プジョー・スポールの技術責任者であるオリビエ・ジャンソニによれば、アップデートされたル・マン・ハイパーカー『プジョー9X8』の導入は、WEC世界耐久選手権における“BoP(性能調整)への依存”を終わらせることを目的にしている、という。
■カタールで追い込まれていたBoP上の“窮地”
プジョー9X8のデザイン言語を残しつつカウル形状は9割以上変化。重量配分の変更は信頼性向上に貢献
3月25日に公開された改良版の9X8には、大幅に改訂された空力コンセプトの一環として、これまで備わっていなかったリヤウイングが採用されている。この車両は4月にイタリアのイモラ・サーキットで行われる2024年第2戦でレースデビューを飾る。
プジョーは2022年シーズン途中にデビューさせたオリジナル型マシンに『ウイングレス』という画期的なコンセプトを採用したが、安定した成績を得ることに苦労した。2023年のモンツァ戦ではこれまでのところ唯一の表彰台を獲得しているが、これらの特定のサーキットでのみ、好走を見せる傾向にある。
このオリジナル仕様の9X8がもっとも高いパフォーマンスを示したのは、カタールで3月上旬に行われた2024年開幕戦だった。この仕様での最後のレースでは、ジャン・エリック・ベルニュ/ニコ・ミューラー/ミケル・イェンセン組が2位フィニッシュ目前に迫っていたが、残りわずかのところでガス欠が原因とみられるトラブルによりスローダウンを喫していた。
ジャンソニは開幕戦でのパフォーマンスについて、プジョーがルサイル・インターナショナル・サーキットにおけるハイパーカーのBoPに基づき、全9車種のなかでもっとも軽い最低重量930kg、同じくもっとも高い最高出力520kWで走行していたこと、そして低速コーナーが少なく、路面がスムーズなコース特性が、9X8にもよく合っていたことを指摘している。
「クルマを変更するという決定の主な要因は、BoPにあまり依存せず、クルマのコンセプトの点でライバルにはるかに近づく何かをするためだった。そうすれば、BoPの状況に関係なく、パフォーマンスの基準に達することができる」とジャンソニはSportscar365を含む一部のメディアに語った。
「以前の(ウイングレス)コンセプトにおいてもバランスをとることは可能だといまでも考えているが、残念ながら2023年にはそれは実現されなかった。そして、我々はBoPへの依存を取り除きたかった。特定のトラックレイアウトや特定のコンディション、そして特定の天気に依存しないようにするのと同じことだ」
「我々はクルマをより“平均的な”ウインドウへと戻し、よりライバルに近づけたかったし、カタールのときのように最小のウエイトと最大のパワーという“窮地”にまで追い込まれないように、クルマの全体的なパフォーマンスを向上させたかったのだ」
「多くのライバルがパフォーマンスを追求する中、このカテゴリーのペースは速くなることが予想される。我々はそれに備える必要があり、今後数年間に向けて自分たちに可能性を与えなければならない」
■「大きな弱点」低速コーナー克服へ
9X8を刷新する決定の中心となったのは、車両の設計時には当初前後ともに31cm幅のタイヤとされていた規定が、フロント29cm/リヤ34cmという新たなタイヤ寸法のオプションを認めるという、WECのルール作成者により下された決定であった。
ジャンソニは、プジョーが31cm幅のタイヤを履くことで不利になることは分かっていたが、当初はBoPがこれを補ってくれるだろうと考えていたと述べている。
「当時、この違いを評価するために必要なデータはミシュランのシミュレーション・モデルだけだった」と彼は説明した。
「我々の側では、テストをしていなかった。ふたつのタイヤの寸法を適切に比較していなかったんだ」
「我々は 29/34 に利点があることを認識していたが、明らかにそれを過小評価していた。そのシミュレーション・モデルは、我々が最初にトラック上でテストを自分たちで行ったときに見つかったものよりも、ギャップがはるかに近いことを教えてくれていたんだ」
「最終的に我々の答えは、タイヤサイズが(ライバルと)同じではなくとも、賢いBoPを使用してマシンのバランスをとることは可能、というものだった。そして今年のカタールで起きたことを見れば、BoPと相まって既存の(ウイングレス)マシンとのバランスを取る解決策は見出すことができたと分かるだろう」
「2023年に何が起こったかを見ると、主にタイヤの寸法の問題が原因で、低速トラクション(ゾーン)のあるすべての場所で、シーズンのほとんどで苦労した。これは明らかに我々の大きな弱点だった」
「2023年3月にこの新しいクルマを開発するという決断を下したときのことをいま振り返ると、我々が陥っていたこの罠から抜け出す唯一の方法は、ライバルと同じタイヤ寸法を使用することであることは明らかだった。BoP上でのポジションは、彼らと似ている」
ジャンソニは、プジョーはカタールでのパフォーマンスに関して、ウイングレス・コンセプトのマシンから「考えられるすべて」を引き出すことができた結果、好調な成績を収めることができたが、オリジナルの9X8を使い続けるのは正しいことではなかったと付け加えた。
「我々の感覚では、ほとんどのトラックでそれ(好成績を収めること)が可能であると考えているが、残念ながらそれは決して分からない」とジャンソニー。
「疑問なのは、カタールで起こったことを他のサーキットでも再現できるかどうかだ」
「もしかしたらそうかもしれないが、それができる確約はない。繰り返しになるが、我々はBoPに大きく依存しており、これまでのところあまり成功していないのだから、それ(ウイングレス・コンセプトを続けること)は非常に危険な賭けになる」
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