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事故調査員に聞く事故の原因 時代とともに状況変化 問題は携帯の使用

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事故調査員に聞く事故の原因 時代とともに状況変化 問題は携帯の使用

もくじ

ー 映像が頼り 守るべきは交通弱者
ー 事故原因も変化 問題は携帯電話
ー エアバッグは宝の山 余裕が大切
ー 番外編:事故現場はどこだ?

英 今年中に完全自律運転車の走行許可か 安全基準で世界リードねらう

映像が頼り 守るべきは交通弱者

「昔は、証拠になる小さなかけらも見逃すまいと地面に這いつくばってばかりいました」と語るゲーリー・ボールドウィンは、ロンドンの西、オックスフォード周辺を管轄とするテームズバレー警察の科学事故調査部門で勤続30年のベテランだ。

だが、彼はこうも付け加える。「でも、いまではそんな真似をすることはほとんどありません」

ゲーリーが事故調査にかかわり始めた1988年頃は、路面に残ったタイヤ痕が「事故原因特定のカギ」だったが、それもABSの普及によって過去のものとなり、いまでは、その仕事の中心は、監視カメラとドライブレコーダーがとらえた事故の瞬間映像の分析だ。

「完全に取って代わられました」と彼は続ける。「はじめは街中や高速道路に設置してある監視カメラが頼りでしたが、ドライブレコーダーの重要性がどんどん増しています。つねに事故の全貌をとらえているわけではありませんが、それでも非常に重要な役割を果たしていることは間違いありません」


ゲーリーはもう警察からは引退したが、今なお9人で構成された調査隊のまとめ役を務めている。調査対象となる事故は「クルマが関係した死亡事故すべてです。ジャッキがはずれ、その下敷きになったとか、高速道路の多重衝突事故などです」というように、関わり合いたくない類のものばかりだ。

1980年代、英国の交通事故死亡者数は年間5000名に達していた。いまでは2000名以下にまで減少したものの、事故の悲惨さについては「変わりがありません」とゲーリーは話す。

「キャビンで守られていない被害者が問題です。歩行者、自転車、それにオートバイといった、いわゆる交通弱者と呼ばれるひとびとです」

いまだに、交差点での大型車による巻き込みの危険性について知らないまま自転車に乗るひともいるという。つまり、斜め後ろを走る自転車が、トラックからどれほど見えにくいかを、まるで理解していないということだ。

事故原因も変化 問題は携帯電話

事故の原因そのものも大きく変化している。薬物使用下での運転は、飲酒運転の新たな類型と言え、自動車自体の欠陥が問題ではなくなった一方で、高齢者によるペダルの踏み間違い事故が増加している。「高齢ドライバーによる事故を取り扱うケースが非常に増えています」とゲーリーは話す。

そして、ゲーリーもその影響の大きさを認める、携帯電話使用の問題がある。ここでカギとなるのは「注意力の欠如」だ。

「携帯電話の普及期においては、通話しながらの運転が問題の中心でした」とゲーリーは思い返いている。だが、「いまはメールしたり、SNSに投稿しながら運転するドライバーが大きな問題です」と言う。

ゲーリーの調査隊は、事故現場に到着するとまず当然のごとく携帯電話を押収するが、「事故発生時点で携帯電話を使用中だったかどうか、常に明らかになるとは限りません」とも話す。


「かならず利用履歴が残るアプリばかりではありませんが、メールやワッツアップ(インスタントメッセンジャーアプリ)なら送信日時の確認が可能です。いちばん酷かったのは、故障車に追突する直前まで20件もメッセージを送っていた女性ドライバーですね。それも、前の晩に見たドラマの話題ばかりです。何を考えていたのか理解出来ません」

「結局、交通隊でも取り締まりは不可能です」ともゲーリーは言う。この問題に対して、彼は意外なほど現実的で、法律を厳しくするよりも、携帯電話の操作を運転中も安全に行えるようにするのがもっとも効果的だと考えている。

それは強盗やドラッグを合法化するようなものかも知れないが、メッセージの自動読み上げはすでに実用化されており、それがさまざまな形で使えるようになれば、事態も改善に向かうのではないかという。

