ウエットコンディションでのレースとなった全日本ロードレース選手権第6戦岡山のJSB1000クラス。第5戦もてぎ前のプライベートテストで右足の腓骨を骨折し、手負いの状態で岡山のレースウイークに入った高橋巧(Team HRC)にとっては恵みの雨となったかと思われたが、そのウエット路面に苦戦。決勝レースを4位で終えた。レース中、歯車がかみ合わなかった理由は何だったのだろうか。同時に、現在関係者の間で噂されている2020年のスーパーバイク世界選手権(SBK)フル参戦の可能性についても聞いた。
右足の骨折が完治していない状態で岡山ラウンドに臨んだ高橋。レースウイーク前の公開テストでは1分28秒422で総合5番手につけていたが、このときは「結構痛かった」と本人は話していた。
SBK:高橋巧が第10戦ポルトガルに代役参戦。キャミアは第11戦フランスでの復帰を目指す
さらに高橋は、この岡山でのテスト後、SBKのポルトガルテストにレオン・キャミアの代役で参加。レースウイーク初日はSBKのピレリタイヤからJSB1000のブリヂストンタイヤへスイッチすることに専念していたが、天候に翻弄され、走り込めずにいた。
それでも予選日はしっかりと合わせこみ、YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行、野左根航汰や、ファクトリーマシンを手に入れた水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO.Honda)と同じく、1分27秒台に入れ、最終的に1分27秒708をマークし、4番グリッドを獲得した。
翌日の決勝日は雨予報が出ており、負傷中でかつ岡山国際サーキットを得意としない高橋にとっては願ってもないシチュエーションになっていた。予選を終えた高橋は「自分が望んでいた通りになっています。雨のほうが体の負担も少ないので。ウエットコンディションでは今年、みんな走っていないのでどうなるかわかりませんが、鈴鹿8耐の事前テストではウエットで2分17秒が出ていたので、悪くはありませんでした」とウエットでのレースに自信を覗かせつつ、「当然優勝目指して走りますし、そのなかで必要以上にリスクを負うつもりもありません。明日に向けて最善の策を考えます」とコメントした。
■差を生んだタイヤ選択とマシンキャラクターの違い
しかし迎えた決勝レースでは、ハイペースで周回する野左根と水野を追うことができず、高橋は中須賀と3番手争いを展開。レース後半戦では中須賀のペースについていくことができず、単独4位でフィニッシュした。
決勝を終え、高橋は「難しかったです」と次のようにレースを振り返る。
「雨が良かったのかもわかりません。体的には、ウエットはドライとは違う力の使い方をするので、当然辛いとこもありましたが、痛みはありませんでした」
「自分は上位3人とは違うフロントタイヤを使用しました。それでバランスが崩れたのかもしれません。選択したフロントタイヤは去年も使っていた実績のあるタイヤだったのですが、選択がうまく合わなかったのか、レースではその差が出たかもしれません。リヤも全然グリップしませんでした。もしかしたらドライのほうが良かったかもしれません」
「雨量が多ければトップ3人が下がってくると予想していたのですが、雨量が多い状態でも3人は普通に走っていたので、どちらにしても厳しかったです。岡山は全体的にグリップが悪く、後半のセクターが厳しかった。ヤマハ勢の走りを見るとスピードを乗せてタイトコーナーを曲がれていましたね」
高橋が語るように、岡山では前半セクターでホンダ勢が速さを見せ、後半セクターではヤマハ勢が速さを見せていた。高橋と同じファクトリーマシンを走らせた水野も「ホンダは前半のようにR(曲率)が大きかったり、高速コーナーのほうがパワーを生かしてスピードも残せたまま曲がれるのですが、後半のタイトコーナーではヤマハのほうに軍配が上がっているところがあるので、そこはメーカーの良し悪しがあると思います」とコメントしているように、岡山ではタイヤ選択に加え、ホンダ、ヤマハのマシンキャラクターの差も影響しているのかもしれない。
岡山で厳しい戦いを強いられた高橋だったが、チャンピオンシップでは182ポイントでトップを維持。161ポイントでランキング2番手につける中須賀との差は21ポイントと、その差を大きく詰められることなく、厳しい2戦を終えた。
「もてぎ、岡山をなんとか乗り切らないといけなかったので、最低限のことはできたかなと。岡山では中須賀選手が3位だったのが唯一の救いです。残り2戦のオートポリス、鈴鹿は悪くはないと思います」
■岡山を終えて2度目のSBKに挑戦する高橋
岡山のレースウイーク中、高橋がポルトガルテストに続き、第10戦ポルトガルにもキャミアの代役で参戦することが発表された。そのポルトガル戦は岡山を終えた翌週9月6日から開幕となる。
高橋のSBKスポット参戦は2017年以来2年ぶり。その時はポルトガルとスペイン(へレス)の2戦に出場した。今回の代役参戦も2年前と同じくポルトガルのポルティマオだ。
SBK代役参戦に至った経緯を高橋はこう話す。
「ポルトガルテストは、鈴鹿8耐の時にHRCの人にテストに行ってもらうかもしれないと言われていました。それがほぼ決まった時にもてぎで怪我をしてしまいました。その状態でテストに行ったほうがいいか迷いましたが、(SBKマシンに)乗るチャンスだったので、予定通り行く方向で準備をすると話しました」
「レースもレオン(・キャミア)の出場が厳しいかもしれないという話が出ていて、テストに行った時には、チームが自分がレースを出る前提の話をしていましたね。(SBKに)出れるなら出たいし、自分からしたらチャンスだと思ったので、出たいと話しました」
高橋にコメントによれば、SBK仕様のホンダCBR1000RR SP2は、全日本で履いているブリヂストンタイヤをベースとしており、ピレリタイヤとマシンのマッチングが決まっていない状況のようだ。ポルトガルでも高橋は厳しい戦いを強いられる可能性は高い。
そんな高橋だがポルトガルに向けては「CBRが全日本ではいい流れで来ていて、SBKでは苦戦している。(ポルトガルの代役参戦は)自分がSBKマシンに乗ったら、その原因がわかるんじゃないかという狙いもあると思います」と話す。
「(岡山と同じく)ポルティマオも苦手ですが、2年前はいきなりレースウイークだったの対し、今年はテストができているので、気は楽です。ブリヂストンでもピレリでもマシンには乗れているので悪くはないと思います」
「SBKの代役参戦は経験にはなると思うし、走らせ方を自分の知識として得られるのは大きい。甘い考えではいけませんが、最善を尽くします」
なお、全日本の現場では2020年に高橋がSBKにフル参戦するのではという噂がささやかれているが、このことについて高橋本人に確認したところ「何も話しがない」とのことだ。
チームを率いる宇川徹監督も高橋の来季SBKフル参戦について話は聞いてないと語るも「全日本でチャンピオンを獲って巧にはとっとと世界に行ってくれという気持ちは強いです。チャンピオンを獲れたら行きますよ」と高橋が世界で活躍することを願っている。
高橋の2020年SBKフル参戦は現実のものとなるのか。まずはSBKポルトガル戦を走り切り、全日本チャンピオンを奪還することが世界へ向けての一歩となるだろう。
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