2026年マシン開発の”全集中”のニューウェイ……その天才的頭脳を存分に活かすために、今のアストンマーティンがすべきこと

　アストンマーティンF1のマネージング・テクニカル・パートナーである著名なF1デザイナー、エイドリアン・ニューウェイは、F1イギリスGPの際にシルバーストン・サーキットに姿を見せた。3月にチームに加入して以来、モナコとグッドウッドを除けば、シルバーストン・サーキットの近くにあるアストンマーティンの新ファクトリー”キャンパス”に籠ることが多かったニューウェイが現場に顔を出すのは、珍しいことと言っていい。

　ニューウェイはこの時も、彼の代名詞とも言えるスケッチブックを持って、スターティンググリッドを歩いていた。1992年のウイリアムズFW14Bを皮切りに、12台のコンストラクターズチャンピオン獲得マシンの開発を手がけてきた、稀代の天才デザイナーであるにも関わらず、ニューウェイは他人のアイデアから学ぶことを決して厭わない。

　ただその学習結果は、今年のアストンマーティンのマシンに注入されることは、あまり期待できそうにない。彼は、レギュレーションが大きく変わる、2026年用マシンの開発に、全力を注いでいる。

「彼は仕事している。積極的に関わっているよ」

　アストンマーティンのドライバーを務めるフェルナンド・アロンソは、DAZNスペインのインタビューにそう語っている。

「彼は非常に意欲的なんだ。しかし、今年のマシンにはあまり興味がないように見えるのも事実だ」

「今年のマシンについて何か質問したり、改善点について尋ねたりすると、彼はいつも、立ち上がって別のオフィスに行ってしまう。つまり彼は、すでに2026年モードに入っているということだ……」

■他の人が作ったマシン、手を入れるのはキライ？

　ニューウェイはこれまで、新たなチームに加入した際には、それ以前のマシンの開発に関わることを避ける傾向にあった。ウイリアムズで初めて手がけたFW14は、空力面では前代のFW13よりも、ニューウェイがそれ以前に手がけていたレイトンハウスCG901との共通点の方が多かった。マクラーレンに移籍した際には、ガーデニング休暇中に1998年のマシンの幅が狭くなったルール下におけるコンセプト開発に即座に着手し、1997年のマシンに関わることを限りなく少なくした。そしてレッドブルに加わった際には、前代のRB2をほぼ完全に見放した。

「RB2を理解しようと時間をかけたんだ」

　当時のインタビューで、ニューウェイはそう語っていた。その時の彼は、半ば呆れているようにも見えた。そして、こういう言葉は当然のように続いた。

「しかし……」

　当時のニューウェイにとって最重要だったのは、ジャガー・レーシングから引き継いだ技術部門を立て直すことだった。

　この姿勢は、アストンマーティンに加入した今も貫かれている。そして少なくとも公の場では自身の見解を、”より外交的”な言葉で表現している。内部では、どんな辛辣な言葉が飛んでいるか、我々には分からないが……それでもニューウェイは、現在アストンマーティンが手にしている開発”ツール”は「弱い」とも発言していた。

　ニューウェイにとっての課題は、期待感をマネジメントしながら、これらの再構築を進めていくということにある。

　チームオーナーのローレンス・ストロールは、レースで不振だった翌週の月曜日には、ファクトリで激しい「お叱り」をチームスタッフに浴びせるという。最近はそれがあまりにも多すぎるという。

　アロンソは40代に入り、時間の経過を痛感している。そんな中で、再び速いマシンに乗りたくてうずうずしている。

　そのチームメイトであるランス・ストロールは無関心な印象を受けるが、舞台裏で”癇癪”を起こしたとの噂を聞く限り、開発が好転することに関心を持っているのは間違いないだろう。

　それらのことを考えれば、チームのCEOでありチーム代表でもあるアンディ・コーウェルは、今シーズン中は現実的かつ繊細なバランスが取れた道を歩んでいく必要がある。そうすることで、ニューウェイは自分の好みに合わせて技術体制を再構築し、2026年シーズンを見据えつつ、現在のプロジェクトでも前進しているという印象を与えることができるだろう。

■でも今季マシンも少しは速くしなきゃ……オーナーが怒る？

　エミリア・ロマーニャGPの際には、新たなフロアがAMR25に取り付けられた。このフロアは、大きな効果があったと言われる。その後、イギリスGPの際にはフロアがさらにアップデートされたが、こちらは大成功とは言い難いようだ。

「一歩前進したと思う。マシンのフィーリングは少し良くなった」

　アップデートについて、アロンソはそう語った。

「データを見ると、コースの一部では改善が見られたけど、それ以外の部分では改善が目立ちにくいことが分かった。だから、非常に小さなアップデートパッケージだったと言えるだろう。でも小さいモノであっても、アップデートは常に歓迎すべきだ」

「今はコンマ2秒の間に5～6台ものマシンが並んでいる。0.1秒、いや0.05秒での、大きな違いになるんだ。チームがプッシュし続けている証拠でもある」

「中団グループで停滞している現状には満足していない。年末までに、トップチームにできる限り近づきたいね」

　アストンマーティンが中団グループ上位のポジションに近付いていない……そういうことがわかれば、ローレンス・ストロールは机を叩き、ニューウェイを即座に関与させるように要求するだろうか？　もしかしたらそうするかもしれないが、ニューウェイ本人はそれに最後まで抵抗するだろう。

　ただ、真の勝負となるのは前述の通り2026年。レギュレーションが大きく変わり、車体もパワーユニットもまるで別物となる。そしてアストンマーティンは、この年からホンダのワークスPUを使えるわけだ。

　全てのリソースを、今から2026年マシンに割いた方が、将来的なメリットは大きいように見える。