クラスで唯一ベースモデルの変更や再スケーリングの適用なく、今季もスーパーGT GT500クラスでGRスープラを走らせるトヨタ陣営だが、2020年のデビュー以降そのキャラクターや車両特性は2年単位での変遷を繰り返してきた。
初年度から2年間はドア開口下部に位置する“ラテラルダクト”に一切の空力付加物を持たず、車両前傾姿勢で運動性能の最適解を見い出すレイクアングルを活用。とくにホームコースである富士スピードウェイでは他を圧倒する最高速を誇る“直線番長”の特性を見せていた。
スーパーGT第3戦鈴鹿の走行スタート。晴天の公式練習は16号車ARTA MUGENシビックが最速
続く2022年にはライバルとの相対的な戦力差を踏まえ、再登録が許された開発凍結部分を改良してダウンフォース(DF)獲得方向へ舵を切り、その“ラテラルダクト”にはフェンスやフィン類を追加。それに伴い前傾姿勢は和らぐ方向に。
そうした積み重ねを経て登場した2024年モデルの“キャラ変”度は、ふたたび開発可能部位の改良が施されたボディ外板を含め、開発陣が「ほぼ新車」と表現するほどドラスティックな内容となり、競合他車と同じくシングルスロットルを適用したエンジンを筆頭に、補器類の再考やダクト類の最適化など、フロント側だけで「フタ桁kg」という驚異的な軽量化を達成。それにより向上した車両運動性能の恩恵もあり、オフテストの期間から各トラックで速さを披露して来た。
そんな前評判どおり、シーズン開幕戦の岡山国際サーキットではチャンピオンの36号車au TOM’S GR Supraが完勝。例年、得意としてきたテクニカルコースだけに幸先の良いスタートを切ったが、続く第2戦の富士では性能面でトレードオフとなった最高速のビハインドにより、惜しくも表彰台を逃す展開となっていた。
「岡山に関してはこれまでの流れのとおりで。ある程度、小さいサーキットでテクニカルな特性、その点でこれまで課題としていたアンダーステア等が消せて、パフォーマンスとして発揮できた」と振り返るのは、GRスープラの車体開発を統括するTCD/TRDの池谷悠氏だ。その一方で、続く第2戦富士ではこれまでとは異なる戦況にも直面した。
「富士はオフの頃から少し懸念というか、様相は見えていました。最高速の面で少しビハインドがある、そこが改めて如実になったかなと。レースでのドライバーさんからの打ち上げ(フィードバック)を含めても、やはり抜き“づらい”状況がどうしても生まれている。その点を課題として捉えてはいます」
それでもコカ・コーラ(Aコーナー)コーナーや続く100Rなどの高速区間は「2023年と比較してレベルアップしているという確認は取れている」とコーナリング性能に手応えを得ている。さらに土曜の公式練習や予選で抱えた最高速のビハインドも、日曜の3時間決勝では相対的な差を詰めていたようにも見受けられた。しかしそれも、車体側での運動性能向上によるブレーキングゾーンでの安定性向上が、スピードトラップの計時上「そう見せている」側面もあったという。
「一概にスピードトラップの速さだけでは言えるものではなく。ドライバーの感覚としては加速していくところでどうしても追いつけない。(ブレーキングスタビリティ向上により)飛び込めるところまでは行けるので、スピードトラップの数字を見たら最高速が出ているように見えますが、レースを『戦う』という意味だと、ストレートの途中でついていけてるかどうかで『抜ける抜けない』は決まってくる。そこはちょっと苦戦しています」
そうした2024年型の特性を踏まえたうえで、今回の第3戦鈴鹿サーキットはTOYOTA GAZOO Racing陣営にとって“獲りたい”ラウンドとなる。
■他社に負けていた部分を改善
「我々のスープラとブリヂストンのパッケージだと、どうしても(鈴鹿の)セクター1、セクター2で他に対してかなり負けているところがあり。それもひとえに中低速コーナーのアンダーステアあたりから来ていたものかなと思っています」
この鈴鹿における前半セクションは同車にとって最大の開発目標だったと言って過言でなく、これまでは『曲げ切れなさ』によりライバルに遅れを取る場面が「多々あった」と分析する。しかしこのオフで最後のメーカー主催テストとなった3月初旬の鈴鹿では、この2024年型GRスープラが2日間合計4つのセッションで首位を独占している。
「オフに関しては、みなさんがどこまで一生懸命走られていたかはわからないですが、今までみたいにそこ(前半区間)でコンマ5秒離される……ようなことはなかったかなと(笑)。ターゲットにして開発をしてきた内容としては、そこがうまく他メーカーに対して追いつけ追い越せと。そうなっていたら御の字というか、狙いどおりにはなります」と池谷氏。
「そこでキチンと(アドバンテージを)取らないと、後半のバックストレートとか、最高速でのビハインドも出てきてしまうかと思います。そこでなるべく稼ぎながら、後半セクションでも置いていかれないようにまとめていく必要があります」
曲がりやすくなりつつ、トータルで見た安定性も確保した2024年型GRスープラは、転舵が続くセクションの速さを増したうえに、鈴鹿ではこれまで1コーナーで見受けられたバウンシングの症状も改善。フロント側の軽量化と今季導入の“車高実質5mmアップ”の規約と合わせて解消方向となった。そんな陣営内にあって、優勝候補筆頭に挙げられるのが14号車ENEOS X PRIME GR Supraだろう。
かつては2年連続で開幕連覇を達成し、ここ鈴鹿へはサクセスウエイト(SW)を満載した状況で臨んでいた14号車ENEOSだが、今季は開幕2戦をアクシデントやトラブルで落とした結果、搭載するSWは6kgと例年とは違う状況で戦うことになる。それでも、車両を預かる阿部和也チーフエンジニアは「余裕で勝てる感じではないし、それほど甘くはない」と改めて気を引き締める。
「ここまでの開幕2戦、まともにレースができていないので、まずは普通にレースがしたい」と続けた阿部エンジニア。
「前回もあんなところ(タイヤ交換により最後尾)からスタートした割にはペースも悪くなかったし、開幕戦もきちんと戦えていれば表彰台争いには絡めていた。なので勝負ができる輪のなかにはいるけれど、今回で言えば8号車や16号車(ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT)もウエイトは軽い。(燃料リストリクターの)1ランクダウン組はさすがにキツいかなと思いつつ、レースでは3号車(Niterra MOTUL Z)や(陣営内の)36号車も淡々と上がってくる。そう考えると……」
前述の鈴鹿オフテストでは、今季新加入の福住仁嶺が2日目午前のセッション3で最速をマークするなど、2024年型モデルの特性をいち早く引き出した阿部エンジニアだが、開発陣の成果を讃えつつ、ここ鈴鹿の決勝に向けては慎重な見通しを崩さない。
「個人的にこのGTで鈴鹿が速いかと言われると、スープラが全般的に苦戦している傾向はあった。でも開発陣が作ったクルマのコンセプトに『鈴鹿をなんとかしたい』という気持ちがあったんだと思う。それがいい方向に行ったのと、それをウチと36号車がうまく転がせていた部分はあった」と阿部エンジニア。
「正直、今年は悪くない。入りから今季のコンセプトのスープラにうまく合わせられたと思うし、そこからあまり変えないでもいろいろなサーキットで走れている」
「ただちょっと難しいのが予選日の天気と日曜決勝の天気が微妙になってきていて、どちらに重きを置いてタイヤを選ぶか……というのが出てきてしまう。そこはちゃんと評価しないと……とは思っています」
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