世界最速最強の“ハコ車”レースとして知られるスーパーGT。中でもオーバーオールウィンを争うGT500クラスはトヨタと日産、ホンダ、3大メーカーが鎬を削る見応えのあるレースが展開されている。そのGT500クラスに今シーズンから参戦することになったのがNISSAN Z GT500。以前も先代モデルのZ33がGT500クラスに参戦していたことがあったが、当時とは車両規則が一新されていて、むしろ昨年まで参戦していたGT-Rとの共通性の高いレーシングマシンとなっている。
GT500クラスの車両は、カテゴリー的には『2022 SUPER GT GT500 Technical Regulation(GT500車両規則)』に則ったマシンということになるが、競技車両はカーボン製の共通モノコックにN・R・E(ニッポン・レース・エンジン)と呼ばれる、トヨタと日産、そしてホンダの3メーカーが共通の規定でそれぞれ開発した2リッター直4の直噴ターボエンジンを搭載しているから、大袈裟な言い方をすれば、ボディカウルを変えれば、トヨタのGR Supraが日産のGT-RにもホンダのNSXにでもなるというもの。だからNISSAN Z GT500は、乱暴な言い方になるのは百も承知だが、昨年までのNISSAN GT-R NISMO GT500のカウルを換えたもの、ということもできるだろう。
■【スーパーGT】直線スピード向上が期待される日産Z、テクニカルな岡山でも「ポテンシャルはある」とクインタレッリ&バゲット
その一方で、ベース車両のシルエットを活かしたボディカウルとすることが必須とされているが、唯一ボディ下半分はベースモデルのシルエットとは関係なく、空力を追求したカウルワークとすることが重要になってくる。空力開発はお金も人手も大層必要となってくるから、大体は3年クールで開発を凍結しようとされてきたが、日産がZ(のロードモデル)の新型を投入するタイミングで、スーパーGTにもZを投入したいとの意向がありそれに合わせてトヨタとホンダもボディ下半分のカウルを新たに開発して臨むことになったのが22年シーズンだ。と、ここまでの“あらすじ”を紹介したところで、本編に入っていこう。
昨年の12月に富士スピードウェイでお披露目されたZ GT500は、いかにもトップスピードが高く伸びそうなシルエットに映った。以前にも紹介した通り、フロント部分を、側面図的にも平面図的にも絞ったことで、空気抵抗の低減を徹底的に追求した感があった。実際のところ、お披露目会を終えた後の、富士でのプライベートテストではライバルよりも格段にトップスピードの高いことが証明されたようだ。
そもそも空気抵抗とダウンフォースはある意味トレードオフの関係があって、空気抵抗を下げるとダウンフォースも減ってきて、コーナリングが厳しくなる。反対にコーナリングスピードで稼ごうとしてダウンフォースを増やしていくと、空気抵抗が大きくなってストレートのトップスピード的には厳しくなる。もちろんそんなに単純な話ではないのだけれど、大まかに言えば、空気抵抗とダウンフォースにはそんな関係性があると思っていいだろう。
ところで、今シーズンからZにバトンを繋いだGT-Rも、富士スピードウェイを得意とするシーズンが続いていた。そこで他のサーキットでも優位に戦うために、よりダウンフォースを稼げるようにセットアップを施したことがあった。2020年のことだが、そうしたところコロナ感染拡大の影響もあって、全8戦のうち半数の4戦を富士で戦い、残る4戦は鈴鹿ともてぎで2戦ずつ、ということになった。GT-R勢にとっては思い出したくないシーズンとなり、NISMOのエースカーである23号車の松田次生/ロニー・クインタレッリ組が2勝を挙げたものの、それはともに鈴鹿で記録されており、4回あった富士では最終戦に3号車の平手晃平/千代勝正組が6位入賞したのがベストリザルトだった。もちろん他の多くの要因もあったと思うが、空力の影響は計り知れないだろう。
さて、そんなNISSAN Z GT500だが、先週末に岡山国際サーキットで行なわれた公式テストで、初めてライバルと相まみえることになった。もっとも、3メーカーの15チームが、それぞれに用意したテストメニューを消化していたから、タイムさえもあてにできない部分はあるが、初日にトップからコンマ5秒余りのタイム差で9番手に留まった日産のエース、松田は「Zになってカウルとエアロが一新されていて富士のテストではドラッグが低下していることは実感できたのですが、その分ダウンフォースも減少しているはずで、そのバランスをどうとるかが重要になると思っています」とセットアップの方向を示しながらも「鈴鹿のテストでは(ダウンフォースも確認できて)フィーリングも悪くなかったので、これからどんどん伸ばしていこうと思っています」と手応えも充分な様子だった。
富士のお披露目ではライバルとの比較もできず、ノーズが絞られている印象のみが強かった。しかしこの日はスタート練習の際に23号車の脇を36号車au TOM'S GR Supraがすり抜けてポールポジションへと移動するシーンがあったが、こうして見比べるとZ GT500の低さがいっそう強調されて見えた。レギュレーションでも高さ(車高)の制限があり、実際に昨年もGR SupraとGT-R、NSXは3車とも3サイズが同じだったほどで、また共通モノコックのロールケージもあるから無制限に低くできるはずもないだろう。現時点では3車の車高も発表されていないのだが、ほぼ同程度となることは明らか。それでも岡山でZが低く見えたのは、たぶんサイド面の傾斜によるところが大きかったのだと思う。サイド面の傾斜を寝かせることで、空気抵抗は一層小さくなる。そう考えていくと、Z GT500の佇まいが、いっそう獰猛なものに思えてくる。果たしてその活躍やいかに。
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