ラリー関係者に話を聞くと、「競技中にホイールのボルトを締め直すと、明らかにそれだけで走りがシャキッとする」といった話で盛り上がっていた。実際にそれが真実なのかどうか、プロドライバーのハル中田氏に分析してもらった。
文/ハル中田、写真/AdobeStock(トビラ写真:Daniel Jedzura@AdobeStock)
果たして真偽のほどは!? なぜホイールの「ボルト」を増し締めするだけでクルマの走りはシャキッとするのか?
■温間でボルト増し締めはNG!
「ラリー競技中にホイールのナットを締め直すと明らかにそれだけで走りがシャキッとする」ってホントなのか?(Artur Shevel@AdobeStock)
ほほう、「ラリー競技中にホイールのナットを締め直すと明らかにそれだけで走りがシャキッとする」……ですか。これまた深淵を覗くような話になってきましたね。
モータースポーツのカテゴリーチャンプやサス開発の現場経験から言うなれば、「条件によっては確実に起こる話」でYES!! です。
今回は「なんで?」とともに、タイヤホイールを車両に固定するボルト&ナットの四方山話をお送り致しましょう。
……とその前に。本件はラリー競技などのクローズドな環境だからこそ問題ない話です。特に温間で強く締め込むとハブボルトやナットの破損の恐れがあり、非常に危険です。
公道を走る一般車は基本的に「冷間時に規定トルクで締める」よう徹底ください。緩過ぎも締め過ぎもどっちもダメ! 安全のためにコレはマスト!!
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■そもそもハブナットを締める理由とは?
なぜハブナットを締めるのか、その理由は……(Apicha@AdobeStock)
さてところで、なぜタイヤホイールの固定にハブナットを締めるのでしょうか? 「当たり前だろ」と思いつつ、ちゃんと答えられる人は少ないのではないでしょうか?
大事なのはネジのトルクそのものではなく「ボルト軸力・締結力を適正値にすること」です。つまり、「ホイールとハブフランジを適正な力で固定すること」が目的。
そして締め込むことでホイール側の受け座面とナットとの間で強い摩擦を発生させることで「緩み止め」の効果も出てきます。「ナットをトルクで締めるのはそれらをコントロールする手段」なのです。
ここが結構大事で、「とりあえずナットを締めとけばいいんだろ」は非常に危険なのです。自分が遭遇してきたかぎり、いろいろなやり方でナットを締める方がいらっしゃいます。
とりあえず力いっぱい親の仇のように締めたり、潤滑油を吹いて規定トルクに締め込んだり、サーキット走行後にチンチンに熱くなってる状態でもグイグイ締め込んだり……。
これすべて、「軸力過大でボルト折れや伸び、ネジ山潰れ」などに繋がり、いずれも最悪は車輪脱落に。ダメ、絶対。
トルクはトルクレンチで管理! 潤滑油をネジに吹くのはダメ、使うならモリブデンコート! 熱いと金属が柔らかくなっているのでナメる危険性あり! なのです。これらはぜひ覚えておいていただきたい。
■ナットを締めると路面入力とタイヤ入力がダイレクトにドライバーに直結する!
ホイールとハブフランジがより剛結することで、路面入力やタイヤ入力がダイレクトにサスペンションやステアリング機構を通ってドライバーに伝わると筆者は指摘する(BillionPhotos.com@AdobeStock)
ここを抑えたうえで、改めて冒頭の「競技中にナットを締め直すと走りがシャキっとする」のはなぜでしょうか?
平たく言うと、ホイールとハブフランジがより剛結することで、路面入力やタイヤ入力がダイレクトにサスペンションやステアリング機構を通ってドライバーに伝わるからです。
通常、ホイールはボルト・ナットを介して車体にガッシリ装着されているように見えますが、走行時は荷重や路面入力によりボルトはミクロに伸びたり曲がったりしており、ホイールがハブに対してグイングイン動いているのです。そこで振動(力)の伝達が逃げてしまうのです。
より多く逃げている状況だと、「フワフワする、手応えが軽い、ダイレクト感がない」というようなフィーリングに。一方、逃げが少ないと「ガッチリする、手応えが重い、ダイレクト感が高い」という状態になります。
しかし、デメリットとして細かい「ビリビリ」「ガツガツ」した乗り心地を悪くするような振動も多めになります。
フィーリングとしてはそれなりに大きく変わるのですが、実際は超ミクロな世界の話なので物理的なタイムや速さに直結する話ではありません。厳密に言うとアライメントが微小に動く影響で変わるのですが、タイヤのタレなどほかの誤差に埋もれるレベルです。
■大きいのはフィーリング面への影響
サーキットはもとより、ラリーのような競技の場合はタイムアップにつながる要素もあると筆者は指摘する(和久 澤田@AdobeStock)
それよりもフィーリングへの影響が大きく、「タイヤグリップや路面状況がよくわかってギリギリまで攻められる!」ので、特にラリーのような不確定要素の大きい競技では結果的にタイムに繋がることはあります。
競技走行中は主としてブレーキを多用することにより、ボルトもナットも熱膨張するため、結果的に締結トルクが低下してこの剛結度合いも低下します。そこで競技中に締め直すとシャキッとするのです。
しかし、繰り返しますが、「締め過ぎは破損の元」です。「熱膨張し緩くなったからさらに締める」のは、言い方を変えると「冷間時には締め過ぎ」状態。サーキットなどで自己責任において実験するのは結構ですが、ボルト・ナットの破損による車輪脱落事故と紙一重ですので充分に気をつけてください。あくまでも基本は「冷間時に規定トルク」です。
■なぜドイツ車はステアリングフィールがいいのか?
