新型XSR900のデザイン「80~90年代ヤマハ車ファンにとってたまらない」
フルモデルチェンジしたXSR900は、ネオクラシックの外観をまとう最新ロードスポーツモデルだ。
「ノスタルジックさをただ強調したわけではない。ロードスポーツとして非常によく出来ているのだ。販売開始から間もないが、ヤマハはこれによって大成功を収めるに違いない」
イギリス人ジャーナリストでマン島TT参戦レーサーでもあるアダム・チャイルド氏は、新型の印象をそう語る。
日本では6月30日に発売となる新型XSR900の試乗レポートを早速紹介したい。
【画像19点】新型ヤマハXSR900の全車体色、改良ポイントを写真で解説!
ヤマハは1980年代前半から90年代前半にかけて製作した数々のバイクのオマージュとして、MT-09をベースとした「XSR900」を発表した。しかし単なる外観の変更にとどまらず、フレーム、サスペンション、エンジンは新開発のものに。また、6軸IMU(慣性計測装置)が搭載され、そのデータを活用する数々の電子制御デバイスも盛り込まれている。
クラシカルな外観としつつもヤマハらしい先進性を備えたルックスを踏襲した新型XSR900は、その時代を知っている人々にとっては背筋がゾクッとするほどの強い感動の記憶を呼び覚ますだろう。フレームはかつての「デルタボックス」にも見える。
デルタボックスといえばTZR250で、クリスチャン・サロンが走らせたGPマシン、YZR500を彷彿とさせるマシンだった。私の友人たちは初期のFZR1000に乗り、19歳だった私はFZR750 Genesis(FZR750の欧州仕様名)を手に入れ、デルタボックスフレームを磨いたものだった。長くて平らな燃料タンクと特徴的なツインスパーフレームのヤマハは、私の青春のバイクであり、あの頃のバイクの世界の中心だったのだ。
繰り返すが、XSR900はそんな時代をオマージュすることで中年ライダーたちの琴線を刺激するだけのバイクではない。120psを発生する水冷並列3気筒エンジン(ヤマハはこのエンジンをクロスプレーン3気筒=CP3と呼ぶ)はMT-09ベースだが、前後サスペンションはXSR900専用設計だし、スイングアームも延長されている。
新たな電子制御デバイスとして、コーナリングABS、トラクションコントロール、スライドコントロール、ウイリーコントロールを備える。さらに3種のライディングモード、4種のパワーモード、アップダウン対応のクイックシフター、クルーズコントロールも標準装備される。
メディアローンチに参加した私たちは、この非常にモダンなミドルクラスのネオクラシックネイキッドを走らせるため、イタリアのトスカーナへ向かった。
新型XSR900のエンジンフィーリング「鋭い加速力はあるも、扱いやすい120馬力」
エンジンは、最高出力120ps/1万rpm、最大トルク9.5kgm/7000rpmという性能。トルク特性は柔軟でフラットで、魅力あふれる優れたエンジンだ。最新環境規制「ユーロ5」にも対応している。
従来型よりストロークが3mm延長され、排気量は846ccから888ccへ拡大、重量は1.7kg軽くなっている。従来型と比較すると、ピークパワーは3%、ピークトルクは6%、燃費は9%も向上しているという。
XSR900の排気音には、3気筒ならではの独特さがある。いや、排気音というよりは吸気音がその個性を作り出している。とくにスロットルを開けたときにエンジンが空気を吸い込む「うなり」は、日本のレトロなバイクらしさはまったくない。トンネルに入ると、XSR900のサウンドをより楽しむのを我慢できず、ついエンジン回転数を上げてしまったほどだ。
3種のライディングモードうち、2種はプリセットされており、もうひとつはライダーの好みに設定できる。いずれのモードでもスロットルレスポンスに合わせ、ABS、トラクションコントロール、ウイリーコントロールが同時に変更される。また、パワーモードは4種から選択可能だ。
ライディングモード1はスポーティな味付けがされており、エンジン出力は最大に設定され、ややシャープな印象だ。スロットルレスポンスの鋭さを楽しめる人もいるだろうが、一般道では持て余す場面も多く感じられた。その点、ライディングモード2のソフトなスロットルレスポンスのほうが私の好みに合っていたし、おおらかさがあって使い勝手も良かった。このほうがXSR900のキャラクターを引き立てるのにも適している。
パワーモードを変更したいときは、すっかりとヤマハのお馴染みとなったハンドルスイッチボックスのホイールとボタンを使ってメニューに入ればいい。
パワーモード3は市街地走行に最適なパワー特性だが、パワーモード4はスロットルがゴムバンドで留められたように思ってしまうほどレスポンスが遅く、トルクも感じられない。ちなみに、私はテスト中の9割をパワーモード2を使って走っていた。
(編集部註:1が最もスポーティ、数字が大きくなる順に穏やかな特性となる)
