新しくなったシャシー、運用自由度が高まったオーバーテイクシステム(OTS)、格差の大きな2スペックタイヤ、そして多くのルーキードライバー。2019年のスーパーフォーミュラはレースを大きく「動かす」要素が例年以上に増え、それもあり開幕2戦は非常に劇的な展開となった。
第1戦鈴鹿は予選12番手のニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)が、第2戦オートポリスは16番グリッドからスタートした関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)が優勝した。彼らには卓越した速さがあり、レースマネージメントも抜群だった。表彰台の中央に立つにふさわしい、素晴らしいレースを戦ったことは間違いない。
山本尚貴「レース展開にも恵まれ、移籍後の完璧な初優勝を嬉しく思う」/スーパーフォーミュラ第3戦決勝トップ3会見
しかし、その一方で戦略的な駆け引きや、セーフティカーのタイミングが展開に大きな影響を及ぼし、個々の選手の真の速さが結果に現れにくいレースだったことも否めない。また、本来はピュアスピードの象徴であるべき予選の順位があまり大きな意味を持たず、それもあってややスッキリしない内容だった。
しかし、第3戦SUGOに関しては「本当に速いドライバーが勝つ」という、実にシンプルかつ納得の内容のレースだった。シーズン初優勝を飾った山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)は金曜日の走り始めから速く、予選でもそのパフォーマンスを存分に発揮。変則的な2グループ制で行なわれたQ1をB組トップで通過した。
そして、続くQ2では1分3秒953を記録。昨年の予選で野尻智紀が刻んだ1分4秒694というコースレコードを、一気に塗り替えた。
Q3に関しては路面がやや湿っていたが、それでも山本は1分4秒532をマークした。TCS NAKAJIMA RACINGの2台が相次いでSPコーナーでクラッシュし多くの選手がアタックをできないまま赤旗終了となり、山本が今季初のポールポジションを獲得。そのQ3の走りももちろん素晴らしかったが、白眉はやはり1分3秒台に入ったQ2でのアタックである。
オンボードカメラは山本の驚異的なドライビングを記録していた。特に強烈だったのは、高速の3コーナーと最終コーナーの走り。映像で確認する限り、アクセル全開で駆け抜けているように見えた。
「3コーナーに関しては、少しアクセルを緩めました。その量は他の選手よりも少なかったかもしれないし、多分全開で行くこともできたと思います。全開でもハンドルを多く切っていけば、抵抗でスピードが落ちるので」と山本。
しかし、最終コーナーについては「アクセル全開でした」と、予選終了直後に語っていた。それは、SF14では不可能だった未踏の領域。スーパーフォーミュラの歴史に、また新たなる1ページが刻まれた。
SF14からSF19へと進化するなかで、エアロダイナミクスはさらに洗練された。しかし、最終コーナー全開を実現したのは「空力よりもタイヤが変わったことが大きかったのではないか」と山本を担当するダンディライアンの杉崎公俊エンジニアは分析する。
今季より前輪の幅が20mm拡がり、フロントのグリップ力が上がった。杉崎エンジニアによれば、これまでは前輪のキャパシティ不足をエアロで補っていたという。しかし、前輪が太くなりメカニカルグリップが向上したため、そのぶんエアロバランスをリヤに寄せることが可能となった。
結果、トータルでのダウンフォースが増え、特に高速コーナーでクルマの安定性が大きく向上。それが最終コーナーでのアクセル全開と、1分3秒台というタイムを可能にした要因である。
もしもQ3直前に雨が降らなかったら「1分3秒5くらい出ていたかもしれないですね」と、杉崎エンジニアは予想する。それほど山本のクルマは決まっていたのだ。
昨年までの無限時代、山本はとにかくフロントの入りを重視し、どちらかというとオーバー傾向のセッティングを好むと考えられていた。しかし、今季より山本と組んだ杉崎エンジニアは「山本選手とクルマを作っていく過程で、決してそうではないと分かりました」という。
「フロントが欲しいのは皆一緒ですが、そうするとどうしてもリヤがなくなりやすい。しかし、山本選手は多少リヤがなくても乗れてしまうため、オーバーを好むと考えられていたのです。ウチのクルマはどちらかというとリヤを安定させる方向だったので、最初は『どアンダーで乗れない』と言われると覚悟していたのですが、意外とそうでもなかった」
つまり、ダンディライアン車の美点であるリヤの安定性を保った上で、山本が重視するフロントの入りを確保したセッティングを導き出したことが、好調の理由のひとつであるといえる。改めてオンボード映像を見ると、ナチュラルなターンインと、修正舵の少なさが非常に印象的である。
しかし、優勝後改めて山本にQ2の話しを聞くと「最終コーナーは、実は全開ではありませんでした」と述べた。本人は全開のつもりだったが、後でデータを確認したところわずかながらスロットルが戻っていたようだ。
「ロガーを見たら少し右足が緩んでいました。最終コーナーは尋常ではないGがかかり、首もきついけど足も動いてしまう。ハンドルを切りながら耐えていたつもりでしたが、右足が浮き上がってしまっていたようです。そうならないように足を突っ張ると、どうしても体が固くなりコントロールし辛くなる。体を鍛えるのか、技術を磨くのか、来年以降の課題ですね」
エスケープゾーンが少ない最終コーナーで、アクセルペダルから足が浮くほどの高G。スーパーフォーミュラは異次元の速度域に入りつつあるといえるが、それについて山本は率直な意見を口にした。
「コースのレイアウトや環境に対して、もしかしたら今のクルマは速すぎるのかもしれない。今回はみんなコース上に留まることができたし、最終コーナーでのクラッシュもなかったけれど、このスピード域で戦うということを、もう1回考え直した方がいいかもしれないですね」
1分3秒953というタイムは単なる数字の並びではなく、このレースが異常な領域に入りつつあることを啓示する、警戒標識的な意味も含んでいるのかもしれない。
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