「もはや携帯電話を手放すことなど不可能なのですから、せめてリスクを減らす方法を考えるべきです。ハンズフリーにするとともに、もっとも大切なのは、携帯電話の画面ではなく、きちんと前を見て運転するようドライバーに仕向けることです」と話すゲーリーは、なかばこの状況を受け入れているようにも見える。

エアバッグは宝の山 余裕が大切

さらに、最近の技術の進歩によって、もうひとつ、事故解析に大いに役立つ、まるで宝箱のような情報が得られるようにもなっている。だが、まことに腹立たしいことに、ゲーリーたちがつねにその情報にたどり着けるわけではないという。

その宝の箱とは、いまやほとんどクルマが装備しているエアバッグのECUだ。このECUは非常に高感度な衝突検知装置として機能しており、車速や、旋回時の角加速度などをつねに監視し、そのデータを記録している。

米国では法律で、ゲーリーのような事故調査担当者にも、こうしたデータへのアクセス権が認められているが、英国にそうした制度はない。

「エアバッグのECUから得られるデータは、事故の原因究明に非常に有用です。なにしろ衝突の5秒前から数秒後までの情報が詰まっているのです」とゲーリーは残念そうに話す。


ゲーリーは、トヨタやボルボといった、ECUのデータを確認するためのパスワードを開示しているメーカーがある一方で、開示を行っていないところのあるという。「そんなものは存在しないとまで言うメーカーもありますが、実際にはデータは存在しているはずです」

ゲーリーは一例として、自動車とオートバイの双方で死傷者が発生した衝突事故の記録を見せてくれた。事故直前におけるクルマの正確な速度と減速度合、それにステアリングへの入力とオートバイに衝突した際の衝撃値まで、10分の1秒単位で確認することができた。これこそ、まさにゲーリーが欲しているデータだが、多くの場合、このデータを入手することは出来ないのだ。

数年前、EU全体でこうしたデータの提供を義務付ける動きがあったことをゲーリーに話すと、「そうした動きがあったのかも知れませんが、寡聞にして知りません。自動車メーカーの政治力は侮れません。データの提供を阻止しようという圧力があるのかも知れませんが、その理由がわたしには理解できません」

大変な仕事だが、現代の路上はかつてなく安全になっているとゲーリーは強調する。新しい技術の恩恵は大きいが、世の中も変化しているという。

「すべてのドライバーが安全性評価のNCAPで5つ星を獲得したクルマに乗りたいと思っています。安全性がクルマの重要なセールスポイントになっています」

そう、たしかにその通りだ。だから、せめて運転中くらいは心に余裕を持つことにして、携帯電話はそっとしておこう。

番外編:事故現場はどこだ?

取材中、M1号線上で衝突事故発生との無線連絡が入った。死者が出ている可能性があるという。

応答したゲーリーは、われわれに「一緒に見にきませんか」と声をかけてきた。事故現場に記者とカメラマンを引き連れて行こうとは、あまりにも大胆ではないかと思ったが、その後、事故現場が管轄外のノーサンプトンシャーだと判明したことで、ある意味事なきを得た。

この無線でのやりとりを聞いて、べつの技術的問題が浮き彫りになった。すなわち、交通警察が事故の発生地点をなかなか特定できないことだ。


現場に居合わせた人物が高速道路に設置された非常電話で場所をくわしく伝えてくれたのは、もはや昔の話だ。

いまは緊急通報も個人の携帯電話からが大半であり、ナビゲーション頼みで現在地すらわからずにクルマを走らせているドライバーも多い。

ゲーリーも「いまどちらの方角に向かっているのか、どのインターチェンジの間にいるのか、何号線を走っているのかも、約半数のドライバーは理解していません」とあきれた様子だ。

そもそも、緊急事態の際は、道路脇に設置された位置表示板(いわゆる「キロポスト」に、道路番号や上下線などの識別情報を加えたもの)をもとに、場所を伝えることになっているのだが、実際のところどうなのだろう?

ゲーリーの答えは明快だった。「存在すらまるで知られていません。その結果、事故現場を探してこちらが右往左往するハメになり、一刻を争うようなケースでは、どんどん時間ばかりが経過してしまうんです」

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