これらは従来型XSR900には搭載されていなかった機能だ。スロットルレスポンスやエンジンパワー、電子制御デバイスを好みに応じて設定できる機能は大きな魅力になるはずだ。コーナリングABSやトラクションコントロールは常にバックグラウンドでスムーズに動作しているから、アグレッシブに走っているときでも気にならないし、何ならウイリーしながら走ることもできる。
難点といえるのは、ウイリーコントロールとスライドコントロールは停車中にしか解除できないことだ。
200psのバイクが当たり前になった現代だが、XSR900の控えめな120psに物足りなさを感じることは一度もなかった。扱いやすいパワーと豊かなトルクを持っていて、その気になればこのバイクはとても速い。スロットルを開けるときに油断すると腕が伸び切ってしまうほどの鋭い加速力があるのに、扱いにくさは感じられない。パワーとマナーのバランスが絶妙だ。
CP3のザラリとしたエンジンフィーリングも特徴的だ。サーキットを走るのわけではないのだから、これ以上は何も要らない。
新型XSR900のハンドリング「俊敏だが扱いやすさもある」
従来型から大きく進化したのはエンジンや電子制御デバイスだけではない。新開発のアルミツインスパーフレームは、従来比で2.3kgの軽量化と50%の剛性アップが図られた。やはり新開発のスイングアームも剛性を向上したうえで59mm延長され、ホイールベースは55mm長い1495mmとなっている。
スイングアームとホイールベースの延長、ステップはさらに後方にセットされたことで、ライディングポジションも後ろ寄りに移動した。
従来型よりも長く、平らになってクラシックらしさを強調した燃料タンクへの対応が要因のひとつだ。これらの延長に対応すべく、リヤショックのスプリングを硬めとし、さらにダンピングを抑えるセッティングとしている。同時にフレームのステアリングヘッドパイプ位置を30mm下げることで、スイングアームとホイールベースを延長したにもかかわらず俊敏なハンドリングを保っている。
フロントフォークは全長を短縮しているがストローク量は130mmと変わらず、よりフレキシブルな動作を可能としている。ステアリングヘッド角とトレールの長さはMT-09と同じ設定。ホイールが軽量化されことによってハンドル操作は軽い。
走らせてみると、ヤマハが新型XSR900の走行性能バランスの調整に注力してきたことがよく分かる。激しい走りをしていても素晴らしく安定しているのだ。純正装着タイヤのブリヂストン・バトラックスハイパースポーツS22とヤマハが作り込んだ車体は、優れたグリップとフィーリングをもたらす。
車体とサスペンションの動きがダイレクトに伝わってくるし、コーナー進入時に車体を傾けていくときの感触は前衛的なほど容易だ。気軽に飛び乗れるイージーさを備えている。
綺麗に舗装された路面から、凸凹に荒れた路面、市街地から高速道路までさまざまな道路を走ったが、メーカー出荷時のフルノーマルのXSR900には欠点が見当たらない。乗った9割のライダーがノーマルセッティングのままで十分と感じるのではないか。
しかし『エンドウ豆の上に寝たお姫さま』のような繊細さを持ち合わせている私は(編集部註:アンデルセン童話のひとつで、20枚の敷布団の下に一粒のエンドウ豆が隠れていても違和感を覚える感覚の姫が登場する物語)、フロントフォークにキツさを感じる場面がときどきあった。
XSR900はフロントフォークを縮めてコーナーに進入していくと、より気持ちよく曲がっていくが、セッティングがやや硬いのだ。とはいうものの、ありがたいことにフロントフォークはフルアジャスタブルだから、セッティングをソフトにすれば解決する。
一方でリヤサスペンションは柔らかく緩やかな特性で、路面からの反応を見事に伝えてくる。そのぶん、身体が大きく体重のあるライダーだったり、よりスポーティなタイヤを装着して走りたいと思うライダーにとってはソフトすぎ、もう少し減衰力を強めたいと感じるだろう。
フロントブレーキでは、ボッシュ製9.1MPコーナリングABSとブレンボ製ラジアルポンプマスターシリンダーを装備している。また、エンジンブレーキコントロールは備えていないが、スリッパークラッチが標準装備されたことも大きな進化といえるだろう。コーナリングABSをオフにして、これまでのようなバンク角に連動しない従来のABSのみとすることもできる。
サスペンション同様、ラジアルマウントの4ピストンキャリパーにも文句のつけようがない。ブレーキレバーは調整式で、低速でのフィーリングも卓越しているし、いざというときには強烈なストッピングパワーを発揮する。完全なドライコンディションではABSが介入することはなかったし、コーナリングABSの採用はすべてのライダーが歓迎するにちがいない。
ただし、サーキットで激しいブレーキングをするなら、ときおり小さな木片のように感じられたパッドを交換したほうがいいだろう。
新型XSR900電子制御デバイス「ABSやトラクションコントロールはバンク角連動式に」