ドイツ車の走りには背景でハブボルトの存在が関係している?(Brandon Woishins@AdobeStock)
そのなかでもいくつかポイントを紹介しましょう。
通常のアルミナットの場合はナットが先にナメます。粗悪品の場合はむしろ規定トルクでも破損したりします。鍛造アルミナットの場合は強度がピンキリ。ナットが先にナメたり、場合によってはボルト側が破損したりします。
ハブナットの指定トルクはメーカーや車種によっても異なるので正確には愛車の取扱説明書を参照していただきたいのですが、一般的にはM12×1.5のトヨタ・ホンダ・マツダ車は100~110Nmほど。M12×1.25のニッサン・スバル・スズキ車 は80~100Nmが一般的。GR86は例外的に120Nm。
最近は重量化や高出力化に伴い、M12からM14へと太くなり、高締め付けトルクの車両も増えてきました。シビックタイプRは127Nm。新型アル/ヴェルやMIRAIは140Nmですが、クラウンは従来の103Nmだったりしてマチマチ。よりパフォーマンス重視のレクサス系に至っては同じM14でも欧州車と同じくハブボルト型に変わってきています。
そう、従来の日本車に多いスタッドボルト×ハブナットか、ドイツ車で一般的なハブボルトかでも、ホイール支持剛性が変わるのでフィーリングも大きく異なるのです。昔からドイツ車はステアリングフィールがいいと言われる理由のひとつがこれ。
素材でも大きく代わります。日本車で一般的なスタッドボルトは柔らかい素材ですが、ドイツなどで一般的なハブボルトは恐らく高炭素鋼かクロモリ鋼(すみません、当方素材については詳しくなくて……)。
トルクレンチで作業すればわかりますが「グニューコチン」となる日本車の締め心地に対してドイツ車の締め心地は「グッカチン!」。手応えや音からもまったく硬度が違うのがわかります。さらに高炭素鋼やクロモリ鋼は通常の鉄よりも熱膨張率が低いので熱が入ってもフィーリングが変わりづらいと、まさにいいことづくめ。
■レーシング用の素材に交換するのも有効
走りをシャッキリさせたいなら、高炭素鋼やクロモリ鋼などのよりレーシング用途に近い素材のボルト・ナットに交換するのも有効だと筆者は指摘(Chitsanupong@AdobeStock)
このように走りをシャッキリさせたいなら、高炭素鋼やクロモリ鋼などのよりレーシング用途に近い素材のボルト・ナットに交換するのも有効です。もちろん、価格は高くなりますが、フィーリングの向上は目を見張るものがあります。
ほかにもハブナット形状やホイール側フランジ座面形状の違いなどもフィーリングに大きく影響を及ぼしますし、トルクを高めすぎるとホイールフランジ面が変形して逆にハブフランジとの結合が悪くなるケースまで。さすがにそこまで踏み込むと脱線し過ぎるので今回はやめておきましょう。
「ラリー競技中にホイールのナットを締め直すと明らかにそれだけで走りがシャキッとする」という不思議、なんとなくわかりましたでしょうか? ちょっとしたことでもその裏にはいろいろな理由とメカニズムと注意事項がある。これだからクルマは面白いですね。
あなたの愛車もちょっと気をつけるだけでフィーリングが大きく変わりますからぜひ楽しんでみてください。
それでは皆さん、いいカーライフを!!
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みんなのコメント
緩まなければ増ししめは不要。通常点検でナットの締め付けトルクの確認だけ。
モータースポーツの話とは別。