確保できること、同時に若手の技術者を育てたいという部分もあって市販フレームを採用しました。
──なるほど。プラン変更もあって、開幕戦の岡山は欠場されていたんですね?
福田氏:開幕戦の岡山にもクルマをもっていったんですど、冷却系がまだ完成していなかったので欠場しました。その後、冷却系を仕上げて岡山でシェイクダウンを行いました。
──それで第2戦の富士がデビュー戦だったんですね。たしか、デビュー戦はリタイヤに終わりましたよね?
福田氏:岡山でシェイクダウンしたんですけど、冷却系が不足していたし、サスペンションまわりも出来上がっていない状態でした。とりあえず第2戦の富士の前にフロントのサードダンパーをつけて、冷却もレースウィークにダクトをつけたんですけど、まだ冷却不足でした。走れはするんですけど、オーバーヒートして何回もピットインを繰り返すとまわりのチームに迷惑をかけちゃうのでリタイアをしました。
──なるほど。で、確か第3戦の鈴鹿もリタイアでした。
福田氏:冷却系を対策したことで、走れるようになってきたんですけどね。鋭利な突起物がラジエターのチューブに当たって、そこから液漏れしまして、それでリタイアしました。
──いろいろとトラブルがあったようですが、これである程度は熟成されてきたんでしょうか?
福田氏:第3戦の鈴鹿の後に、SUGOでテストがあったんですけど、冷却系をアップデートしてリヤにもサードダンパーを装着しました。でも、セットアップがまだ煮詰められていない。いまのスーパーGTは走行できる時間が少ないので、レースウィークはセットアップを詰める時間がなくて手探りの状態です。
新型Zはまさにレーシングカーといった仕上がり
──まだ国内のすべてのコースを走っていない状態だと思いますが、Zと相性のいいコースはどちらでしょうか?
福田氏:まだわかりませんが、富士での最高速は速かった。全面投影面積の大きいGT-Rと比べてもよかったので、それを活かしたいですね。
──コーナリングは厳しい状態でしょうか?
福田氏:性能調整で車両重量が重くなっているので、低速も高速もコーナーは苦労している状態です。GTA-GT300車両でもパイプフレームのマシンはコーナリングに強いと思いますが、このZは市販フレームを活かしていることもあって、どちらかというとFIA GT3車両に近い特性かもしれません。それでもGT-Rより荷重移動が少ないので、タイヤへの攻撃性が少なくなっていると思います。
──なるほど。ちなみに市販モデルから流用しているものはあるんでしょうか? あと、GT3車両を買うより、自分たちでGTA-GT300を作ったほうがリーズナブルなんでしょうか?
福田氏:シャシーとルーフは市販ですが、それ以外はほぼレース用です。それに、コスト的に考えるとクルマを1台だけ作るのもかなりの予算を使いますし、市販フレームを使っていることで時間もかかりますからね。コストダウンと製作時間の短縮を図るため、GT-R NISMO GT3のパーツを活かしたい……ということもあって、ギヤボックスやアップライト、シート、エアコン、ステアリング、スイッチボックスなどはキャリーオーバーしていますが、GTA-GT300のほうが安いとはいい切れないところです。
──ちなみにaprさんは、GTA-GT300車両のGRスープラ、GR86を開発してほかのチームに販売していますが、GAINERさんもZを販売する予定はあるんでしょうか?
福田氏:ゆくゆくは販売を考えていますが、まずは完成させないといけないし、コストの算出もしないといけない。まだ暫定的な仕様で、空力や冷却系のパーツも一部は3Dプリンターで製作しながら試している状態ですし、軽量化も進めたい。まだまだカスタマーへの対応には時間がかかると思います。
以上、チーフエンジニアの福田氏に話を聞いてみたが、マシンのドライビングフィールはどのようなものなのだろうか?
というわけで、GAINER TANAX Zのステアリングを握る富田竜一郎選手、石川京侍選手の両ドライバーに同モデルのインプレッションをしてもらった。
──新型Zの第一印象は?
石川選手:シェイクダウンのときからレーシングカーでしたね。昨年まで乗っていたGT-Rと比較するとロール感がないし、ダイレクトな感覚があります。まだセッティングが出ていないけれど、毎回、クルマが進化している。クルマのベースはいいと思います。
富田選手:これまでスーパー耐久の市販車ベースのマシンやFIA-GT3などさまざまなクルマに乗ってきたんですけど、もっともレーシングカー的な仕上がりですね。国際モデルのGT3といっても市販車の性格が残っているし、ZでいえばGT4にも乗っているんですけど、それとも雰囲気がまったく違います。市販のフレームを使っているけれど、Zらしさはあまりなくて、剛性感が高い。すべての動きに対して反応が速いですね。
──なるほど。Zらしさはあまりなさそうですね。
富田選手:そうかもしれません。でも、GT500のZと違ってGT300のZは市販フレームを使っていることから、Zベースのレーシングカーの最高峰だと思います。
──どこのコースに合っていますか?
富田選手:昨年まで乗っていたGT-Rと比べるとドラッグが少ないのでストレードエンドのスピードが伸びやすい。そういった意味では富士が合っているような気もします。まだエアロのバランスもあって、ハイスピードコーナーでのパフォーマンスが想定まで届いていないけれど、そこがちゃんとしてくると速くなると思います。
──Zの武器はなんですか?
富田選手:タイヤの摩耗が少ないので、1スティントのタイムの落ちはGT-Rよりもいいと思います。GT-Rではリヤが厳しいことがあったんですけど、そういった心配はないですね。それにトラクションもすごくて安心感もあります。
このように富田選手、石川選手ともに新型Zに対して好感触。事実、第4戦の富士で11号車のGAINER TANAX Zは予選で8番手につけると350kmの決勝でも安定した走りを披露し、10位で貴重な1ポイントを獲得した。
「いまはまだ開発途中で、今後も各ラウンドでアップデートしていくことになるでしょう」と語るのは、チーフエンジニアの福田氏だが、もともとGAINERは2014年にチーム部門、2015年にはドライバー部門&チーム部門でタイトルを獲得するなど技術力が高いほか、GAINER TANAX Zにはまだまだ伸び代があるだけに、今後の熟成に期待したいところ。
さらに将来的にはGAINER TANAX Zをイメージしたロードゴーイング対応のカスタマイズパーツの製作および販売も計画されているだけに、今後もGAINER TANAX Zの動向に注目だ。
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