このたびXSR900に搭載された6軸IMUは、スーパースポーツYZF-R1のものよりも軽量かつコンパクトでありながら1秒間に125回もの演算を行う最新型。つまり、従来モデルから大幅の進化を遂げている。
走りをサポートする電子制御デバイスとしては、コーナリングABS、トラクションコントロール(TCS)、スライドコントロール(SCS)、リフトコントロールシステム(LIF)、ウイリーコントロールがある。
トラクションコントロールとスライドコントロールを有効にしたままウイリーコントロールをオフにすることができるし、ABS以外の電子制御デバイスはすべて無効にすることもできる。
1万ポンド(編集部註:イギリスでの価格で日本円にすると約166万円となるが、日本国内の価格は121万円)をわずかに上回るだけ価格のバイクに、これほど充実した電子制御デバイスが標準装備されるのだ。
新型XSR900の快適性「見た目ほどキツくないライディングポジション」
ライディングポジションは微調整が可能だ。ハンドルバーはクランプ内で回転させることで、ハンドルグリップ位置を前方9mm、上方4mmへ調整できる。
ステップは上方へ14mm、後方へ4mm移動させられる。シート高は810mmで、現行型MT-09よりも15mm、従来型XSR900よりも20mm低い。これらがもたらすライディングポジションはキビキビとバイクを走らせるのに適しているが、かつての「XSR900アバルト」のようなカフェレーサー的なものではなく、市街地走行でも違和感がない。
私はごく自然な乗車姿勢でライディングを楽しめたし、適度な前傾姿勢は高速道路でも快適だった。クイックシフターはスムーズに動作するし、クルーズコントロールがあるのでクルージングも楽だ。
バーエンドミラーはこれまでに私が経験したものとは異なり、後方視界をしっかりと確認できる。3.5インチのフルカラー液晶ディスプレイはやや小さめだが、表示される情報は明確でシンプルだ。
新しくなった燃料タンクの容量は、従来型XSR900やMT-09と同じ14Lだ。ヤマハによれば燃費(WMTCモード値)は20km/Lで、気合を入れた私の走行で17.9km/Lだった。航続距離は240~250kmといったところだろう。
およそ164kmを走行した後、デジタルメーターの燃料計のバーは、5本から2本になっていた。実際には200kmほど走ったら給油する……という具合か。
テストをはじめて数時間後、シートのスポンジがやや薄いことと、パッセンジャーがつかむものがグラブバーではなくシートベルトのみということに気付く。
足着きがいいのは確かだが、シートの薄さは気になる点だ。しかしヤマハ純正アクセサリーにはシートやグラブバーはない。もっとも身長170cmの私にとってこの低いシートはありがたく、両足をしっかりと着地できる感覚は捨てがたい。
そのぶん、180cm以上ある人にとっては窮屈に感じるかもしれないし、体重のある人はシートスポンジの薄さが気になるだろう。
ヤマハ XSR900(2022年モデル)総合評価
ネオクラシックであるXSR900の評価はライダーの年齢によって異なると思うが、その点で私はかなり気に入っている。車体のスタイリングも燃料タンクの形も私の好みだ。
かなり計算高く作り込まれたレトロな魅力を除外してみたとしても、XSR900が非常によくできたロートバイクであることに変わりはなく、華麗に響き渡るトリプルサウンドに魅了されることだろう。そして優れた電子制御デバイス群はライダーを安全に楽しませてくれるし、エンジンは一般公道ではあり余るほどのパワーとトルクを持っている。2022年モデルXSR900はヤマハにとって大きな成功といえる。
身体が大きく体重のあるライダーにとってはもっと快適なバイクを求めるかもしれないが、だからといってXSR900の欠点を挙げることは困難だ。
バイクにとってハンドリングや走行性能が優れていることはもちろんだが、それらがライダーに何を感じさせてくれるか、どれほどの楽しさをもたらしてくれるかが重要であることを、私たちはしばしば忘れる。
XSR900を走らせている間、私はずっと笑顔のままだった。これ以上の何がロードバイクに必要だろうか。
試乗レポート●アダム・チャイルド 写真●ヤマハ 編集●上野茂岐
■ヤマハ XSR900主要諸元
*諸元は日本仕様のもの
[エンジン・性能]
種類:水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.0mm 総排気量:888cc 最高出力:88kW(120ps)/10000pm 最大トルク:93Nm(9.5kgm)/7000rpm
[寸法・重量]
全長:2155 全幅:790 全高:1155 ホイールベース:1495 シート高810(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:193kg 燃料タンク容量:14L
[車体色]
ブルーメタリックC、ブラックメタリックX
[価格]
121万円
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